三菱UFJリサーチ&ZDサルティつグ
2023年10月3日
経済レポート
バングラデシュ経済の現状と今後の注目点
〜世界第8位の人口を擁する南アジアの隠れた有望国〜
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2023/10/report_231003_01.pdf
調査部主任研究員堀江正人
〇 南アジアのバングラデシュは、国連が認定する後発開発途上国(LDC)に分類される貧しい国であるが、
世界第8位の人口(1.7億人)を有し、マクロ経済が堅調であることなどから、有望な新興国として評価さ
れている。









例えば、バングラデシュは、BRICSほどではないが大きな潜在性を秘めた新興国群である「ネ
クストイレブン」の一つに位置付けられている。
〇 バングラデシュでは、近年、生活水準の向上や投資の拡大などが着実に進んでいる。所得水準の向上と
人口の多さを考慮すれば、今後、外資企業にとって、バングラデシュの国内市場をターゲットとするビジ
ネス・チャンスが増えることも期待できそうだ。







〇 バングラデシュのインフレ率は、長期的に見れば、同じ南アジア地域のインドやパキスタンに比べて安定
的に推移してきた。インフレ率は、2015年頃から6%前後で推移してきたが,2022年以降急上昇し、
2023年5月には9.9%と2ケタ台直前に達した。中銀は2022年5月に政策金利を約2年ぶりに引き
上げて5.0%とし、その後も追加利上げを実施し、2023年7月には6.5%まで引き上げた。
〇 通貨タカの対米ドル為替相場は、2003年5月の変動相場制移行後、緩やかな下落傾向を辿ってきた
が、足元で急落している。タカ急落は、経常収支が赤字化したことや、当局が相場のタカ高への誘導をや
めて実勢レートを反映した水準への移行を容認したことなどが影響したと見られる。
〇 バングラデシュの経常収支は、2005年から2016年までは若干ながらも黒字で推移していた。この時期
の収支構造を見ると、第二次所得収支(海外出稼ぎ労働者の本国送金)の大幅な黒字が、貿易収支の
恒常的な赤字をオフセットして経常収支を黒字にするという構図になっていた。
〇 バングラデシュ経済を支える牽引役の一つが縫製品輸出であり、輸出の8割を縫製品が占め、衣料品
の世界輸出シェアでバングラデシュは中国に次ぐ2位である。バングラデシュの縫製品輸出産業台頭の
理由は、人件費の安さと豊富な労働力が労働集約型産業である縫製業に適していたためである。また、
世界の工場となった中国で人件費が上昇し中国以外の国々に生産拠点を求める「チャイナ・プラス・ワ
ン」の動きが強まったことも、バングラデシュにおける縫製品輸出拡大への追い風になった。
〇 縫製品輸出と並んでバングラデシュ経済を支えるニ本柱のひとつと言えるのが、海外出稼ぎ労働者から
の送金である。海外出稼ぎ労働者からの本国送金額において、バングラデシュは発展途上国の中で第7
位にランクされており、海外出稼ぎ大国とも言える。バングラデシュの海外出稼ぎ労働者の主な渡航先
は、同じイスラム圏で距離が比較的近い中東湾岸諸国である。
〇バングラデシュは人件費が非常に低廉であり、これが労働集約型生産拠点としての大きな強みとなって
いる。JETROデータに基づいてアジア主要都市のワーカー人件費を比較してみると、バングラデシュの
ダッカは最低レベルであり、ダッカより低いのは、ヤンゴンとコロンボだけである。
〇 バングラデシュは, 1990年代以降、生産年齢人口(15〜64歳)比率が上昇する「人口ボーナス」期を迎
えている。ただ、生産年齢人口比率は、2040年代後半以降、下落が進むと予想され、それまでに、投資
誘致などを通じて労働集約型産業を拡大させ国民の雇用・所得底上げを図ることが課題となろう。
ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
(お問い合わせ)調査部 E-mail:chosa-report@murc.jp (担当)堀江 TEL:03-6733-1631
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“はじめに 〜 隠れた有望国として注目されるバングラデシュ
南アジアのバングラデシュは、日本の本州の2/3程度の狭い国土に1億7千万人もの国民が暮らす世界有
数の人口密度の高い国家である。
バングラデシュの一人当たり名目GDPは、アジアでもかなり低く、国連が認
定する後発開発途上国(LDC)のリストに含まれている。また、バングラデシュは、サイクロンや洪水など自然災
害による被害を受けやすい国でもある。
一方、バングラデシュは、世界第8位の人口を有することや、人件費が低廉なこと、最近40年間で経済成
長率がマイナスになった年がなくマクロ経済が堅調なことなどから、有望な新興国として世界の投資家から一定
の評価を受けている。
例えば、バングラデシュは、BRICSほどではないが大きな潜在性を秘めた新興国群で
ある「ネクストイレブン」の一つに位置付けられている。バングラデシュは、近年の経済発展によって貧困状態か
ら脱却しつつあり、国連のLDCリスト見直しで、2018年と2021年に連続してLDCからの卒業基準を満たし
たことから、2026年11月にはLDCを卒業する予定である。
本稿では、南アジアの隠れた成長株であるバングラデシュ経済の現状をレビューするとともに、今後の課題
や注目点について探る。
図表1.世界の人口上位国
2.バングラデシュ経済の現状
(1)経済成長率 〜 南アジア主要3力国の中で最も安定的な動き
バングラデシュは、過去において、クーデター、ハルタル(ゼネスト)、テロ事件などが発生した影響もあり、政
治的に不安定というイメージを持たれがちだったが、マクロ経済に関しては意外に安定している。
例えば、南アジア主要3カ国における過去40年間の経済成長率(暦年ベース)を見ると、バングラデシュ
は、インドのような8%を超える高い成長率を経験したことこそないものの、インドやパキスタンよりも振幅の小さ
い安定した動きを示している。
特に、2000年代後半以降のバングラデシュ経済は、それ以前よりも堅調さが目
立つようになり、コロナ禍が発生した2020年を除けば、経済成長率が5%を下回った年が一度もないことが注
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目される。
バングラデシュでは、2008年以降、総選挙で、ハシナ現首相の率いる与党アワミ連盟が3連勝しており、政
治情勢が以前よりも安定化したことが2000年代後半以降の経済の堅調さに寄与したと考えられる。
バングラデ
シュの堅調な経済成長を支えてきたのは、後述のように、縫製品輸出拡大と、海外出稼ぎ労働者からの送金増
加であった。
図表2.南アジア主要3力国の実質GDP成長率(暦年ベース)の推移
12%
10%
8%
6%
4%
2%
0%
-2%
-4%
-6%
ノヾングラデシュ
82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 18 20 22 (年)
(出所)IMF, World Economic Outlook Database, April 2023
-8%
近年の経済成長率(年度ベース)の動きを需要項目別に見ると、成長を主導しているのは堅調な内需である
ことが読み取れる。
2019/20年度は、コロナショックによって縫製業を中心とする輸出が落ち込んだため成長率
は大きく低下したが、内需の底堅さに支えられてマイナス成長は免れた。
2019/20年度については、コロナ禍
発生以前の半年間の景気が順調だった影響が残ったために年度通算ベースの成長率がマイナスにならなか
ったと見られる。
2020/21年度は、コロナ禍の打撃から回復して内需が拡大し、成長率が大きく押し上げられた。
2021/22年度は、個人消費が減速したものの、輸出が拡大したため、成長率は前年度より若干加速し?%
台の高い伸びとなった。
図表3.バングラデシュの実質GDP成長率(年度ベース)と需要項目別寄与度
14% ……………………………..
12%
10%
8%
6%
4%
2%
0%
-2% ………….. ………………. ……. ……. ..
…
….
……………..
………..
…………
-4%
-6% …………………………………………………………….
16/17年度 17/18年度 18/19年度 19/20年度 20/21年度 21/22年度
個人消費 固定資本 輸出輸入 統計誤差—〇—GDP
(出所)CEIC
(注)上記の年度は、7月1日から翌年6月30日まで
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(2)近年は生活水準向上と投資拡大が顕著
近年、バングラデシュの生活水準が向上しつつあることは、統計データから確認できる。
バングラデシュ統計
局の家計収入支出調査によると、月間家計所得は、2010年から2022年にかけて3倍に増えており、インフレ
率(年間約6%)の影響を差し引いても実質ベースで約2倍増となっており、家計の購買力がかなり上昇してい
ることがわかる。
一方、銀行口座保有率を見ると、2010年から2022年にかけて2倍に上昇している。
オートバ
イ等の耐久消費財の購入には、ローンを利用するのが一般的だが、融資を受けるには、銀行口座保有と、定
期的な収入のあることが前提となる。
その意味で、銀行口座保有率上昇は、今後の耐久消費財市場拡大の可
能性に期待を持たせるものと言えそうだ。
また、電化率を見ると、2010年には5割程度に過ぎなかったが、
2022年には、ほぼ100%になっており、家電製品市場拡大が確認できる。
他方、識字率を見ると、2010年か
ら2022年にかけて約16%ポイント上昇しており、教育の普及で労働者の質が向上し、より高い収入の職に就
ける人が増えていることを示している。
こうした生活水準の向上を示すデータを踏まえれば、外資企業にとつ
て、今後、バングラデシュの国内市場をターゲットとするビジネス・チャンスの増加が期待できそうだ。
図表4.バングラデシュの生活水準向上を示す諸データ
月間所得(タカ)
銀行口座保有率(%)
35,000
30,000
25,000
20,000
15,000
10,000
5,000
0
16 ……
….
…………
14
12 ….. ….
….
……
10
8 ….
….
…….
6 ..
4 ……. ….
…
…….
2 …
0
2010 年 2016 年 2022 年
2010 年 2016 年 2022 年
バングラデシュのような発展途上国のサスティナブルな経済発展に欠かせないのが、資本ストックの積み上
げであるが、それには投資(固定資本形成)の増加が重要である。
こうした視点から、バングラデシュにおける
投資率個定資本形成/GDP)の動きを見ると、長期的に右肩上がりで上昇しており、足元ではインドとほぼ同
じ30%まで上昇している。
特に、1990年以降、軍政から民政への移行によって政治体制が正常化したとの国
際社会の判断などを背景に海外からの直接投資やODAの流入が増えたことが、投資率の上昇を支える重要
な要因になったと考えられる。
これは、政治情勢の混乱が続くパキスタンの投資率が長らく15%近辺で低迷し
ているのとは対照的である。
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図表5.南アジア主要3カ国の投資率(固定資本形成/GDP)の推移
45%
10%
5%
0%
80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 18 20 22 (年)
(出所)International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, April 2023
(3)インフレ率 〜 比較的安定していたが、足元で物価上昇圧力が高まる
バングラデシュのインフレ率は、長期的に見れば、同じ南アジア地域のインドやパキスタンに比べて安定的
に推移してきたと言える。
1980年以降の40年あまりの年間インフレ率の推移をレビューしてみると、バングラ
デシュは、1980年代初めに15%近くまで上昇したが、その後は低下し、1990年代以降はずっと1桁台にとど
まっており、インドやパキスタンに比べればインフレ率が概ね低めで推移してきたことが読み取れる。
また、近年
の動きを見ると、バングラデシュのインフレ率は、2015年頃から6%前後で推移してきたが、2022年以降、ウク
ライナ危機に起因するコモディティ価格上昇や、米中対立などを背景とするサプライチェーンの機能不全、海
上輸送費の高騰、といった複合的な要因から、インフレ率は急上昇し、2023年5月には9.9%と2ケタ台直前
に達した。
バングラデシュ中銀は、政策金利を、2015年末から2020年初頭にかけて125bps弓|き下げてきた
が、コロナショックの発生した2020年春から夏にかけて、さらに125bps引き下げた。
中銀は、その後、政策金
利を据え置いてきたが、インフレ率が7%を超えた2022年5月に政策金利を約2年ぶりに引き上げ、5.0%と
した。中銀は、その後も追加利上げを実施し、政策金利は、2023年1月には6%まで引き上げられ、2023年
7月には、6.5%に引き上げられた。
図表6.バングラデシュのインフレ率(長期的推移と近年の動向)
南アジア3カ国の年間インフレ率 バングラデシュの月次インフレ率と政策金利
80 85 90 95 00 05 10 15 20 (年) 15 16 17 18 19 20 21 22 23 (年)
(出所)IMF, World Economic Outlook Database, April 2023 (出所)CEIC
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(4)為替相場 〜2003年5月に変動相場制へ移行、足元で、タカ安が進行
バングラデシュ通貨タカの為替相場は、建国当初は英ポンドに対して固定されていたが、間もなく、複数通
貨バスケットに対する固定為替相場制に変更され、その後、為替相場は対米ドル表示が使われるようになった。
しかし、固定相場制のもとで当局によってアドホック的に実施される相場変更のタイミングやレンジが予見し
にくく不透明であり、経済活動の効率性を毀損しているとの批判が多く、国際機関等からの助言を受けて、バン
グラデシュ当局は、2003年5月に変動相場制へ移行した。
変動制移行後、相場は緩やかなタカ安傾向が続
いた。
為替相場が急落しなかったのは、経常収支が黒字基調だったことに支えられた面もあったが、当局の市
場介入によってタカの相場が実勢よりも高めに誘導された影響が大きかった。
当局の影響下にある公式為替
相場がタカの過大評価となったため、経常収支が2010年代後半から赤字に陥り、また、海外労働者からの本
国送金が(公式レートよりタカ安の相場が適用される)地下銀行経由で流入し、国内銀行がドル不足に陥るとい
った問題が生じていた。
このような二重為替相場ともいうべき状態を解消するため、公式レートを実勢に合わせ
た水準へ誘導する必要があった。
2021年末に1ドル=85タカだった相場が、2022年以降に急落し、2023
年6月に1ドル=105タカまで下落したのは、公式レートが実勢レートに近づくことを当局が容認したことによ
る影響が大きいと見られる。
一方、長期的に見ると、通貨タカの対ドル為替相場は、他のアジア諸国と比べて、比較的下落率が低い。
バングラデシュ・タカの足元の為替相場は、1990年初の為替相場と比較して、70%ほど下落しているが、イ
ンド・ルピーは8〇%下落しており、インドネシア・ルピアは90%下落している。
バングラデシュの場合、国際資本移動に対する厳しい規制を課していたことが幸いして、アジア通貨危機の
ような為替相場激変に遭わずに済んだ。
こうして為替相場の激変を免れたことは、前述のようなバングラデシュ
のインフレ率の低さを支える要因にもなったと言える。
図表?.通貨タカの対米ドル為替相場の推移
為替相場(1990年1月=100)の動き
通貨タカの対米ドル為替相場の推移
65
60
10 1112 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 (年)
90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 18 20 22(年)
t
通貨高
通貨安
I
(出所)CEIC
(出所)CEIC
(5)財政収支 〜 慢性赤字ではあるが、インドなどに比べれば赤字は目立たず
バングラデシュの財政収支は、慢性的な赤字状態にある。
これは、国民の大半が貧困ゆえに税収が少ない
ことなどによる歳入基盤の脆弱さに起因するところが大きい。
ただ、財政収支対GDP比率を新興国平均値と
比べると、バングラデシュは、それほど大きな赤字にはなっていない。
また、貧困層が多く税収が少ない点でバ
ングラデシュとよく似ているインドと比較すると、バングラデシュの赤字はかなり小さいと言える。
バングラデシュ
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が、インドのような大幅な財政赤字状態に陥るのを免れたのは、IMF・世銀の財政金融支援プログラムのもと
で、バングラデシュ当局が税制改革や補助金削減などの財政健全化に継続的に取り組んできたことが影響し
ているためと見られる。
図表8•財政収支対GDP比率の推移
(出所)International Monetary Fund, World Economic Outlook Database, April 2023
3.国際収支〜縫製品輸出と海外出稼ぎ労働者送金が支える経常収支
⑴経常収支〜海外出稼ぎ労働者からの本国送金で貿易赤字をオフセットする構造
バングラデシュの経常収支は、低開発国にありがちな万年赤字状態ではない。
実際、2005年から2016年
までは若干ながらも黒字で推移しており、この時期の収支項目別の動きを見ると、第二次所得収支(海外出稼
ぎ労働者の本国送金)の大幅な黒字が、貿易収支の恒常的な赤字をオフセットして経常収支を黒字にすると
いう構図になっていたことが読み取れる。
この経常収支構造は、海外出稼ぎ労働者からの多額の本国送金で
貿易赤字を補填しているフィリピン、エジプト、メキシコ等の国々とよく似ている。
図表9.バングラデシュの経常収支
(出所)IMF, International Financial Statistics
2017年は、カタールからLNG輸入開始に伴いエネルギー輸入が大幅に増えたこと、景気拡大による食料
や電気機器などの輸入が増えたこと、為替レートがタカの過大評価気味であったことなどにより、経常収支が赤
字に陥った。
その後、在外労働者の本国送金増加などにより2019年には経常赤字が縮小し、2020年は、コ
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ロナ禍で経済活動が低迷し輸入が減ったこと等が影響して4年ぶりに経常黒字となった。
202I年は、経済活
動正常化に伴い輸入が増加したことなどから、経常収支は大幅な赤字となった。
2022年は、ウクライナ戦争等
によるコモディティ価格高騰などの影響で輸入が拡大したため、経常収支は前年並みの大幅な赤字となった。
今後の経常収支については、コモディティ価格下落などによる貿易赤字縮小がない場合には、赤字が続く可
能性が高いと見られる。
(2)外貨準備〜近年急減しているが、国際機関等からの支援によりテールリスクは回避
バングラデシュの外貨準備は、2000年代初頭には15億ドル程度と低水準であったが、2010年代に入ると
増加傾向が顕著になり、2016年末には300億ドルを超えた。
これは、経常黒字が続いたことやODA流入が
増えたことなどによるものと見られる。
その後、2020年から2021年にかけて外貨準備が急増しているが、これ
は、同時期にコロナ禍対策の支援などを含む多額のODAが供与された影響と見られる。
一方, 2022年から
2023年にかけて外貨準備が急減しているが、これは、経常収支が大幅な赤字に陥ったことが影響したと見ら
れる。
中銀は、2023年6月末の外貨準備を247.5億ドルと発表しているが、これは、財•サービス輸入の4.6
カ月分に相当し、「3カ月分未満」になると危ないとされる実務上の警戒ラインを一応上回っている。
今後の経
常赤字拡大などで外貨準備が減少することも有り得るので、注意する必要はあるが、IMF・世銀による金融支
援体制が機能しているため、例えば、スリラン力におけるような外貨準備危機が発生することは考えにくい。
なお、世界銀行のデータ(International Debt Statistics 2022)によれば、バングラデシュの対
外債務残高は国民所得の20%であり、デットサービスレシオは10% (30%以上だと要注意)とな
っており、対外債務の水準に関しても、特に問題はないと考えられる。
図表10.外貨準備の推移
(出所)Datastream
(3)輸出〜バングラデシュ経済を牽引する縫製品輸出
バングラデシュ経済の近年の堅調な成長を支える要因の一つが縫製品輸出である。
バングラデシュの輸出
は、縫製品への依存度が極めて大きく、輸出のうち、織物製品の占める比率が42%、ニット製品が占める比率
が40%となっており、輸出全体の実に8割を縫製品が占めている。
バングラデシュは、衣料品の世界輸出シエ
アで中国に次ぐ2位であり、東南アジアの有力な縫製品輸出国であるミャンマーやカンボジアと比較すると、エ場数が格段に多い。
現在、輸出向け縫製工場の数は、ミャンマーが約600棟、カンボジアが約800棟と見ら
れるのに対し、バングラデシュは約5,000棟にも達すると見られている。
バングラデシュの伝統的輸出産品は、ジュート、米、魚介類などであったが、米は、人口増加や自然災害に
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よる不作などのため不足気味となり、かって、農産品のなかで最重要輸出品だったジュート(麻の一種で袋など
に利用される)は、その後、化学製品に押されて重要性が低下した。
現在、バングラデシュの最大の輸出産品
は縫製品であり、バングラデシュの縫製品輸出産業が台頭した背景には、人件費の安さと豊富な労働力が、労
働集約型産業である縫製業に適していたことがあげられる。
また、世界の工場となった中国での人件費上昇に
よって、中国以外の国々に生産拠点を求める「チャイナ・プラス・ワン」の動きが強まったことが、バングラデシュ
における縫製産業拡大に大きな追い風になった。
さらに、近年、先進国で消費者の衣料品購入が低価格品へ
とシフトする傾向にあるため、低級品•低価格品を生産しているバングラデシュが恩恵を受けたという側面も指
摘されている0
バングラデシュの最大の輸出先はEUであり、全体の半分弱がEU向けである。
次いで多いのがNAFTA
向けであり、国別でみれば、米国が最大の輸出相手国である。
バングラデシュは、EUから後発開発途上国を
対象とする特恵関税制度(武器を除く全製品について関税免除)の適用を受けており、これがEU向け輸出の
多い原因である。
南アジア地域連合(SAARC)の加盟国(インド、パキスタン、スリランカ、ネパール等の7カ国)
への輸出は非常に少ない。
図表11.バングラデシュの輸出品目・輸出先の構成
バングラデシュの輸出先構成(2022年度)
バングラデシュの輸出品目構成(2022年度)
その他,
(出所)Bangladesh Bmk. Annual Report 2021-2022
(出所)Bangladesh Bmk, Annual Report 2021-2022
バングラデシュの縫製品輸出は、1980年代の工業政策転換、すなわち、それまでの政府主導による輸入代
替指向の工業化から民間主導による輸出向け工業化へ転換が、発展の端緒となった。
低賃金というバングラ
デシュの強みを生かした輸出向け縫製業の生産がさかんとなり、外資系企業だけでなく地場資本の縫製業も
増加した。
縫製工場の数は、1991年に約!,000カ所であったが、2012年には約5,800カ所にも達し、また縫
製品輸出額も、1991年には9億ドルにすぎなかったが、2012年には、190億ドルまで増加した。
2013年には、首都ダッカ近郊で縫製工場の入居するビルが当然崩落し約1,100人もの死者が出るという事
故が発生し、縫製業の劣悪な労働環境に対する国際的な懸念•批判が高まり、縫製工場の数も減ったが、その
後も、縫製品輸出は増え続けた。
縫製品輸出は、コロナ禍の影響で2020年に大きく減少したものの、その後
はV字型回復を遂げ、2022年度には、過去最高の426億ドルにも達した。
縫製業がバングラデシュの基幹産業となり欧米への輸出を拡大してきたにも関わらず、日本のアパレル企業
はバングラデシュにあまり注目してこなかった。
しかし、2008年9月にファーストリティリング(ユニクロ)がダッカ
に事務所を設立し、日本向け製品のバングラデシュでの生産を開始するなど、日本企業のバングラデシュへの
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注目が高まり、アパレル製品の対日輸出が増加した。
バングラデシュの輸出は、縫製品への依存度が高過ぎることが大きな弱点であり、輸出産業の多角化が課
題となっている。
このため、製薬業やソフトウェア産業など新たな産業育成が行われており、また、安価で豊富
な労働力を背景に船体解撤業から発展した造船業も注目されている。
図表12.バングラデシュの輸出の推移(縫製品とそれ以外)
(4)海外出稼ぎ労働者からの送金 〜 縫製品輸出と並んで経済を支える二本柱
縫製品輸出と並んでバングラデシュ経済を支えるニ本柱とも言えるのが海外出稼ぎ労働者からの送金であ
る。
在外労働者からの本国送金額において、バングラデシュは発展途上国の中で第7位にランクされており、
海外出稼ぎ大国であると言える。
バングラデシュから海外出稼ぎのため出国する労働者は、1982年に新たな
移民法が制定され海外出稼ぎが奨励されたことを受け徐々に増えてきたが、2007〜2008年に劇的に増加し
た。
これは、2007年1月以降の原油価格急上昇によって、湾岸産油国の景気が拡大し、労働力需要が高まっ
たことに呼応してバングラデシュ人出稼ぎ労働者の湾岸地域への渡航が急増したためであった。
渡航労働者
数は、いったん減少したが、その後また増加し、2017年には過去最高を記録した。これは、カタールでの
FIFAワールドカップ大会(2022年開催)に向けた建設工事本格化により労働力需要が高まったことなどが影
響したと見られる。
渡航労働者数は、コロナ禍のため2020年に激減したものの、2021年には急回復した。
図表13.バングラデシュの海外渡航労働者数(出国者数)の推移
(万人)…
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バングラデシュ人出稼ぎ労働者の大半は、非熟練労働者であり、建設作業員、清掃員、運転手などの職種
に従事するケースが多い。
例えば、カタールでは、FIFAワールドカップ大会招致が決まった2010年以降、ス
タジアムや地下鉄の建設、道路拡張など大規模な工事が進められたが、カタール国民の人口は30万人程度
に過ぎないため、建設工事の労働力は、アジアやアフリカからの外国人労働者に依存し、バングラデシュからも
多数の出稼ぎ労働者が建設工事に従事した。
4.今後の成長可能性〜人件費の安さと労働力人口の多さを武器にした投資誘致が重要
(1)今後増やす必要があるFD!〜 東南アジアよりも少ない投資規模
バングラデシュへのFDI(直接投資)は、2022年度ベースで年間約4T億ドルであるが、これは、タイ(人口
がバングラデシュの約4割)へのFDIが年間約100億ドルであることを踏まえれば、過小と言わざるを得ない。
発電や情報通信などのインフラ整備に大きく貢献するFDI案件もあるため、政府側でもFD!誘致促進の観
点から投資環境整備に努めてきたが、法制度や投資家向けサービス提供体制の未整備、政府職員のガバナ
ンス改善など多くの課題を抱えており、投資環境はASEANのタイ・マレーシア等の国々に比べて大きく劣る。
バングラデシュへのFDIは、人口規模の大きさに注目した外国企業が、エネルギー関連インフラや食品産
業などを成長産業として投資を拡大したことや、中国がバングラデシュを一帯一路の重点国として投資を増や
したことなどから2010年代後半に増加し、2019年度には50億ドルに迫る規模となったが、2020年度はコロ
ナショックのため大きく減少した。
その後、コロナウィルス感染が下火になったことを受けて、2022年度は、大き
く増加した。
近年、投資額が多いセクターは、縫製業や電力(石炭火力発電所など)であり、縫製業は、中国や
韓国などアジア勢が目立ち、電力は、米国や中国からの大規模投資が目立つ。
日本からの投資は、肥料製造
プラントなど大規模案件もあるが、国別投資額では、首位を争う米国・中国の1/4以下にとどまる。
図表14.バングラデシュへのFDI (国際収支ベース)
(2)人件費の安さが強み 〜 ワーカー人件費はアジア主要都市で最低水準
バングラデシュは人件費が非常に低廉であり、これが労働集約型生産拠点としての大きな強みとなってい
る。
JETROデータに基づき、アジア主要都市のワーカー人件費を比較してみる、バングラデシュのダッカは最
低レベルであり、ダッカより低いのは、ヤンゴンとコロンボだけである。
ただ、ヤンゴンについてはミャンマー国軍
によるクーデター(2021年)発生後の政治的混乱が続いており、コロンボについてはスリランカ経済危機(2022
年)による混乱から完全回復していないことから、この2都市への進出には現時点では慎重にならざるを得な
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い状況である。
このため、現実的に進出できるかどうかを考慮した場合に、バングラデシュのダッ力が、アジア主
要都市の中で最も人件費の低い投資先ということになる。
図表15.アジア各都市におけるワーカー人件費(一般工;月額)
(3)豊富な労働力が強み〜人口ボーナス期を迎えているバングラデシュ
バングラデシュは、1990年代以降、生産年齢人口(15〜64歳)比率が上昇する「人口ボーナス」期を迎えて
おり、労働力増加を経済成長につなげるのに有利な状況にある。ただ、生産年齢人口比率は、2040年代後半
以降、低下すると予想されており、豊富な労働力という強みを活かせる期間は、あと20年余りで終焉を迎える。
それまでに、直接投資誘致などを通じて労働集約型産業を拡大し、国民の雇用と所得を底上げすることが、今
後の経済成長戦略の中心課題となろう。
図表16.バングラデシュの年齢階層別人口および労働力人口比率
^”15歳未満 ^・15-64歳 ^・65歳以上 労働力人口比率(右目盛)
(出所)United Nations, World Population Prospects 2022
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5.今後の展望 〜 今が成長のチャンスだが、今後、低開発国としての優遇・支援は消滅も
(1) 大崩れせず堅調なバングラデシュ経済は今後も有望
バングラデシュ経済は、縫製品輸出と海外出稼ぎ労働者送金に支えられて堅調に推移してきた。ま
た、堅実な経済運営と手厚い国際支援により、新興国の中では比較的財政金融面が安定している。後発
開発途上国であり経済基盤が脆弱であるにもかかわらず、経済危機とは無縁であり、大崩れしないのが
バングラデシュ経済の特徴と言えよう。
近年の経済成長によって所得水準が向上しており、世界第8位の人口を抱えるバングラデシュは、
国内市場の成長ポテンシャルにも注目が集まりそうだ。こうした点から、バングラデシュは、南アジア
の隠れた有望株と位置付けられよう。
(2) 経済的飛躍のチャンスは2040年代までの20年間
バングラデシュは、当面、その強みである低廉な人件費、豊富な労働力人口を活かし、労働集約型製
造業の振興によって雇用•所得の底上げを図り、経済発展につなげるのが経済運営の中心課題となろ
う。
労働力人口比率が減り始める2040年代後半までの20年余りがチャンスである。
アジアのラストフロンティアとの呼び声が高かったミャンマーが、軍のクーデターによって政治情
勢が混乱に陥り外資が退出しており、代替先として、ミャンマーの隣国であるバングラデシュに外資企
業が注目しつつある。その意味で、バングラデシュには追い風が吹いていると言える。
(3) 今後の課題〜従来の優遇•支援策が見直され、国際競争力やリスク対応力を高める必要
バングラデシュは、2026年に予定されているLDCからの卒業にともない、様々な優遇策も撤廃さ
れると見られるため、他の新興国と同じ土俵での競争に備える必要がある。
例えば、現在、LDCを対
象とした優遇制度として、米国を除く先進国へのバングラデシュからの輸出品には関税が課せられな
いが、LDCからの卒業後は、優遇制度の対象外となり、主要な輸出品目である縫製品の大部分に課税
されることとなる。
優遇策がなくても国際競争力を失わないよう、生産性向上や高付加価値化などに取
り組む必要がある。
また、国際機関による手厚い金融支援も見直される可能性があり、金融市場や対外
債務、外貨準備などに関してのリスクをマネジメントする能力を高める必要がある。
以上
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