バイデン・トランプ氏が国境へ 不法移民巡り強硬策競う
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN291OC0Z20C24A2000000/
『【イーグルパス(米テキサス州)=市原朋大、ブラウンズビル(同)=山田遼太郎】バイデン米大統領とトランプ前大統領が29日、米南部テキサス州のメキシコ国境を訪れた。米国内で不法移民への懸念が急速に高まり、大統領選の主要な争点となる中、両者ともに対策の強化を訴えた。テキサス州による独自の移民取締法の施行を連邦裁判所が阻止するなど対立も深まる一方だ。
不法移民は過去最多
バイデン氏は29日、メキシコ湾岸…
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『バイデン氏は29日、メキシコ湾岸の都市ブラウンズビルを訪れ、国境となっているリオグランデ川の河畔で国境警備隊を視察した。
メキシコとの国境の都市ブラウンズビルに到着し、市長㊧らと談笑するバイデン米大統領(2月29日、テキサス州)
警備隊施設内で演説したバイデン氏は「大統領就任の初日に、移民対策法案を提出したが議会が行動を起こさなかった」として、党派対立が不法移民増加の温床になっていると批判した。入国管理や国境警備の人員拡充が不法移民の流入を防ぐことにつながると主張し、超党派で起案した国境警備法案の成立が不可欠だとの見方を示した。
バイデン氏は、トランプ氏が同日に国境を訪問していることに触れ、「政治的な駆け引きをやめて、一緒にやり遂げよう」と呼びかけた。超党派の国境警備法案の成立を阻止しようと圧力をかけているとされるトランプ氏をけん制した。
一方、前大統領はテキサス州のアボット知事を伴ってリオグランデ川の河川敷を視察し、「アメリカは移民犯罪に蹂躙されつつある。私には彼ら(不法移民)が戦士のようにみえる」と述べ、不法移民による犯罪の凶悪化を強調した。
国境付近で講演するトランプ前大統領(2月29日)=AP
ジョージア州で20代の看護学生が遺体で発見された事件の容疑者は、ベネズエラから不法入国していた移民だった。米メディアも連日大きく報道しており、トランプ氏はこの事件や他の凶悪事件を引き合いに、バイデン政権の政策が不法移民による凶悪な犯罪を助長していると訴えた。
イーグルパス市のロドルフォ・カルドナ危機管理センター長は「現政権の不法移民に対するオープンな政策が大量の流入を招いているのはたしかだ」と話す。昨年10月にバイデン氏が「国境の壁」建設再開を表明して以降も、大量の不法移民がメキシコ国境から流入し続けているからだ。
米南西部の国境を越えて拘束・保護された不法移民は23年度(22年10月〜23年9月)に247万人超と3年連続で過去最多を更新し、23年12月には単月で過去最多の30万人に達した。かつてはメキシコや南米各国の流入がほとんどだったが、経済が低迷期に入った中国などから中南米を経由して米国を目指す不法移民も増えている。
バイデン氏支持のデボラ・モラレスさんは「国境には壁があり、薬物輸入なども取り締まっている。国境が不法移民に開いているという誤解を解いてほしい」と話す。一方、トランプ氏を見ようと駆けつけたルイス・デラガルサさんは「移民には賛成だが不法移民はダメだ。バイデンは国を辱めている」と興奮気味に話した。
移民問題、「最も重要な課題」に
米ギャラップの2月の調査によると「この国が直面する最も重要な問題」に「移民」と回答した割合は28%と最多で、1月の20%から増加した。「政策」(20%)、「経済全般」(12%)、「インフレ」(11%)などを引き離し、急速に関心が高まる。
米国とメキシコの国境に設けられた鉄製のフェンス(2月29日、テキサス州ブラウンズビル近郊)
11月の大統領選で直接対決の可能性が高い両氏が同じ日に同じ州で支持を訴えたのは、テキサス州が不法移民問題のホットスポットとなっているためだ。共和党のアボット知事はバイデン政権の移民政策を批判する急先鋒(せんぽう)となってきた。
米連邦裁判所は29日、テキサス州が独自に不法移民を拘束できる州法の施行を差し止める決定を下した。同州はメキシコとの国境に流れる川の中間地点に泳いで渡るのを阻止するブイを設置し、岸には蛇腹のワイヤも設けて移民の流入阻止を目指してきた。同州は不服を申し立てるとみられる。
同州などは移民に寛容な州に向け、大型バスで不法移民を大量に送りつけてきた。こうした不法移民を受け入れた州や都市は軒並み財政が悪化しており、地元住民の不法移民に対する感情の悪化を招いている。
ニューヨーク市の移民関連の予算は24年度が約42億ドル、25年度が約49億ドルと巨額で、民主党のアダムズ市長は法律違反の疑いのある移民も保護してきた政策を転換する考えを示した。移民に寛容な「サンクチュアリ・シティー(聖域都市)」として知られる同市でも対応が難しくなっている。
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菅野幹雄
日本経済新聞社 上級論説委員/編集委員
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ひとこと解説 世界最強国の大統領の座を争う新旧対決の主役が、同日にメキシコ国境入りするという注目の「一騎打ち」です。
直近も増え続ける不法移民の流入、そして移民問題に対する米有権者の懸念の急激な高まりは、いずれも現職のバイデン大統領にとって不利な材料となる情勢です。
巻き返しをねらう守勢のバイデン氏が何を語ろうとも、共和党のアボット州知事を従えたトランプ氏の現政権に対する声高な批判にかき消される構図となります。
トランプ陣営としてはここに国民の関心をできるだけ引き付け、選挙戦に生かそうとしたいところでしょう。
一方で米世論が移民全体に対して否定的な態度をとるほど、賃金上昇を招いている人手不足問題の緩和は遠のきます。 2024年3月1日 7:30 』