輸入タイヤ販売会社、「寝耳に水」の破産 急成長で綻び

輸入タイヤ販売会社、「寝耳に水」の破産 急成長で綻び
企業信用調査マンの目
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC085EA0Y4A300C2000000/

『コロナ禍以降、タイヤの調達環境は大きく変わった

輸入タイヤ・ホイール販売のジラフインターナショナル(大阪市)は2023年8月、大阪地裁から破産手続き開始決定を受けた。格安のタイヤで急成長していたが、新型コロナウイルス禍と為替の円安、ウクライナ危機で事業環境が急速に悪化した。粉飾決算により金融機関への支援が要請できなかったことも追い打ちをかけたようだ。

破綻した同業者を吸収して急成長

ジラフインターナショナルの代表はもともと輸入タイヤ・ホイール

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『ジラフインターナショナルの代表はもともと輸入タイヤ・ホイール販売を手がけていたエクシブ(大阪市)に勤務しており、11年にそこから独立する形で設立した。独立後も両社は取引関係にあったが、15年にエクシブが経営破綻した。

そこでジラフインターナショナルはエクシブから在庫商品を格安で譲り受け、さらには中国最大手のタイヤメーカーである「トライアングル」の日本輸入総代理店としての地位を引き継いだ。これを機に事業規模を一気に拡大していった。』

『ジラフインターナショナルは中国や台湾のメーカーが製造する、いわゆる「アジアンタイヤ」を主に手掛けていた。日本では品質・性能面での信頼性が確立されていないものの、有名メーカー品の半額近くにもなるという安さが最大の特徴だった。

トライアングルをはじめ、「サンワイド」「マジーニ」「ジョイロード」「ワンリ」といった、多くの日本のユーザーにはあまり耳慣れないようなブランドをそろえた。特にスポーツカーやミニバン向けなど、カスタムユーザーからの支持が厚く、スタッドレスタイヤも扱っていた。』

『EC(電子商取引)モールに「コレクションタイヤ」「タイヤ業販スーパー」の店名で出店したほか、自社サイト内でも取り扱い、徹底した低価格戦略によって躍進した。「ヤフオク! ベストストアアワード」の「自動車タイヤ、ホイール部門」で16年以降3度にわたりベストストアを受賞した実績もある。17年7月期には年間売上高が10億円を超え、20年7月期には20億円まで増えた。

一方、価格勝負のアジアンタイヤ市場は競争も激しく、18年7月期以降は粗利益率が低下していった。売り上げの増加に連動して在庫も増え、物流会社に支払う倉庫保管料も収益を圧迫するようになった。』

『円安・調達難で事業環境が悪化

こうしたなか20年からのコロナ禍で世界の物流網が混乱し、タイヤが入荷しにくくなったうえ、海上運賃の上昇で仕入れコストも高くなった。その後、為替が円安方向に振れたことも、収益力の低下に拍車をかけた。

申立書によれば、ロシアによるウクライナ侵攻で、欧州からスタッドレスタイヤの供給を閉ざされたロシアが、中国のトライアングルに供給を要請した。

同社がサマータイヤの製造を止めてスタッドレスタイヤの供給に踏み切ったことで、ジラフインターナショナルへの商品供給が大幅に減った。

23年に入り、状況はさらに悪化したようで、8月18日に突如として事業を停止した。』

『取引のあった金融機関は10行に上り、借入残高は12億円を超える水準となっていた。ただ大半の金融機関が債務者区分を「正常先」としていた。

ある金融機関は事業を停止した8月18日に短期資金の借り換えを実行する予定だったという。突如として事業を停止し、弁護士からの通知が届いたことで、盆明けでゆったりモードだった金融機関担当者が慌てふためいたのは言うまでもない。

もし主力仕入れ先からの供給が完全に途絶えたのであれば、破産という選択はやむを得ないかもしれない。

しかし今回のケースは一時的な供給縮小である可能性が高く、他メーカー品での代替が利かないわけではない。

借入金の返済を猶予してもらうなどで急場をしのぎつつ、状況が好転するのを待つという選択肢もあったはずだ。

それでもそういった金融支援要請の動きはみられず、取引金融機関にもジラフインターナショナルの破綻はまさに「寝耳に水」だった。』

『粉飾決算で金融機関を頼れずか

金融機関に支援を要請しなかった理由は何か。どうやら粉飾決算にあったようだ。金融支援を受ける際のデューデリジェンス(資産査定)で粉飾が明るみに出れば、取引金融機関からの糾弾は免れない。

粉飾の手口など詳細は分かっていないが、22年7月期決算を見ると、売上高26億300万円に対し、棚卸し資産(在庫)が7億4700万円で、棚卸し資産回転期間は3.4カ月。同じ規模の同業他社平均(1.5〜2カ月程度)と比べ、在庫水準はほぼ2倍と異常値を示している。

しかしながら倒産時に判明した実態の在庫水準は約2億円(回転期間で1カ月未満)であったことを考えれば、売上高を水増しし、利益が出ているように見せるために在庫も水増ししていたという仮説にたどり着く。

「急成長 → 在庫急増 → 借入金急増 → 自己破産」という流れは、実質的な前身会社であるエクシブが15年に経営破綻した時と驚くほどよく似ている。エクシブはタイヤのインターネット販売という新ジャンルを開拓した会社だ。』

『「第二会社方式」が活発化する公算大きく

エクシブはヤフオク!ベストストアアワードの自動車タイヤ、ホイール部門で4年連続のベストストア受賞歴を有するなど、激安タイヤの販売で急成長を遂げた。在庫を積み増し、システムにも投資していたが、突如事業を停止した。

エクシブで痛い思いをした金融機関の中には、ジラフインターナショナルを事実上の第二会社とみなし「絶対に取引はしない」という姿勢を明確にするところもあった。

今後金融債務を旧会社に残して清算し、事業そのものは他社へ譲渡し再生を目指すという、いわゆる第二会社方式による事業再生が活発化する公算が大きい。

その際、新会社に継承されるビジネスモデルへの評価を考えるうえで、同社の破綻事例は参考になるに違いない。』