庶民には実感なき<日経平均株価最高値>平成の悪夢は再来するのか?バブルに飲み込まれないようにするために必要なこと
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/33059
『日経平均株価が22日、終値が3万9098円を付けて34年ぶりに最高価格を更新した。バブル絶頂期の1989年12月29日の大納会の3万8915円を付けたあと、年明けの取引開始から暴落に転じた日本の株価が失われた30年を取り戻しかにみえる。
日経平均株価が最高値を記録。今回は〝バブル〟ではないのか(長田洋平/アフロスポーツ)
年明けからの急速な株価の上昇の理由として、メディアは新しい少額投資非課税制度(NISA)の導入や日本企業の業績回復とドル建てでみて割安感が出たために外国からの買い入れが膨らんだことなどを挙げている。前回のバブルとは異なるというものである。果たしてバブルの崩壊の悪夢は再来しないのだろうか。
「投機」はなぜ起きるのか?
ジョン・K・ガルブレイスは名著・『新版 バブルの物語』(電子版、2019年・鈴木哲太郎訳)のなかで、投機に参加するふたつのタイプの人がいると述べている。
「第一のタイプは何らかの新しい価格上昇の状況が根づいたと信じるようになり、市価は下がることなしに際限なく上昇を続けるであろうと考える」
「第二のタイプは、第一のタイプの人よりはもっと保守的で、またおおむね少数である。彼らはその時の投機のムードを察する。あるいは察知したつもりになる。そして上昇機運に便乗する。自分は格別の才を持っているがゆえに、投機が終わる前に手を引くことができる、と確信している」
投機的ムードの群集心理である。その後に訪れる崩壊の災厄から逃れるにはどうしたらよいのか。ガルブレイスは世論つまりメディアの報道について喚起している。
「この群集心理の圧力は非常に強いので、救われる人というのは、ほとんど不可避的な一般的なケースに対する例外でしかない。
救われるためには、次の二つの強い力に抵抗しなければならない。
第一に、熱病的な信念が広まると、誰しも自分も儲けてやろうという気になるものであるが、そうした強い私利に抵抗しなければならない。
第二に、この熱病的な信念を強めるのに効果的な力となっている世論や一見すぐれた金融界の意見の圧力に抵抗しなければならない・・
『群衆というものは、結構まともな個人を馬鹿者に変えてしまう』という(ドイツの詩人・哲学者)シラーの言葉を証明するものであって、シラーはまた、こうした狂気に対しては『神々でさえも抗しがたい』と述べている」
』
『「今回はバブルではない」
日経平均株価が過去最高を更新した22日の前後のテレビ報道をみていこう。
「クローズアップ現代」(NHK総合)は20日、「“バブル”を超えるか 株価“史上最高値”に迫る」をテーマとして株価の急上昇と今後について分析した。
コメンテーターは、一橋大学名誉教授の伊丹敬之さんと大和総研副理事長の熊谷亮丸さん。前回のバブル時代を振り返って、伊丹教授は「日経平均は最高値をつけた翌年早々から暴落したが、土地価格が1年ほど上昇していたのでバブルではないと思っていた。(その後のバブル崩壊で)私自身がゴルフ場の会員権を購入して大損しました」と苦笑する。
熊谷副理事長は「(大学を卒業して)銀行に入行しました。クリスマスには高級ホテルを借りてパーティをする時代でしたね」。
バブルかどうかは誰もわからない。「投機のエピソードは常にささやきによってではなく大音響によって終わる」とガルブレイスは述べている。これは一般論であり、数世紀にわたってしばしば繰り返されたというのである。
伊丹教授も熊谷副理事長も今回の株価の上昇は、バブルではないと解説した。伊丹教授は「当然の結果だ」と断言する。
「国内総生産(GDP)がドイツに抜かれて4位になったとはいえ、技術力がある。コロナ対策で各国が行った政策によるマネーが投機マネーとなって日本株に向かってきた。日本の株式市場は世界のなかでも上場企業数が多いこともある」という趣旨の分析をしている。
熊谷副理事長も「バブルではない。PER(株価収益率:株価が1株当たりの純利益を示す指標)は2月16日時点で、日本は16.26である。米国は平均で20以上。(前回のバブル当時の)日銀総裁の三重野康氏は徹底的にバブルを潰そうとしたが、いまの植田和男氏は徐々に金融政策を進めようとしている。今後懸念されるのは米国の大統領にトランプ氏が復活するのか、中国経済、欧州の〝病人〟といわれるようになったドイツ経済の動向である」と、伊丹教授とほぼ同意見である。
番組は、今回の株の上昇要因と考えられている数値について、冷静な分析を行っている。
「海外投資家」については、海外の300社に日本株に対してポジティブかネガティブかをたずねたアンケート結果を示している。2022年には、ポジティブが26%だったのが23年夏ごろから増加してこの年は52%になった。逆にネガティブは、22年の48%から14%に減少した。
UBPインベストメンツは世界で約10兆円を投資している。日本株運用責任者のズヘール・カーンさんは「(以前は)日本企業は株主のことをそこまで考えていなかった。最近は株主還元が進んでいる」と、日本株投資の理由を指摘している。
中国からの資本逃避が日本に向かっているのか。海外に向かった資金は12兆5000億円と推定されている。香港の投資会社の顧問を務める劉夢熊さんは「資金は利益を求めて、水が低いところに流れていく。人々は儲かる場所に向かう。中国・香港から長期的に日本に向かっている」と、分析する。
それでも消費者への還元はなされていない
「日経ニュース プラス9」(BSテレビ東京)は、日経平均株価が史上最高値を更新した当日夜、高値の背景を分析した。メインキャスターは日本経済新聞編集委員の小柳建彦さん、コメンテーターには、独立系分析会社の智剣・Oskarグループの主席ストラジストの大川智宏さんと日本経済新聞編集委員の藤田和明さんが務めた。
日本株の上昇をけん引した、米国の半導体メーカーのエヌビディアに関する分析に重点が置かれた。同社の11月~1月四半期決算において、売上高が前年同期に比べて3.7倍、利益は8.7倍を記録した。予想を上回って、半導体メーカーとしては世界1位になった。
同社の好業績は半導体のなかでもこれから需要の増加が予想される、人工知能向けの半導体の将来性を市場に印象づけた。日本の株式市場で「エヌビディア 3兄弟」と呼ばれる銘柄が、史上最高値のうち420円分に貢献した。それは、半導体装置メーカーの東京エレクトロンであり、半導体検査装置のアドバンテスト、そして半導体設計分野で圧倒的なシェアを持つ英国のアーム社を傘下に持つソフトバンクである。』
『「消費者の観点からは(最高値)の高揚感はない」と、コメンテーターの大川さんは指摘する。日本企業の2月21日時点の時価総額のランキングから、トヨタ自動車をはじめ輸出産業が目立ち、円安になったために利益が膨らんだ企業多い点を挙げた。
藤田さんも「日本株について、海外勢は積極的に買っているが個人は利益の確定売りなどで売りと買いを行ったり来たりしている。さらに、投信や年金を運用している信託銀行も利益を出すために売っている。日本株の購入に個人が積極的に加わっていくかどうかが今後の相場を左右する」と分析した。
学ぶべきバブルでの失敗
日本メディアの報道はいまのところ、現状をバブルとはみないで冷徹な分析をしているようにみえる。〝熱狂の時代〟ではないのだろうか。
バブルが崩壊する過程の1980年代後半から90年代初めにかけて、筆者は記者として証券、都市銀行、生命保険などの金融機関と旧大蔵省の金融行政を担当した経験者である。経済学者のなかには、いまさら「バブル崩壊を予測していた」と宣言する人もいる。
ガルブレイスが指摘しているように、資本主義は幾度となくバブルとその崩壊の歴史を綴ってきた。熱狂のなかで、正確にバブル崩壊を予言することは難しい。
89年12月の大納会で今回更新された最高値を記録した当時、翌年の日経平均は4万円を超えて、5万円も夢ではないとメディアがあおったことを忘れてはならない。前回のバブルは、米国の悪化する経済状況を援護するために、円安に誘導した大量の資金が土地と株式に流れ込んだ。95年の「プラザ合意」がバブルの発端だったことを認識するのに時間を要した。
土地高は異常な水準で、皇居の地価でカリフォルニア州が買えるとまでいわれた。大企業は新たな増資などによって得た資金を株式や債券投資に投じた。信託銀行が用意した特金・ファントラといった商品である。
銀行は系列のノンバンクに資金を卸して、その資金が土地融資に向かった。旧大蔵省は、こうした資金を禁じる非常手段にでた。地価は一気に下がったが、その負債は巨額に達した。
まず、大きな打撃を受けたのが住宅金融専門会社だった。われわれの税金である公的資金を投入する旧大蔵省の政策は、世論の反発を買った。
本来は政治主導で、巨額の不良債権を処理すべきだったが、時間はいたずらに過ぎた。北欧や米国などで住宅資金の焦げ付きによる金融機関の処理については、さまざまな方法がすでにあった。その導入は遅れに遅れて、バブル崩壊後の30年の停滞は決まったともいえる。
筆者が所属していた新聞社の経済部は株式や投信などの売買を禁じられていたので、前回のバブルの利得はない。地価の暴騰によるマンション価格が急上昇して、手が届かなくなった絶望感を覚えている。
そうした状況のなかで、銀行の貸し出し部門別で、設備投資よりも土地融資が上回った異常性や、北欧の不良債権処理などの報道もしたが、蟷螂之斧(とうろうのおの:カマキリが前足を上げて、大きなことにたちむかっても難しい)だった。』
『どう情報を収集すればいいのか
〝熱狂の時代〟においては、メディア自身がバブルの予兆を告げる言説を退ける。ガルブレイスは86年秋にニューヨークタイムズ紙に、株式市場の熱狂について注意を向ける論説を寄稿したところ、採用されなかった。現実にバブル崩壊後に、その論説はほとんどそのまま別の雑誌に掲載された。
それではバブルに飲み込まれないようにするには、どうしたらよいのだろうか。「投資には格好の本が手軽に手に入る。それは『会社四季報』である」と、述べたのはコラムニストの関西大学名誉教授の谷沢永一さんだった。いまでは、kindleを開けば、メディアとは異なる見方を知る書物にであうことができる。
さわかみ投信の創業者である澤上篤人さんは『暴落ドミノ 今すぐ資産はこう守れ!』(2024年1月、明日香出版)のなかで、さまざまな経済指標を駆使しながら、バブルの崩壊は近いとしている。いまのうちにキャッシュ化できるものはキャッシュにするべきだと、問う。
経済評論家にしてマネー運用の実務書のベストセラーを連発した山崎元さんは、遺作となった『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生の幸せについて』(24年2月、Gakken)は、専売特許となった「お金の運用を金融機関に相談するな」の視点にたって、大学生の息子に生き方とお金の運用についてわかりやすく伝授している。
大学の教科書に使える名著である。金融機関任せの運用では、金融機関が得になる金融商品ばかりを買わされるリスクがあるからである。』