史上最高値目前の日本株、上げ持続へカギ握る米中景気
編集委員 鈴木 亮
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGH1468N0U4A210C2000000/
『日本株相場の上昇が止まらない。年初に3万3000円台だった日経平均株価は15日、終値で3万8000円台と34年ぶりの高値水準まで駆け上がった。デフレ脱却により企業の業績が伸び、企業は長年ため込んできた資金を大型買収や株主還元などに使い始めた。個人の資金も動き始め、相場を下支えする。こうした日本の構造的な変革を外国人投資家は高く評価し、日本株投資を再開している。
このところ株価の上昇要因が重なって…
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『このところ株価の上昇要因が重なっている。まず企業業績だ。
発表が終わった23年4〜12月期決算では、製造業の純利益が20%、非製造業では26%増え、両輪そろい踏みの構図が出来上がった。通期では金融含む全産業ベースで13%増益、3期連続の最高益更新が確実な状況だ。決算発表が一巡した時点で、日経平均ベースの1株当たり利益(EPS)は2337円と決算発表前の2280円から3%弱増えた。相場の先高期待を映す指標であるPER(株価収益率)は15.7倍から16.1倍まで上昇し、高いPERを許容できるほど、相場環境が良くなっている。
好調な企業業績、デフレ脱却の表れか
企業業績が好調なのは、日本がデフレ経済から脱却できたためだ。
賃上げ継続の機運が高まり、企業は自信をもって値上げに動き出した。
山崎製パンなど食品会社で増益が相次いだほか、JFEホールディングス、コマツなども値上げ効果で業績が改善した。賃上げで家計の消費する力が強まり、レジャー、電鉄、空運、外食などで増益や最高益更新が相次いだ。
東京証券取引所が後押しする企業の財務体質改善要請を受け、成長に向けた投資や株主への還元が進んでいる。
円安にもかかわらず海外での買収案件が多く、日本製鉄によるUSスチールの2兆円買収計画、積水ハウスの米住宅会社7200億円買収など、海外での大型案件が引きも切らない。KDDIによるローソンの5000億円のTOB(株式公開買い付け)、第一生命ホールディングスによるベネフィット・ワンの3000億円買収など、国内でも積極的な大型投資が目立つ。
手厚い株主還元も追い風
東証が進めるPBR(株価純資産倍率)1倍回復に向けた要請は、企業に自社株買いや増配を促す。
三菱商事は5000億円の自社株買いを決めた。発表済みの1000億円分、配当2900億円を合わせた株主還元は総額8900億円になる。純利益に対する総還元性向は94%と米国企業並みの高水準だ。
三菱重工業は3月末に1株を10株にする大型の株式分割を決めた。同社の株主になるために必要な資金は100万円台から10万円台に下がり、個人投資家への呼び水になる。日清食品ホールディングス、スズキなども初の株式分割に踏み切った。
自社株買いは23年、過去最高の9.6兆円、配当総額も今期、過去最高の16兆円となる見込み。企業は競うように増配、自社株買い、株式分割に動き、さながら「株主大還元時代」の到来を感じさせる。
企業が株主還元を急ぐのは、一つは個人の長期安定株主を囲い込むためだ。
新しい少額投資非課税制度(NISA)が始まり、高配当株を積み立て投資で購入する個人が増える可能性が高い。政府は長く「貯蓄から投資へ」と呼びかけてきたが、実現しなかった。24年になり、ようやく2100兆円の金融資産が動き出す兆しが出てきた。
海外の年金など長期資金も、高い配当利回りの大型株を好む。日本企業の総還元性向は平均50%程度で、90%程度の米国に比べて低い。今後、徐々に高まっていけば、日本株の投資魅力が増す。外国人投資家は1月、2兆円強日本株を買い越した。海外勢の日本株への再投資は始まったばかり。24年はアベノミクス相場の初年度、2013年の年間買越額15兆円に迫る可能性もある。
懸念は中国経済の動向
一方で懸念材料もある。電子部品、化学などで通期業績予想の下方修正が目立った。京セラ、ローム、住友化学などが減益や赤字の拡大を発表した。中国経済は24年も低迷が続きそうで、地方の投資会社、融資平台の不良債権問題がくすぶったままだ。外国人投資家の間で1月、中国株を売り、日本株に乗り換える動きもあったが、中国で稼いできた日本企業も多く、中国経済の低迷は業績悪化につながる。ここまで適温経済を維持してきた米国も、いつまでも好調が続く保証はない。
2月以降の日経平均急騰は、指数への影響が大きいソフトバンクグループ、東京エレクトロンなどが好業績を理由に買われ、指数を押し上げた面もある。「日経平均はあんなに上がっているのに、自分の保有する株はそれほど上がっていない」と感じる個人投資家も少なくないと聞く。
決算発表が一巡し、しばらくは大きな材料がない。ここまでの急ピッチな上昇が一服しても不思議ではない。中期的に日本株が上昇トレンドを維持するには、まず賃上げを継続し、消費の力を一段と高めることが必須だ。そうなれば内需企業の業績拡大が見込める。大統領選挙を控える米国の景気が、今のような好調を維持することも重要だ。米連邦準備理事会(FRB)の利下げに向けたかじ取りも注目だ。足元の円安水準は想定以上で日本株上昇の一因になったが、年央から後半にかけ、急激な円高を回避できれば好ましい。
3月になれば配当、優待の権利取りの買いや、それに伴う機関投資家の先物買いが見込める。4月になれば、日銀のマイナス金利政策の解除や来期の企業業績もみえてくるだろう。企業はこれまで期初段階での通期予想は堅めに出す傾向が強かったが、脱デフレが鮮明になり、経営者のマインドも変わってきた。4期連続最高益更新に向けて機運が盛り上がれば、株式相場の雰囲気も明るくなる。例年4月は外国人投資家の買い越しが増える。日経平均の過去最高値更新が、いよいよ視野に入ってくる。
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