インドとモルディブ、白いビーチが浮き彫りにした亀裂
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM102EV0Q4A210C2000000/
『インドとモルディブの関係が急速に冷え込んでいる。モルディブで2023年11月に誕生したムイズ政権は「反インド」を掲げ、中国傾斜が止まらない。そんな中、インドのモディ首相が自国のビーチへの訪問をSNSに投稿したことが、新たな火種を生んだ。
新年早々の1月4日、モディ氏がアラビア海に浮かぶ連邦直轄地のラクシャドウィープ諸島を訪れ、シュノーケリングをしたり、白砂のビーチを散歩したりする写真をX(旧ツイ…
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』
『この投稿にかみついたのが、世界有数のリゾート地を抱えるモルディブの3人の閣僚だ。モディ氏の投稿を、インド人観光客を奪うための「悪質なキャンペーン」だと反発。イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突で、イスラエル支持を打ち出したモディ氏を「テロリスト」「操り人形」とこき下ろした。モルディブの国教はイスラム教だ。』
『インドの反応は素早かった。政府関係者や映画産業「ボリウッド」のスター、クリケット選手らは「#BoycottMaldives(ボイコット・モルディブ)」のハッシュタグとともに、国民にラクシャドウィープを訪れるよう呼びかけた。印財閥のタタ・グループは同地でのリゾートホテルの建設を発表。インドの旅行サイト「EaseMyTrip」はモルディブ便の予約を停止した。
その後、モルディブの閣僚3人は投稿を削除。大統領から停職処分を受けたが、インド国内の反モルディブ感情は今もくすぶったままだ。』
『インドとモルディブは歴史的に関係が深い。モルディブには、災害派遣や医療救助のための輸送機運用の任務でインド軍が80人ほど駐留している。しかし、23年11月に就任した親中派のムイズ大統領は、就任直後に「自国の主権を脅かす」としてインドに軍の撤退を要求した。
1月10日、中国の習国家主席(左から3人目)と握手をするモルディブのムイズ大統領(同2人目)=モルディブ大統領府提供
近年、モルディブは親中と親印の政権が交互に誕生するなど、2つの大国のはざまで揺れる。それでも、歴代のモルディブ大統領の最初の訪問国はインドが定石だった。しかしムイズ氏は、先に北京へ飛んだ。1月10日、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談。両国関係を包括的戦略パートナーシップに格上げすることで一致した。』
『モルディブ観光省によると、23年に同国を訪れたインド人は20万9198人と1位だ。その後ろをロシア(20万9146人)と中国(18万7118人)が追う。新型コロナウイルスの感染が拡大するまでは中国がトップだった。20年以降はインドが中国を上回る状況が続く。
ムイズ氏は訪中した際、モルディブへの観光客を増やす努力をするよう中国側に求めた。ラクシャドウィープを巡る一件で、インド人客が激減すれば観光立国の経済への影響は計り知れない。その穴埋めを中国にすがった形だ。
モルディブは国家債務の約4割を中国に負っており、その額は30億ドル(約4500億円)に上るとされる。』
『2月6日、国際通貨基金(IMF)はモルディブについて「大幅な政策変更がなければ、全体的な財政赤字と公的債務は高止まりする」と予測。「債務危機のリスクが依然として高い」と警告した。多額の貸し付けへの返済が滞るとインフラ権益を奪う「債務のわな」の可能性がちらつく。』
『モルディブの中国傾斜をインドが警戒
それでも中国傾斜へカジを切るモルディブ。同国政府は1月、中国の海洋調査船が首都マレに停泊することを許可した。この調査船は民間調査と軍事監視の両方が可能とされる。「人員交代と補給」が目的だというが、収集されたデータが中国軍の海中軍事作戦、特に対潜水艦戦能力の強化に利用されるのではないかとインドは警戒する。
インド政府はあからさまな「意趣返し」に出た。今月1日に発表した来年度の暫定予算案で、モルディブへの補助金と融資の総額を前年度より2割削減。その分を隣国ブータンやネパールに割り振ったのだ。
今回の出来事は一見、SNS上のささいな摩擦に見えるかもしれない。しかし、長年、インドに財政面だけでなく外交関係を縛られてきたモルディブの不快感や、ナショナリズムの高まりによる緊張関係を浮き彫りにした。』