中国でピアノ売れず、ミドルクラスに余裕なし-習氏の政策も影響
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-02-29/S9LJ3YT0G1KW00
『Bloomberg News
2024年2月29日 15:14 JST
昨年の国内生産台数は19万台と4年前の半分-中国楽器協会
ピアノの販売、所得への期待や資産効果に影響される
北京に住むロージーさんは今年、7歳の娘に週1回受けさせていたピアノレッスンをやめるしかなかった。中国人向けの海外旅行を企画し得ていた収入は新型コロナウイルス禍で消え去り、金融界に対する規制強化の結果、銀行員の夫の給料とボーナスはこの2年間で半分になった。
「ピアノを習うにはお金がかかる」とプライベートな話だとして英語名で取材に応じたロージーさんは言う。「限られた予算をもっと費用対効果の高いものに充てたい」とも述べた。
Pianos Produced in China
Source: China Musical Instrument Association and media reports
かつて裕福さと社会的地位の象徴であったピアノは、中国、特に中流家庭の間でその地位を失いつつあるようだ。国内最大級のピアノメーカーの1社は売上高の減少率が2桁だと警告。政府系の業界団体である中国楽器協会(CMIA)によれば、昨年の国内生産台数は19万台と、4年前の半分に落ち込んだ。
主な原因は景気減速と住宅価格の下落、株式市場の長期低迷による収入と資産の圧迫だ。この三重苦で多くの家計は不急不要の大きな買い物を控えている。
こうした国民の状況は、3月5日に開幕する全国人民代表大会(全人代)に出席する委員の頭をよぎることになるだろう。全人代では主要な経済目標を含む2024年の優先政策が議論される。
China’s Great Slowdown
西南財経大学とアリペイが実施した調査によると、家計の資産と所得を示す指標は23年10-12月に低下。今後1年間の経済見通しが悪化すると予想する家計の割合は昨年1-3月の約13%から10-12月には約22%に上昇した。
オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)の中国担当シニアストラテジスト、邢兆鵬氏は「自動車や家電製品など他の耐久消費財と同様、ピアノの販売も所得への期待や資産効果に影響される」と指摘した。
人口減少や教育を巡る規範の変化に加え、共産党の習近平総書記(国家主席)が統制を強める中国で欧米の文化を取り入れることへのためらいの広がりを考慮すると、ピアノの販売・生産減少トレンドを覆すのは難しそうだ。
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ピアノスクール(2006年、深圳)
Photographer: Daniel Traub
中国とピアノの関係は数十年前にさかのぼる。1960年代の文化大革命の間、この楽器はブルジョアジーの象徴として非難された。しかし、鄧小平氏が主導した改革・開放政策のおかげで、ピアノは急速に拡大する中間所得者層(ミドルクラス)にとって手の届くぜいたく品となった。
CMIAによれば、少なくとも2003-19年の年間生産台数は常に30万台を上回っていた。国営新華社通信の取材に最近応じたCMIAの王世成理事長は、消費者の間で必需品以外の需要が縮小していることが急激な落ち込みの原因だとしている。CMIAはインタビューの要請に応じなかった。
中国文化重視
大幅な値下げも潜在的な買い手を呼び込むには十分ではない。ブルームバーグ・ニュースが2月前半に訪れた北京のショールームでは、3割引きのピアノもあったが、店内はガラガラだった。「この業界で10年以上働いているが、これほどの値引きは見たことがない」と店員は打ち明けた。
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北京のショールーム(2024年2月)
Photographer: Gilles Sabrié for Bloomberg Businessweek
広州珠江鋼琴集団と海倫鋼琴は合わせて中国ピアノ生産全体の約半分を占めている。国有の広州珠江は3月に決算発表する際、昨年の純利益がほとんど吹き飛んだと報告すると見込まれている。海倫は最大8000万元(約17億円)の純損失を想定。22年は800万元余りの利益を出していた。
暗い見通しの労働市場と不動産危機が中国の中産階級に重くのしかかっている。他国に比べ不動産所有が家計資産の大きな部分を占めるため、住宅価格が5%下落するごとに19兆元の富が失われるとブルームバーグ・エコノミクスは推計。
「家計は住宅価格の下落によって自分たちの資産が大きなマイナスの影響を受けていると認識している」とナティクシスのアジア太平洋地域チーフエコノミストで、ブリュッセルのシンクタンク、ブリューゲルのシニアフェローであるアリシア・ガルシアエレロ氏は語った。
息子のためにヤマハの新しいピアノを購入しレッスン代も含め3年間で約1万3000ドル(約195万円)を費やしたルーシー・チェンさんは、「時間とお金の無駄」だったという。
週に28ドルから53ドル相当を、チェンさんが言うところのほとんど熱意も才能も示さなかった息子のレッスンに充てた。夫はハイテク企業で働いているが、給料を昨年減らされ、ピアノをやめるのは当然の選択に思えたという。
文化的な規範もまた、ピアノ離れに拍車をかけているのかもしれない。中国の「文化的遺伝子」を守るよう国民に呼びかけている習総書記の下で、古筝(こそう)などの中国の伝統楽器を習わせる親が増えている一方で、ここ数年、欧米各国との緊張が高まっている。
ロージーさんが娘にピアノをやめさせたのは、学業面でのプレッシャーも要因の一つだった。「娘は学校の授業にもっと時間を割く必要がある。もし1つか2つの課外授業を残すなら、私はスポーツを選ぶ。娘は本当に熱心だ」と話した。
Instrument Sales in China
By fiscal year
Source: Company reports
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(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:China’s Plunging Piano Sales Show Deepening Economic Gloom (1) (抜粋)』