中国、関連株急落のゲーム規制案白紙に 透ける経済優先

中国、関連株急落のゲーム規制案白紙に 透ける経済優先
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC272OP0X20C24A2000000/

『1カ月間にわたった中国ゲーム業界の混乱は、「異例」の結論を迎えることになった。

中国でゲームやメディア業界を管轄する国家新聞出版署は1月23日、ウェブサイトで公開していたオンラインゲームに関する規制案を突如、削除した。2023年12月22日にパブリックコメント(意見公募)を実施するために規制案を公開していたが、1カ月で撤回した格好だ。中国当局が明らかにした規制案を白紙に戻すのは極めて異例の事態と言える。

削除された新規制案は、毎日のログインや初めての課金などへのボーナスを禁止したほか、ゲーム内の課金に上限を設定した。未成年者に対しては「抽卡(ガチャ)」と呼ばれる有料のくじの利用を禁止したほか、ゲームアイテムのオークションのサービスを提供しないよう求めていた。

中国当局はこれまでも「ゲームは有害」として、オンラインゲームに規制をかけてきた。未成年者を中心に心身の健康を守るためと説明するが、巨大化したIT・ネット企業を統制する狙いもあるとみられる。2018年に新作ゲームの審査を凍結したほか、19年には未成年者のゲーム利用時間や課金に制限を加えてきた。21年には新作ゲーム審査が再び凍結されたほか、未成年者のゲーム利用も制限が強化されていた。

時価総額9兆円が吹き飛ぶ

中国シンクタンクの中国音数協遊戯工委などによると、23年の中国のゲーム売上高は前年比14%増の3029億元(約6兆円)だった。規制に対応しながらも各社は知恵を絞り、初の3000億元超えを果たすまで市場は回復してきている。それだけに、新たな規制案発表は、上昇ムードのゲーム業界に冷や水を浴びせた。

実際、新規制案の公表を受けて、株式市場は大混乱。発表直後の23年12月22日の香港株式市場で騰訊控股(テンセント)の終値は前日比で12%安、網易(ネットイース)は25%近くも下落するなど、中国ゲーム大手2社の時価総額は合計で約5000億香港ドル(約9兆円)を失うことになった。動画配信のBilibili(ビリビリ)など、中国のゲーム関連銘柄の株価は軒並み急落した。

中国当局の新たなオンラインゲーム規制案が発表され、騰訊控股(テンセント)の株価は大幅に下落した

市場の混乱もあり、中国当局は火消しに奔走した。規制案発表直後の23年12月25日、国家新聞出版署は新たに105の国内ゲームライセンスを認可したことを発表した。ロイター通信は1月上旬に、国家新聞出版署を所管する共産党の中央宣伝部出版局の馮士新局長が23年12月末に解任されたと報じた。そして、今回のゲーム規制案の白紙撤回で混乱の幕引きを図った。

異例の白紙撤回となった今回のゲーム規制案。依然として中国当局は「ゲームは有害」として規制強化に意欲を示しているのは明らかだ。だが、市場の反応を無視する強硬姿勢で規制強化へと突き進まないのは、中国経済の先行きが見通せなくなっているからだろう。
中国国家統計局が1月17日に発表した23年の国内総生産(GDP)は、物価の変動を調整した実質で前年比5.2%増だった。政府目標である「5%前後」は達成したものの、ゼロコロナ政策の影響を受けた22年からの反動増を考慮すると力強さに欠ける。

不況の主因でもある不動産市況は、依然として不動産販売が低調で過剰在庫を抱えている。マンションなどの不動産投資も前年比で約1割減少した。23年10月には新規国債を1兆元発行することを決めて、豪雨被害の復興に向けた公共投資に充てた。「消費の伸び悩みをインフラ投資で補うことで成長目標を何とか達成した」(中国関連の経済アナリスト)との指摘も上がるほどだ。

中国では多くの若者がオンラインゲームに熱狂している=ロイター

習近平氏も経済苦境に言及

24年の経済成長は、4%台半ばと見る市場関係者は多い。バブル崩壊と指摘される不動産は「住宅の在庫水準の高さを考慮すると、24年も調整局面が続き、底入れは25年以降になる可能性が高い」(みずほ銀行中国の伊藤秀樹主任エコノミスト)。

中国経済の中で数少ない成長市場だった電気自動車(EV)などの新エネルギー車の販売も24年の伸びは前年比で2割増にとどまる見通しで、勢いは鈍化しつつある。中国当局にとっては「有害」としてさらなる規制をにらみつつも、6兆円規模にまで復活を遂げたゲーム市場の芽を摘むことはさらなる経済低迷を招きかねないと判断した可能性はありそうだ。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は23年12月31日のテレビ演説で、「経営上のプレッシャーを抱える企業もある。就職や生活上の困難に悩む人々もいる」と発言し、中国の経済環境が厳しい立場にある点を公に認めた。規制強化を進めるだけでなく、経済成長を促す政策をバランス感覚を持って打ち出す必要があるのは認識しているようだ。

もっとも、本来であれば23年中に開かれるはずだった、経済政策の運営方針を定める中国共産党第20期中央委員会の第3回全体会議(3中全会)は日程が決まっていない。3月の全国人民代表大会(全人代、国会に相当)を控える中、経済優先の姿勢は打ち出せないままだ。

(日経BP上海支局 佐伯真也)

[日経ビジネス電子版 2024年1月30日の記事を再構成]』