炎上する国際協力 「ばらまきボンビー」にならぬために

炎上する国際協力 「ばらまきボンビー」にならぬために
風見鶏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA31BVB0R30C24A1000000/

『岸田文雄首相が紛争地や途上国への支援を表明すると、2023年秋ごろからSNS(交流サイト)で「ばらまきボンビー」という言葉が飛び交うようになった。人気ゲームで持ち物をばらまくキャラクターと日本の海外支援を重ねた批判的な発信だ。

外務省が14日にスリランカへの12億3000万円の無償資金協力を発表した時はSNSで「岸田ボンビー」との書き込みがあった。ロシアと戦うウクライナを支える目的で19日に開い…

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』

『ロシアと戦うウクライナを支える目的で19日に開いた経済復興推進会議でも「国内を優先すべきだ」という趣旨の投稿が目立った。

ウクライナ侵攻と円安のあおりで物価が上昇したことが背景にある。賃上げが追いつかず生活が上向かないため、国際協力へ資金を回すことに批判が出やすい環境になった。

内閣府は1月19日に最新の「外交に関する世論調査」を発表した。今後の開発協力のあり方について「なるべく少なくすべきだ」「やめるべきだ」との意見の合計が16.2%と過去10年で最も多かった。

実際には日本の2022年度の政府開発援助(ODA)実績は国民総所得比0.39%で、国連が各国に求める0.7%の目標に届いていない。

首相官邸はネットの炎上に敏感だ。23年12月、ホームページにODAの意義を説明するサイトを設けた。

その中にこんなくだりがある。「ODAの多くは返済が必要な円借款で、無償で提供していない」。円借款は貸し付け条件が緩やかなため一部を「贈与」扱いでODAに計上している実態と整合しない。将来返ってくるという主張に納税者への尻込みが透ける。

開発協力が専門の法政大の弓削昭子教授は改善策として「この国との関係が途切れたら日本がこんな不利益をこうむるという具体的なシミュレーションを見せるくらいのことをやった方がいい」と提唱する。

たとえば22年度の円借款実行額でインドに次ぐ2位になったバングラデシュ。支援の実施機関である国際協力機構(JICA)と宮崎大の事業を通じて年20〜30人ペースで高度IT(情報技術)人材が日本で就職するようになった。

日本がデジタル化推進に向けて各国と人材獲得を争う際の追い風となっている。

日本は食料、エネルギーともに自給率が主要7カ国(G7)で最低の水準だ。国民生活は各国からの輸入で成り立つ。国産化に取り組む努力と並行して外国の経済社会の発展を支え、国際情勢を安定させることは国益にもつながる。

日本が置かれた環境を考えると国内か外国かではなく双方に目を向ける必要がある。

厳しい財政状況でも予算をやりくりして意義を説明するのは政治の役割だ。現実には「国際協力が日本にもメリットがあることを地元でどう説明したらいいか分からないと聞いてくる議員がいる」と外務省幹部は明かす。

中国のような「借金漬け支援」の懸念がない日本の国際協力には信頼がある。能登半島地震の直後、東ティモールにあるJICA事務所には過去に研修を受けた人がアポなしで訪れて連帯の意を伝えた。

国際支援がやり玉にあがるのは納税者が政府のお金の使い方に不信感を抱いているからだろう。ODAのムダや非効率を排除すべきなのは言うまでもないが、足元の自民党派閥の政治資金問題が「ばらまきボンビー」批判を増幅させている面もある。

「政治とカネ」の問題が外交力の低下にもなり得ることを自民党は認識すべきだ。(地曳航也)

【直近5本のコラム「風見鶏」】

・テイラー・スウィフト現象、日本の「もしトラ戦略」に影
・カネの本音、語れぬ自民党 平成の政治改革が残した宿題
・企業・団体献金を考える 岸田首相が触れた1970年判決
・「ビリー・ジョエル」がまた来る国に 16年ぶり公演の意味
・習近平氏はラグビーが好きか 派閥なき一党支配の死角 』