李克強の置き土産
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/33477252.html
『先日、急逝した李克強元首相について、評価は様々あります。政治家として、注目するべき業績を残せなかったという意味で、「凡庸な政治家である」と評価する人もいます。彼が10年間に上る首相期間中に、業績を残せなかった一つの原因は、習近平氏が権限を取り上げたからです。党と行政というのは、胡錦濤時代までは、明確に分けられていて、国家主席は党、首相は行政を担当していました。もちろん、行政は国家主席の意を汲むという前提での話ですが、役割は明確に分かれていたわけです。しかし、習近平氏は、相手が李克強氏であった事もあるでしょうが、現在の行政の細部まで国家主席が口出しできる体制を築く為、何にせよ、委員会を設立して、その委員長に自分が就任する事で、実質的に李克強氏の行政権や人事権を奪ってきました。
こういう回りくどい方法を使ったのは、李克強氏が国民に人気があったからです。少なくても、習近平氏のように、国が災害で傷んでいる時に、役者を使ったロケで安全なところで被災地訪問のプロパガンダ動画を撮っている事は無く、実際に長靴に防護服で現地を訪れ、被災民に遭いに行きました。凄く判り易いのですが、李克強氏が視察に訪れている映像というのは、泥跳ねで防護服が汚れているのですね。しかし、習近平氏の宣伝の為の視察映像では、パリッとした新品の防護服を着ているのです。そして、当時の中央テレビは、そういう泥に汚れた李克強氏を、「品位に劣る」としてディスっていました。もちろん、水害対策も武漢肺炎の感染対策も、個別に委員会を作って、自分が委員長に収まる事で、李克強氏の行政権に干渉しています。なので、経済対策においても、権限は限られていました。それでも、今の李強首相みたいに腰巾着ではなかったので、かなり習近平氏が経済音痴のままで、経済に干渉するのは防いでいたと思います。今や、上海の金融行政にまで、口を出すようになって、問題を更に悪化させています。
李克強氏が評価されるのは、彼の業績として、嘘だらけの地方行政から上がってくる報告を切り捨てて、李克強指数という経済状態を正しく把握する方法を提唱したからです。正しい経済政策は、正しい現状把握無しに成り立たないと考えて、誤魔化しが効かない統計情報を編み出しました。
・工業電力消費量
・鉄道貨物輸送量
・銀行貸し出し残高
この3つの指標で、ほぼ現状を把握できるとしたわけです。地方政府がどんなデータを上げてきても、信用しないという事で、彼の評価が定まったと言えます。近年、提唱された、より大雑把な、各国の経済活動を把握する方法として、夜間に撮影した衛生写真から、その地域の電力の光量を測定して、そこから割り出す方法が話題になっています。もちろん、数値として、正確に経済規模を割り出せるようなものではありませんが、公表される数字が正しいかどうかのチェックには使える事が判ってきています。
私は、数年前にアメリカの鉄道貨物輸送量の統計を根拠として、「アメリカの株価は好調で、経済は良いとされているけど、鉄道輸送貨物輸送量は右肩下がりで一貫している。だから、上澄み企業の業績とは反して、アメリカ経済の足腰は弱っている」という投稿をしました。貨物の輸送量というのは、経済活動と比例するもので、真実を告げる指標の一つです。また、上っ面の報告書で、細工をしようと思い至らない地味な統計という点でも、嘘が混じらない可能性が高いです。李克強指数では、鉄道貨物輸送量を軸に入れていましたが、中国の陸送でも同じように低下が起きています。
つい先日、ブリジストンが中国から完全に撤退しました。アメリカでの生産量を増やしている事からみても、需要が減っているわけではありません。EVだろうがガゾリン車だろうが、タイヤは使いますからね。ならば、なぜブリジストンが、大量にタイヤを消費してくれそうな中国市場から撤退したのでしょうか。まずは、競争の激化があります。中国製のタイヤは安いです。しかし、質も悪いです。その質の悪さは、つい2年前のロシアのウクライナ侵攻で、重量負荷の高い戦闘車両のタイヤに、安い中国製を採用していたら、悪路の走行で次々にバーストして動けなくなっていた事からも判ります。最も質の悪いタイヤだと、ゴムを作る時に水の割合を増やして、シャブゴムにして作る方法もあるようです。
なので、陸送など業務で激しく使っている業界では、結果的に高くてもブリジストンのタイヤを使っているほうが、コストが安く済んでいました。ブリジストンのタイヤだと、すり減ったら、タイヤ再生屋という業者に中古で売って、代金の一部を回収できるそうです。タイヤ再生屋は、すり減ったタイヤの表面を再生して再販するわけですね。それに耐えられる品質がブリジストンのタイヤには、あったという事です。
ところが、まず、運送料の値下げ競争が厳しくなって、高いタイヤを買っている余裕が無くなって、売れなくなったという事があります。それと、2016年をピークにして、陸送での貨物輸送量が、年間で100億トン減っています。ちなみに、日本の年間の陸送での貨物輸送量が50億トン程度なので、その2倍の需要が減ったという事になります。貨物輸送というのは、資材を工場に納入するか、商品を宅配などで輸送するかなので、生産と消費の両方で、大幅に減っているという事になります。それも、武漢肺炎前に、既にピークは過ぎていたという事です。それと、このブログでも、何回も取り上げているのですが、罰金経済になっていて、陸送しているトラックを標的に、取り締まる側が計量計に細工をして、過積載の罰金を不正に徴収する事を始めています。
この件では、面白い事件が起きてまして、罰金徴収を目的にした過剰な取締に耐えかねて、運送会社が警察のパトカーにGPS発振器を取り付けて、パトカーの場所を把握して、取締を避けて運搬するという事をやっていて、バレた事件がありました。つまり、事業継続が難しいくらい、罰金を苛烈に取り立てているという事です。地方によっては、年間で決まった罰金を納付しておけば、交通違反が免除されるという先納方式で、罰金を徴収している自治体もあります。とにかく罰金を取るのが目的になっているので、これがコストとして経済を圧迫しています。
日本で発表されるのは、中国政府の公式統計だけなので、経済の実体と乖離した議論がされていますが、既に2016年から実質的な景気後退は、始まっていたという事になります。会計ベースの数値ではなく、経済が動いていれば増加せざるを得ない統計に着目して、実質経済を割り出す手法を考えだしたというのは、李克強氏の置き土産と言えます。また、派手に利益を出している上澄みの株価だけで、国全体の経済を判断しない為の重要な視点とも言えます。』