インド、中国は互いに激しいサイバー攻撃を仕掛けている可能性…その先に起きる深刻な事態とは
https://www.dailyshincho.jp/article/2024/03060550/?all=1
『インド拠点のハッカー集団「ビッター」
中国政府は2月26日、「同国産業部門におけるデータセキュリティーを強化し、2026年まで主要なリスクを効果的に抑制する」とのハッキング対策を発表した。
中国は米国などから「サイバー攻撃により自国の知的財産を奪っている」としばしば非難されているが、中国自身も外国からのハッキングに悩まされているようだ。
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ハッキング大国とも呼ばれる中国のサイバーセキュリティーの脅威になっているのは、はたしてどこの国だろうか。
香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(2月16日付 )は、中国へのサイバー攻撃の中心は覇権競争を繰り広げている米国ではなく、多くは南アジアであると報じた。
同紙は、インド拠点のハッカー集団「ビッター」による中国へのサイバー攻撃が2022年は7回、昨年は8回実施されたと伝えた。ビッターはインド政府の支援を受けて2013年末から活動を開始したとされ、その主な目的はパキスタンや中国の政府、軍事組織などが有する機密情報だと言いわれている。
ムンバイ大停電はサイバー攻撃が原因か
インド発のサイバー攻撃が相次いでいるにもかかわらず、中国政府はこれまでのところ、公式の反応を示していない。
その理由は明らかではないが、筆者は「中国もインドに対してサイバー攻撃を頻繁に仕掛けてきたからではないか」と考えている。
2020年9月、インドの2000万都市ムンバイで大規模停電が発生した。鉄道は停止し、株式市場は閉鎖、新型コロナウイルスのパンデミック下で病院も大混乱に陥った。この停電の原因で最も有力な説は中国によるサイバー攻撃だ(2021年3月6日付東洋経済オンライン)。
この大規模停電が起きる4ヵ月前、インドと中国の軍隊が人里離れたガルワン渓谷の国境紛争地域で突如衝突し、石やこん棒を使った戦闘で互いに死者が出る事態となった。国境紛争地域の領有権を声高に主張するとどうなるか、それをインドに思い知らせるために中国がタイミングを見計らって「恫喝のメッセージ(中国がその気になれば、インド全体を大停電に陥れることができる)」を送りつけたというわけだ。』
『20万人がにらみあう国境紛争地域
だが、インドはひるむことがなかったようだ。逆に「捲土重来」とばかりに、中国に対してサイバー攻撃をさかんに仕掛けているように思えてならない。
中国からのサイバー攻撃のきっかけとなった領土問題は解決の目途が立っていない。国境紛争地域では、実効支配線が中国支配地域とインド支配地域を分けており、今も20万人の中印両軍がにらみあいを続けている。
中国がその後もインド支配地域を侵犯しており、インド政府はそのたびに抗議しているが、中国政府の対応はけんもほろろだ。今年1月末にも小競り合いがあったとの情報がある(2月3日付ニューズウィーク日本版)。
インドはこれまで守勢に回っていたが、米国の軍事支援をバックに近年、中国に対して強硬な姿勢をとるようになっている。
本格的な軍事衝突が勃発する可能性も
気になるのは両軍の戦闘能力が拡大していることだ。
双方の陣営で兵士と後方支援物資等を輸送できる幹線道路が完成(2023年12月22日付ニューズウィーク日本版)しており、今後、本格的な軍事衝突が勃発する可能性は排除できなくなっている。
両国のつばぜり合いは海洋地域にも及んでいる。
中国の調査船がインド洋での水中測量を活発化させていることから、インドは「中国が潜水艦を使った水中戦を計画している」と警戒を強めている(1月16日付BUSINESS INSIDER)。
中国の調査船の活動を阻止するため、スリランカに対して、外国の調査船の入港を一時停止するよう圧力をかけている。
中国と同等の戦力を維持したいインド
中国はインド洋における外交攻勢も積極的に進めている。
インド洋の島国・モルディブに昨年11月、中国寄りの新政権が誕生した。そのため、同国に駐留するインド軍は撤退を余儀なくされている。
一方、インドは3隻目の空母を国内で建造する方針を固め、中国と同等の戦力を維持しようと躍起になっている(1月9日付日本経済新聞)。
インド海軍は、紅海で米国が主導する商船護衛の多国籍部隊に加わっていないが、昨年末からアラビア海やアデン湾に戦艦10隻以上を派遣している。過去最大規模の展開が功を奏してか、今年1月に米企業所有の商船を救助するなどの成果を挙げている。
自国の経済活動に欠かせない海上交通路(シーレーン)を守ることが主目的だが、インド周辺でも海洋進出を進めている中国を牽制する狙いがあることは間違いないだろう。
インドの地政学リスクを高める可能性も
中国経済の低迷ぶりを尻目にインド経済は絶好調だ。昨年第4四半期の経済成長率は前年比8.4%増と第3四半期の7.6%から加速した。
国力が急速に増大するインドが、積年の恨みを晴らすために中国に対して報復の姿勢をとりはじめているとしても不思議ではないが、「過ぎたるは及ばざるがごとし」。
中国への過度の反発は、順風満帆に見えるインド自身の地政学リスクを高めてしまう深刻な副作用を引き起こしてしまうのではないだろうか。
藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。
デイリー新潮編集部 』