【中国VSブラジルの貿易論争】経済悪化の中国が世界に及ぼす影響とは?
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33466
『2024年4月8日
フィナンシャル・タイムズ紙の3月17日付け記事‘Brazil launches China anti-dumping probes after imports soar’が、ブラジルが中国の反ダンピング調査を開始したことを報じている。要旨は次の通り。
(Racide/gettyimages)
ブラジル産業省は、産業界からの要請に基づき、中国による工業製品ダンピング疑惑について、過去半年間に金属薄板、鉄鋼材、化学製品、タイヤなどに関して、少なくとも10余りの調査を開始した。
今般のブラジルの措置は、世界第2位の経済大国、中国が不動産セクターの減速と内需低迷の中で生産能力過剰に苦しんでおり、世界が中国からの輸出の洪水に備えている時にとられた措置である。経済活性化のため、中国は先進的な製造業、特に太陽光発電、電気自動車、バッテリーに投資している。
中国の輸出は今年1~2月の間に7.1%増加し、輸入の伸びを大きく上回った。中国の輸出価格下落が長引けば、中国と主要経済大国との貿易摩擦が高まる可能性がある。
中国税関のデータによれば、中国の対ブラジル輸出・輸入ともに、今年最初の2ヵ月間で3分の1以上増加した。
北京との関係を強化しつつ、国内産業を保護、発展させようとしている左派のルーラ大統領にとって、貿易摩擦はジレンマをもたらしている。昨年、大統領に返り咲いたルーラは、産業政策を経済戦略の中心に据えている。ブラジル政府としては、最大の貿易相手国であり、大豆や鉄鉱石などの商品を大量に購入している北京との対立を避けたいようでもある。』
『ブラジルの鉄鋼メーカーは、輸入した鉄鋼製品に対して、9.6%から25%の関税をかけるよう政府に要求している。中国からの鉄鋼と鉄の輸入は、2014年の16億ドルから昨年は27億ドルに増加した。中南米諸国は鉄鋼生産の主原料である鉄鉱石の世界有数の輸出国であるが、急増する安価な鉄鋼輸入は、ブラジル政府にとって頭の痛い問題だ。
また化学品とタイヤも問題になっており、産業省はここ数カ月、別個に調査を開始している。公式データによると、中国からの無水フタル酸の輸入量は、18年7月から23年6月までの間に数量ベースで2000%以上増加した。同期間、タイヤの輸入量は2300万本から4700万本へと100%以上増加し、その約80%は中国からであった。
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G20議長国ブラジルの頭痛の種
「世界の工場」として世界第二の経済大国となった「中国」は、この20年近くの間に、世界の多くの国にとって最大の貿易相手国になった。この記事は、「コロナ以降、中国経済の不調が深刻化し、生産設備が過剰となる中、安値攻勢で製品輸出を増加させ、他国経済に悪影響を与えるようになっている。そして、各国は対抗措置をとるために調査を開始した」と報じている。中国経済の悪化が世界に与える影響を把握する上で重要な報道である。
09年以降、中国は輸出入ともに、ブラジルにとって最大の貿易相手国となった。2位は米国である。23年、ブラジルから中国への輸出総額は、大豆、食肉、石油、鉄鉱石など1043億ドル(史上最高額)であった。
ブラジルの中国からの輸入総額は532億ドル(機械類・電気機器、紡織用繊維、化学工業品等)であり、ブラジルの対中貿易黒字額は500億ドルを超えている。中国が大豆など食料や天然資源の備蓄を増加させているのは、気候変動や有事に備えているからとも言われている。
記事では、ブラジルによる中国製品アンチ・ダンピング調査の開始に触れているが、中国は逆に24年2月、19年からブラジル産鶏肉に適用していたアンチ・ダンピング措置の撤廃を公表した。ブラジル国内を「分断」しようとする「中国らしい措置」である。
今年、ブラジルは主要20カ国・地域(G20)議長国であり、また、中国との国交樹立50周年を迎える。来年は有力新興5カ国で構成するBRICS首脳会議と第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)がブラジルで開催予定である。昨年、中国との二国間貿易において米ドル排除を決定する等、中国との一層の関係強化を期待しているルーラ大統領にとって、中国製品のダンピングは間違いなく「頭痛の種」である。』
『また、22年、中国のブラジル向け直接投資は、09年以来13年ぶりの低水準となった。報道によると、22年中国が投資すると公表していたプロジェクト(47億ドル相当)の内、実行されたのは28%にととどまった。その一方で、外国投資家にとって、対中投資のメリットの減少に伴い、ブラジルが魅力的な選択肢になっているとも言われている。
日本は絆を作れるか
今年1月、岸田文雄首相のブラジル訪問が予定されていたが、政治資金問題が発覚して中止となった。5月の連休時、経済協力開発機構(OECD)でのスピーチ後、ブラジルとパラグアイ(南米唯一の台湾承認国)訪問を検討中と報じられている。
実現すれば、安倍晋三首相以来10年ぶりの現役総理の訪問となる。安全保障分野における中国の脅威についてブラジルの理解を深めてもらうことに加え、メルコスールとの自由貿易交渉開始など経済分野での進展、ブラジル日系社会との「絆」強化策が打ち出されること等が期待される。』