東南アに原発導入機運 タイやフィリピンが小型炉検討
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS2054T0Q4A320C2000000/

『2024年3月25日 19:28
東南アジアで原子力発電所の導入機運が高まっている。タイは新たな電源計画に小型原発の導入を盛り込む方針で、フィリピンも2030年代の稼働を目指す。原発は経済成長と脱炭素を両立する手段と目されるが、安全な運用に懸念が残る。
タイ政府は9月に公表する国家エネルギー計画(2024〜37年)に小型原発の導入を盛り込む方針だ。発電容量は7万キロワットで、候補地の選定に向けて関係機関と協議するという。
タイは…
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『タイは2000年代以降に原発の設置を掲げたが、東京電力福島第1原発事故などの影響で計画を棚上げしていた。再び原発導入に前向きとなった背景には次世代原発「小型モジュール原子炉(SMR)」の登場がある。
SMRは従来型の原発に比べて出力が小さく、安全性に優れるとされる。米英や中国など各国が開発を競っている。22年11月には米国がタイのプラユット政権(当時)に技術支援を表明した。』
『タイのセター首相は14日にバンコクでレモンド米商務長官と会談し、原発導入の可能性について協議したと明らかにした。「安全性について研究し、地域の人々の声を聞く」(セター氏)とし、SMRの導入を軸に米国と協議を続けるとみられる。
原発推進の背景には、経済成長で電力需要が増える一方、主要エネルギー源である自国のガス田が枯渇に向かうことがある。タイ政府は50年にカーボンニュートラル(温暖化ガス排出の実質ゼロ)実現も掲げる。ガスや石炭に代わる安定電源を持つ必要がある。』
『フィリピンも同様の課題を抱えており、30年代初頭の原発稼働を目指している。23年11月に米国と民間の原発利用に関する協定を結んだ。2国間で核物質や設備、情報などを移転できるようにする。
導入はSMRが有力視される。米新興企業のニュースケール・パワーが31年までに最大75億ドル(約1兆1300億円)を投資する計画だ。
フィリピンではかつてマルコス大統領の父である元大統領がルソン島南西部に原発を建設したが、1986年の民主化革命や旧ソ連のチェルノブイリ原発事故を契機に計画が停止された。マルコス氏にとって原発稼働は父の悲願を実現することも意味する。』
『東南アジア最大の人口約2億7000万人を抱えるインドネシアも、30年代初頭に出力100万〜200万キロワットの原発の導入を計画する。同国は現状では電源構成の約6割を石炭に頼る。60年のカーボンニュートラル実現を掲げる。』
『各国とも再生可能エネルギーの導入も進めるもののコスト面などの課題は大きい。経済界では「原発は未来の成長に必要」(タイ財閥最大手チャロン・ポカパングループのタニン・チャラワノン上級会長)といった待望論が広がる。』
『もっとも、東南アジアでは原発の稼働実績がなく、運用の安全性に懸念も根強い。タイでは23年3月に火力発電所で人体に有害な放射性物質「セシウム137」を紛失した事案が判明。後日発見されたが、管理のずさんさを露呈した。
軍事政権下のミャンマーはロシアと原子力分野の協力を深めている。国際社会で孤立を深め、国際機関などの監視も行き届きにくいミャンマーでは、原子力の関連技術を軍事転用する可能性も指摘されている。
シンガポールの南洋理工大学の古賀慶准教授は「東南アジアが原発技術の輸出を巡る大国間競争に巻き込まれれば、域内の分断につながる恐れがある」と指摘。原発の安全な運用と軍事転用の防止に向けて、独自の規範をつくることが重要だと説く。
(バンコク=井上航介、マニラ=志賀優一)』