SOMPO桜田CEOが退任 パーパスで企業文化変えられず

SOMPO桜田CEOが退任 パーパスで企業文化変えられず
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC144HJ0U4A210C2000000/

『「今、この場でグループCEO、会長職を辞することを皆さんに申し上げる」

ビッグモーターの保険金不正請求問題をめぐり、2024年1月25日に金融庁から業務改善命令を受けたSOMPOホールディングス(HD)と損害保険ジャパン。両社は1月26日11時に記者会見を開き、桜田謙悟会長兼グループ最高経営責任者(CEO)が3月末で辞任すると発表した。桜田氏は「大きな汚点を残した可能性があることを考えれば、現実にグループの最高責任者である私が責任なしとはありえない」と、会長の退任後は、顧問や相談役にも就かないことを明らかにした。

金融庁は業務改善命令の中で「損害保険ジャパンの内部統制に重大な欠陥があった」と指摘。保険契約の前提となる顧客保護をないがしろにした体制の背景には、子会社の損保ジャパンから親会社SOMPOHDに情報があがりにくい企業風土や、SOMPOHDから損保ジャパンへの、強い収益改善プレッシャーがあった点を挙げている。

記者会見の質疑応答では、こうした金融庁の一連の指摘に関し、経営陣がどこまで把握・関与していたかどうかに焦点が集まった。だが桜田氏からは、明確な回答が得られなかった。それどころか、「グループ全体に欠陥があったとは思いたくない」「損保ジャパンから何の報告もなかったかというと、そういうことはない」などと、釈明する場面が多い印象だった。
桜田CEOは「不徳のいたすところ」と何度も繰り返した(写真=都築雅人)

例えば、収益面でのプレッシャーについて問われた際は「会議で声を荒らげるようなことは一切無かった。(企業風土の問題と指摘され)びっくりしている」(桜田氏)と説明し、言いづらい企業風土があったのではとの質問については「言いづらかったと言われれば、不徳のいたすところ」との回答を繰り返すばかりだった。

残念ながら、会見の様子は「改革派」として損害保険業界のみならず、経済界に名をはせてきた桜田氏のイメージと大きくかけ離れたものだったと言わざるを得ない。

桜田氏は2010年に損害保険ジャパンの社長に就任して以降、15年には介護事業を買収して損保以外の事業への本格進出を主導した。祖業の保険事業を通じて集まる膨大なデータを使った新規事業の可能性にいち早く着目し、米データ分析大手のパランティア・テクノロジーズと資本業務提携も実現。事業環境の変化を見据え、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるなど、計13年9カ月にわたる在任中に、SOMPOグループを大きく変えた。

不正を止められなかったパーパス経営

事業ポートフォリオの変化と並行して注力したのが、売り上げや業界内のシェアを常に意識する、業績重視の社風改革だった。企業の社会的な存在意義を定め、それを社員全員と共有する取り組みを「パーパス経営」として打ち出し、社員一人ひとりの働きがいや目的意識を会社が目指すべき方向性とすり合わせてきた。従業員エンゲージメントを重視し、それによって経営陣の報酬が決まる仕組みも取り入れた。

だが、パーパス経営が実現できていれば、ビッグモーター事件のような一連の不正行為に対し、いち早く声を上げられただろうし、速やかな対処もできたはずだ。

「安全・安心・健康のテーマパーク」により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する――。パーパスの明文化や浸透によってコンプライアンス意識を高め、不正に歯止めをかけることを狙ったが、その仕組みは残念ながら機能しなかったといえる。

パーパスに基づく高い倫理観が、利益重視の体制に勝ることができなかったのはなぜなのか。会見で、その糸口をつかむことはできなかった。SOMPOHDは今後、3月15日までに再発防止策を金融庁に提出し、関係者の処分など新たな組織体制を公表する見通しだ。改善策の中で、パーパス経営をうわべだけのものにしないための仕組みづくりが求められるだろう。

桜田氏は辞任後について「院政はしない。お役に立てるなら、公益に資する仕事をしたい」と述べた。日本の経済界の顔としても知られた、カリスマCEOの辞任騒動は、改めて企業変革の難しさを物語る出来事となった。
辞任後、一切経営に関与することはないと明言(写真=都築雅人)

(日経ビジネス 三田敬大/鳴海崇)

[日経ビジネス電子版 2024年1月26日の記事を再構成]』