中国が消費主導で成長できない理由

中国が消費主導で成長できない理由 呉軍華氏
日本総合研究所上席理事
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD261VW0W4A220C2000000/

『2024年2月29日 5:00 [会員限定記事]

3月5日に開かれる中国の全国人民代表大会(全人代)では、経済成長の目標をどのレベルに設定し、また、どのような対策が打ち出されるかが注目されている。

しかし、筆者は成長目標についてはさほどの関心を持っていない。習近平(シー・ジンピン)指導部が発足して以来、新型コロナウイルス禍の3年間(2020〜22年)を除いて、中国経済は公式にはほぼ全人代の目標通りの実績を残しており、成長率自体に大した意味はない…

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『全人代を待たずに、対策の方向性を示す動きがあった。2月23日の党中央財経委員会で習総書記は、成長を押し上げるため「大規模な設備更新や消費財の買い替えを奨励する」と述べたという。同じ日に李強(リー・チャン)首相は、今年の最重要課題として外資誘致を掲げた。今回も供給サイドからアプローチするようだ。

だが、それが奏功する可能性は低いだろう。今の中国経済に必要なのは需要サイドからのアプローチであり、家計部門の消費拡大が重要だ。』

『消費主導型成長への転換は、1990年代後半のアジア通貨危機当時の指導部も政策目標とした。にもかかわらず、いまだに実現できないのは、現体制の統治思考が改められていないからだろう。』

『中国の現体制は、共産主義という西洋から取り入れたイデオロギーを思想の正統としているが、実際の統治は秦以降の歴代王朝による支配を支えた法家の考えに影響されている。法と称する厳罰中心の支配という法家的な統治は過酷なものになりがちだ。

法家思想の代表作「商君書」の「民を操る5術」のひとつは「貧民」だ。生活に必要な分を超える余剰財産を奪うことを意味し、法家的統治は個人消費に対して抑制的だといえる。現指導部がこの通りに統治しようとしているかは定かではないが、資源配分や政策の優先順位は、常に国家・国有企業が中心で、民を軽視しているのは明らかだ。』

『この民軽視の伝統は、東欧諸国で社会主義体制が崩壊したことを教訓に、より強化された可能性がある。』

『習総書記はかねて、中国で旧ソ連・東欧のような激変を起こしてはいけないとの決意を表してきた。この激変の先陣を切ったのはポーランドで、それをリードした「連帯」は、80年代を通じて民主化を訴え労働者権利の拡大と福祉向上を追い求めた。この運動が共産党政権の財政基盤を揺るがし、国民の権利意識を芽生えさせたことが、体制崩壊につながったとされる。

習総書記は中国が福祉主義の「ワナ」に陥ってはいけないとも主張する。中国社会は福祉社会とは程遠く、違和感を覚える主張だが、その背後にポーランドの教訓があるとすれば、腑(ふ)に落ちるような気もする。

こうした見方が正しいなら、中国が消費主導型で成長することには、当面期待しない方がいいかもしれない。』