日本酒や和牛、欧州から締め出し危機 EUの包装規制で

日本酒や和牛、欧州から締め出し危機 EUの包装規制で
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR29DIL0Z20C24A2000000/

『【ブリュッセル=辻隆史】日本の食品輸出の主役ともいえる日本酒や和牛が、欧州連合(EU)市場から締め出されかねない危機的な状況にある。日本酒を入れる瓶や食品を包むフィルムが、EUが検討する包装材の規制に適合していないためだ。日本政府は規制対象からの除外を働きかけており、その結果が注目される。

EU加盟国からなる閣僚理事会と立法機関の欧州議会は3月4日にも、食品包装の規則について詰めの協議をする。大…

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『焦点の一つは日本酒の扱いだ。執行機関の欧州委員会の提案では、EU域内でお酒を製造・販売する事業者に対し30年以降、製品の10%はリユースか詰め替えが可能な容器を用いるよう義務付ける。

加盟国や企業のロビーイングの結果、ウイスキーなどの蒸留酒やワインは除外される見通し。

日本酒はワインと瓶の大きさが異なり、欧州でリユースは難しい。瓶を日本に送り返して再利用するにもコストがかかる。紙パックにしたり、ワイン瓶と同じサイズにしたりとEU規制に対応するにも酒蔵などの負担は大きい。事実上の非関税障壁となるリスクが高まっている。

韓国がEUに輸出するマッコリは紙パック包装も多く、輸出継続が可能とみられる。同国の焼酎も蒸留酒のため対象外。日本はEUの規制当局に対し、孤独な戦いを強いられているのが実情だ。』

『EU向け輸出で多いホタテや和牛といった食品も、同規制の「標的」となる。包装材をリサイクル可能な素材でつくるよう義務付けようとしているためだ。日本の食品は化学メーカーなどが製造する「多層フィルム」で包む場合が多い。

多層フィルムは耐熱性や防湿性、耐久性に優れ、船便などでの輸出に適している。ただ現時点ではこうしたフィルムは、EUがこれから設ける規制の細則で「十分にリサイクルできない」とみなされる公算が大きい。

多層フィルムは和牛などの主力だけでなく、レトルトカレーや豆腐など様々な日本食品の包装に使われている。規制の施行までにEU基準に合うフィルムを開発できなければ、多くの日本食品が欧州で入手しづらくなるおそれがある。

現行のリサイクル可能なフィルムを用いると、賞味期限が短くなってしまい欧州での商品価値が損なわれてしまうというジレンマもある。』

『U向けの日本の食品・農林水産物の輸出は近年増えている。23年の輸出額は22年比約6%増の724億円だった。22年の輸出額を内訳でみると日本酒などアルコール飲料が132億円で最も多い。次いでホタテが73億円、牛肉が41億円だった。

日本酒は近年、欧州での知名度が向上してきた。フランスの高級レストランでも提供する店が出てきている。

EUは昨夏、東日本大震災後に課した日本産食品の輸入規制を撤廃した。日本政府はこれを機に欧州への輸出拡大を狙っていただけに、規制が直撃すれば影響は大きい。

EUの環境規制の効力は欧州企業だけでなく、域外から製品を輸出する国や企業にも及ぶ。欧州委員会の政策判断に加え、加盟国の利害なども絡み規制の策定を巡る交渉は複雑さを増す。域内でビジネスをする際に将来導入される規制への目配りは欠かせず、日本の政府や企業はより注意深く対応する必要がある。』

『多様な観点からニュースを考える
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中空麻奈
BNPパリバ証券 グローバルマーケット統括本部 副会長
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今後の展望 EUの包装材指令は1994年12月に採択された指令で、包装材は再利用、リカバリー、リサイクルが出来ることが求められる。30年以降は製品の10%はリユースか詰め替えが可能な容器が義務付けられる。

欧州指令はいつものように厳格化されるばかりだが、これもいつものようにロビーイングが効いて、除外される対象が出て来る。

再度日本酒を詰めるためには、欧州に酒蔵を作らねばならないのだろうか。

規制を導入し、サーキュラーエコノミーを推進する覚悟は尊敬に値するが、ロビーイングが効き過ぎて不平等が起きたり、結果、和牛やホタテも含めて欧州の人々が食べられなくなるのも気の毒な話。現実とのバランスをどう取るか。行方に注目だ。
2024年3月1日 10:25いいね
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深尾三四郎
伊藤忠総研 上席主任研究員
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今後の展望 脱炭素化農業・畜産業の需要が拡大する。

欧州はさまざまな商品・産業でリユース・リサイクル規制や国境炭素税を導入することで、サプライチェーンもカバーしたCO2総排出量の脱炭素化を促そうとしている。

リサイクル瓶対応によるコスト負担が日本酒業界に大きな逆風となるが、昨今ではアルミ缶にいれた飲み切り型日本酒が国内で普及しているので、リサイクルした再生アルミを使った一合サイズの日本酒を輸出するという手がある。

和牛も、豪州では農場や輸送・梱包に再エネを活用したカーボンフリー和牛が販売されている。

脱炭素化技術・ソリューションを活用して、欧州のルールメイキングに打ち克つ工夫をすれば、ピンチはチャンスとなる。

2024年3月1日 9:44 』