脱マイナス金利、退路断った日銀 戦略的曖昧さも

脱マイナス金利、退路断った日銀 戦略的曖昧さも
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB091E70Z00C24A2000000/

『日銀が金融政策の正常化に向け、手探りの発信を進めている。市場参加者の大半が4月までのマイナス金利解除を見込むなか、市場との対話は詰めの段階に入る。政策判断の時期が近づけば近づくほど、日銀幹部の発言は一言一句が重みを増す。できるだけ具体化した説明をしつつも、あえて曖昧さを残すことで自由度を保とうとする戦略が浮かぶ。

「想定以上に『ハト派』との受け止めだった」。8日、内田真一副総裁が奈良県の金融経済…

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『近い将来のマイナス金利の解除を既定路線として織り込む市場にとって、関心は解除後の利上げペースに集中した。「どんどん利上げしていくようなパス(道筋)は考えにくい」。内田副総裁は「経済・物価情勢次第」と説明し、具体的な説明は避けた。海外など一部の投資家が想定する、2%程度への急ピッチな利上げは「期待インフレ率が2%で固定されている欧米とは異なる」として否定した。

内田副総裁が言及した「どんどん」は、関係者によれば、内田副総裁はじめ執行部内で話し合うなかで出てきた言葉だった。「曖昧さを残すことが大事だった。目をつぶって、あらかじめ決まったコースに沿って利上げするわけではないということを言いたかった」(日銀関係者)』

『執行部でもある内田副総裁の講演は、審議委員の講演よりも「(金融政策の企画・立案を担う)企画局の見方をより色濃く示すものになる」(日銀関係者)。植田和男総裁の記者会見での発言を踏み越えない形で「今後の金融政策についてギリギリまで具体的に説明した」(同)との認識が行内にはあった。』

『例えばマイナス金利解除後の政策金利の設定。「マイナス金利導入前の状態に戻すとすれば」(内田副総裁)と仮定し、「0.1%の利上げになる」と説明した。「短期金融市場の機能をどう維持するかが論点」と述べたうえで、現在3層で設定している日銀当座預金の構造を1層構造にする可能性をもにおわせた。』

『元日銀審議委員で野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は「金融経済懇談会の挨拶で、金融政策の説明にここまで時間を割くのは珍しい」と指摘する。金融政策の前段では経済情勢や物価見通しの説明をするが、今回の講演ではその部分も日銀の政策判断に直結する「賃金と物価の好循環」の解説に重点を置いた。

木内氏は「政策修正の時が近づいたことと、金利はそこまで上がらないという2つのメッセージを同時に伝えるための講演だった」とみる。』

『「金融市場に不連続な動きを生じさせることがないよう工夫する」。内田副総裁の説明通り、日銀は段階的に発信を強化してきた。1月会合で発表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」に、2%物価目標の実現が見通せる「確度が高まっている」と記し「金融正常化に向け退路を断った」(日銀関係者)。』

『3月18〜19日の次回の金融政策決定会合まではまだ1カ月超あり、今後も日銀発信は公開・非公開の場で続く。日銀の正木一博企画局長は8日と9日、都内で金融関係者やエコノミストなどに対して非公開で講演した。

「内田副総裁の講演と同じ内容ではあったが、物価の下振れリスクを注視していることがうかがえた」(正木局長の講演に参加したエコノミスト)。戦略的な曖昧さを残しつつ、徐々に解像度を高めている日銀。様々な場での発信を通じて、日銀の考え方への市場の理解が深まっていけば、実際の正常化局面での混乱は避けられる可能性が高まる。』