避けられる戦争 ケビン・ラッド著

避けられる戦争 ケビン・ラッド著
管理された米中冷戦の勧め?
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD195LX0Z10C24A4000000/

『著者は中国通職業外交官であり、元オーストラリア首相・外相(労働党政権)であり、習近平研究でオクスフォード大学から博士学位を取得した。現在駐米オーストラリア大使である。中国と米中関係を語るなら、著者こそまさに政治、外交、学問の三拍子そろった最適の人物である。

評者から見ても、著者の中国理解および米中関係に関する記述は、些細(ささい)な間違いはあれども、全体として首肯できる。著者はまさにプロのチャイ…

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『著者はまさにプロのチャイナ・ウオッチャーなのである。

本書は、著者が習近平を含む各国の指導者と交わした会話、長年の観察、丹念な文献読解に基づいて書かれており、文章は平易で読みやすく、全篇(ぜんぺん)が示唆に富んでいる。

著者は「習近平の世界観」を、習近平と党の中心性からルール・ベースの世界秩序を変えることまで10の利益の同心円で理解しているが、これらは米国との間で摩擦を引き起こしている。

しかも米中は「相互確証誤解」の状態にある。著者は衝突コースに進む5つのシナリオを提起し、警告を発している。いずれのシナリオでも、戦後の情況は悲惨だからである。

そこで、著者は米中対立の処方箋として
(1)双方が相手の譲れない戦略的レッドラインを理解して誤算による衝突を避ける、

(2)米中ともに、対立に使うエネルギーを自らの国力向上に振り向ける、

(3)米中が世界と自国の利益を高める領域で戦略的協力を継続する余地を生み出す

という三本柱の「管理された戦略的競争関係」を提唱している。

つまり、著者は戦略的競争そのものを回避すべきだというナイーブな議論ではなく、競争を衝突にエスカレートさせない管理方法を提起している。

「管理された戦略的競争関係」の目的は、米中が熱戦に到(いた)ることを避けることだ。ただこれでは、あたかも冷戦後期の米ソ関係が手本であるかのようだ。冷戦の最大の特徴は、対立が不可避でも、大国同士の熱戦が起きにくかったことにあるためだ。

とはいえ、米ソでさえ、キューバ危機のような危険な経験を共有し、やっと危機管理や軍備管理という文字通り「管理」の境地にたどり着いた。米中に同じ事を期待できるだろうか。

否、それでもなお、本書の提案には意義がある。なぜなら、他によりよいアイディアがまだ見つかっていないからである。

《評》東京大学教授 松田 康博 』