LNGの勝者カタール、中東仲介に嫌気 板挟みのガザ交渉

LNGの勝者カタール、中東仲介に嫌気 板挟みのガザ交渉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR18E3H0Y4A410C2000000/

『2024年4月22日 2:00

【カイロ=岐部秀光】イスラエルとパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスの仲介役を果たすカタールが、負担の大きさに不満を強めている。独特な立ち位置のカタールの役割を国際社会は重視するが、板挟みによる損失の大きさも目立ってきた。

ムハンマド首相兼外相は17日、ガザでの戦闘休止の交渉で「仲介役としての役割を再検討している」と述べた。「仲介作業が狭い政治的な利益のために悪用されている」と訴えた。

これ…

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『イスラム教義を政治運営に生かそうとする「政治イスラム主義」の理念を推進してきたカタールはタリバンやハマスなどとの強い結びつきがある。親米国でありながら、イランとも友好な関係がある。

ガザの休戦をめぐる交渉では戦闘休止の期間やハマスが解放する人質の数、イスラエルが釈放するパレスチナ政治犯の数など双方の要求をカタールが伝達する。双方の主張のへだたりが大きく交渉は膠着し、カタールの板挟みが際立っていた。』

『カタールの外交戦略の根っこには隣の大国サウジアラビアの脅威があった。人口規模は10倍以上で軍事力にも圧倒的な格差がある。潜在的な脅威から身を守るため、国際社会にその存在を発信する必要があった。』

『カタールにある米軍の空軍施設アルウデイド基地の建設は、いざという時の米国の助けを頼みにしたからだ。アフガン戦争やイラク戦争ではサウジの基地を使いにくかった米軍に開放を申し出た。』

『カタールは2020年の一部アラブとイスラエルの国交正常化合意「アブラハム合意」に参加していない。だがイスラエルとの親密な関係はかねて知られてきた。』

『思わぬかたちで小国カタールの存在感を高めたのは、気候変動対策をめぐるエネルギー市場の環境変化だった。

脱炭素社会への移行は、一足飛びのエネルギー転換が困難なことがわかってきた。化石燃料でありながら環境負荷の小さい「クリーンエネルギー」であるガスの需要が急増した。石油と異なり天然ガスの埋蔵地は一部の国に集中しており、その市場支配力は絶大だ。』
『その名を必死で世界にアピールしなくてはならなかった時代とは様変わりした。ロシアによるウクライナ侵略後には消費国の要人らが「カタールもうで」をして供給を要請するLNG争奪戦が繰り広げられた。

17〜21年にカタールはサウジやアラブ首長国連邦(UAE)から一方的に断交を突きつけられた。21年の米軍のアフガニスタン撤退ではイスラム組織タリバンとの対話の窓口として存在感を誇示していた。

孤立を脱したのは、エネルギーの重要なプレーヤーとなったカタールを支援する欧米の外交圧力があったからだ。』

『カタールがガザの仲介役を完全に降りる可能性は低い。一方でイスラム主義勢力への支援を停止することも考えにくい。

ムハンマド首相の発言は「いつまでもカタールが損な役回りを続ける義理はない」というメッセージだと理解できる。天然ガス産出国として脱炭素時代の「勝者」となった自信がにじむ。

カタールは台頭する新興・途上国「グローバル・サウス」の一部であるという主張こそ控えているものの、自己主張を強める重大なミドルパワーの国のひとつだ。その変化は多極化により複雑さを増す世界情勢の一端を映す。』