中国は米国の衰退を待たず 台湾有事と毛沢東の持久戦

中国は米国の衰退を待たず 台湾有事と毛沢東の持久戦
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK230UG0T20C24A3000000/

『2024年4月2日 10:30

名は体を表す。「中国人民解放軍」も例外ではない。

言わずもがな、中国の軍隊である。ただし「中国軍」と呼ぶのはふさわしくない。中華人民共和国という国家でなく、中国共産党という政党に属する軍隊だからだ。

戦う相手は「党の敵」であり、必ずしも外国勢力とは限らない。もともと、共産党が国民党を倒すためにつくった軍隊だ。国内を含め敵の支配下にある人びとを解放する。それを任務とするから「人民解放軍」である。…

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『鄧小平が改革開放を進めた1980年代、解放軍を「国防軍」に改め、名実ともに国の軍隊に衣替えすべきだとの議論があった。それに対し、党内からは激しい反発の声が上がったという。

なぜ国防軍ではだめなのか。北京で暮らしていた20年ほど前、解放軍の歴史に詳しい研究者に尋ねたことがある。次の答えが返ってきた。「台湾を解放するまで、名前を変えるわけにはいかない」』

『解放軍の最も重要な任務は台湾の統一だ。それを悲願とする習近平(シー・ジンピン)国家主席は、解放軍に絶対的な忠誠を求めている。

習氏にすれば、解放軍の国軍化はありえない。台湾を取り戻すために、武力を使う選択肢は常に党の手中に置いておく必要がある。』

『問題は、習氏が現実にそのカードを切るリスクがどのくらいあるかだ。

防衛省の防衛研究所で解放軍の動向を分析する杉浦康之主任研究官の指摘が気になる。「解放軍が台湾に侵攻する可能性は短期的にみれば低くなったが、中長期的にはむしろ高まっている」』

『杉浦氏が注目するのは、ロシアのウクライナ侵攻が解放軍の戦略に与えた影響だ。

ロシア軍は精密誘導ミサイルやサイバーを使った攻撃でウクライナ軍を圧倒し、またたく間に勝利を手にする――。中国の軍事専門家が開戦当初に予想していたシナリオはことごとく外れた。

解放軍が受けた衝撃は大きかった。台湾に対しても、ロシア軍と同じような作戦を想定していたからだ。

遠隔で操作する最先端の兵器を使って攻めるだけでは勝てない。大規模な部隊を台湾に送り込み、市街戦も覚悟しなければならない。ウクライナ戦争から得た教訓だ。』

『米国には、解放軍が2027年までに台湾に侵攻する準備を整えるとの分析がある。だが、ロシアの失敗を踏まえて解放軍が「伝統的な戦争」に備えるには時間がかかる。杉浦氏は「27年には間に合わない」とみる。』

『一方、ウクライナ戦争をへて中国が核戦力の重要性を再認識した点は見逃せない。

ロシアのプーチン大統領はしばしば核の使用をちらつかせる。それが米国の直接介入を阻んでいる面は否めない。習氏が台湾有事の際、プーチン氏にならって核の脅しを考えてもおかしくない。

中国は急ピッチで核戦力の増強を進めている。』

『米国防総省によると、中国が持つ核弾頭の数は23年の500発超から35年には1500発に急増する見通しだ。杉浦氏は「米中の核戦力が拮抗すれば台湾有事の危険性は増す」と警鐘を鳴らす。

習氏が繰り返し読んだとされる毛沢東の文章がある。1930年代に記した「持久戦を論ず」だ。

このなかで毛は、日本軍に勝つには短期決戦を避け、敵の体力が弱まるまで待てと説いた。「戦わずして勝つ」を旨とする孫子の兵法から学んだ強者との戦い方だ。』

『少し前まで、中国の国内総生産(GDP)は2030年ころに米国を抜くとみられていた。習氏を含む中国人の多くは米国が放っておいても衰退し、台湾を守る力は弱まると考えていたはずだ。

実際は、米国に追いつく前に中国の成長力に陰りが出てきた。人口の減少が始まり、深刻な不動産不況を起点とする経済の苦境は出口がみえない。時間は中国に味方せず、毛沢東流の持久戦は通用しにくくなった。

米国が弱くなるのを待っていては、台湾を統一する時機を逸してしまう。習氏がそう判断したとき、台湾有事は現実味を増す。』