欧州3台に1台がハイブリッド車 EVシフトは見直し必至
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『新車販売の3台に1台がハイブリッド車──。欧州でハイブリッド車が売れている。2017年から23年までの6年間で、新車販売に占めるハイブリッド車の比率は30.7ポイントも増加。一方で電気自動車(EV)は13.1ポイントの増加にとどまった。欧州各国は補助金をはじめ各種の優遇策を繰り出してきたものの、欧州委員会が推してきた「EVシフト」には依然、勢いが見られない。
欧州は35年までに全ての新車をゼロエ…
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『2024年2月8日 5:00
新車販売の3台に1台がハイブリッド車──。欧州でハイブリッド車が売れている。2017年から23年までの6年間で、新車販売に占めるハイブリッド車の比率は30.7ポイントも増加。一方で電気自動車(EV)は13.1ポイントの増加にとどまった。欧州各国は補助金をはじめ各種の優遇策を繰り出してきたものの、欧州委員会が推してきた「EVシフト」には依然、勢いが見られない。
欧州における車種別の新車販売比率の推移。プラグインハイブリッド車(PHEV)をハイブリッド車に加えた。ただし、ACEAが2020年までPHEVをEVに加えて「ECV(外部充電可能車)」に分類していたため、ここで示したEVのデータは17〜20年はEV+PHEV、21〜23年はEVだけとなっている。従って、ハイブリッド車は17〜20年まではHEVのみ、21〜23年はHEV+PHEVとなっている(出所:欧州自動車工業会=ACEAのデータを基に日経クロステックが作成)
欧州は35年までに全ての新車をゼロエミッションとする基本方針を掲げている(合成燃料「e-fuel」のみを使用する車両を除く)。そのため、ここではエンジンを搭載したプラグインハイブリッド車(PHEV)をハイブリッド車に加えた。すなわち、いわゆるHEV(ストロングハイブリッド車とマイルドハイブリッド車)とPHEVを合計したものをハイブリッド車として上図では示している。
17年に2.8%だったハイブリッド車は、23年に33.5%まで比率を高めた。年平均で約5.1ポイントの伸びを見せている。これに対し、17年に1.5%だったEVは、23年に14.6%まで比率を高めた。だが、年平均で見ると約2.2ポイントの伸びにとどまっている。
これらの数字から、この6年間で欧州では「ハイブリッドシフト」がより鮮明になった。欧州委員会が主導してきたEV推しの政策に、市場(顧客)の反応は弱いままだ。
ガソリン車は下げ止まりか
一方で、「エンジン車離れ」はさらに進んでいる。ここでエンジン車とはガソリン車とディーゼル車の合計である。17年に94.3%だったエンジン車の比率は、23年に48.9%まで急落した。実に45.4ポイントの落ち込みである。中でも、ディーゼル車の不人気は一目瞭然だ。ディーゼル車の比率は17年の44.0%から23年の13.6%と30.4ポイントも落ち込んだ。
ガソリン車も17年の50.3%から23年の35.3%まで15.0ポイント落ちている。ところが、直近の変化を見ると興味深いことが分かる。ポイントの下落幅が7.6→3.5→1.1と急速に縮小しているのだ(20年:47.5%、21年:39.9%、22年:36.4%、23年35.3%)。これはつまり、欧州においてガソリン車の販売は下げ止まりつつあるということなのかもしれない。
さらにここで、エンジン車とハイブリッド車を合計した「エンジン搭載車」で見ると、エンジンの根強い需要が分かる。確かに、エンジン搭載車の比率は17年の97.1%から23年の82.4%まで下がった。14.7ポイントの下落だ。
だが、二酸化炭素(CO₂)を排出するエンジンの廃止を狙ってこれまで欧州委員会がEVシフトを声高に叫んできたにもかかわらず、依然として新車販売の8割を超えるクルマがエンジンを載せているというのが欧州の現実なのである。
新車販売におけるエンジン搭載車の比率。2023年のデータ(出所:ACEAのデータを基に日経クロステックが作成)
ここから35年までの残りの12年でゼロに持っていくには、年平均で6.9ポイントも下げていかなければならない。だが、最も不人気のディーゼル車でさえ、この1年(22年から23年)の下落幅は2.7ポイントまで縮小している。
どう見ても、欧州委員会が推す35年ゼロエミッション計画は破綻しつつある。計画の見直しが必要だろう。
ドイツが補助金停止、EVシフトは頓挫の可能性
HEV人気が鮮明。補助金停止の影響なのかPHEVはこの1年で失速したものの、HEVの伸びはEVのそれを上回っている(出所:ACEAのデータを基に日経クロステックが作成)
実は、この1年(22年から23年)の変化だけを見ると、ハイブリッド車の伸びは1.5ポイントであるのに対し、EVのそれは2.5ポイントとEVに軍配が上がる。これはPHEVが-1.7ポイントと足を引っ張ったためだ。
ところが、ハイブリッド車をHEVとPHEVに分けると、興味深いことが分かる。この1年のHEVの伸びは3.1ポイントと、EVの伸びを上回っているのである。すなわち、足元でもHEVはEVよりも勢いがあるということになる。
欧州で最大の市場であるドイツは、23年12月にEVへの補助金の支給を停止した。ドイツは16年から補助金の支給を開始し、100億ユーロ(約1兆6200億円)と巨額の補助金を支出。これが210万台のEV購入を支えた。なお、ドイツはEVに先立ち、23年1月からPHEVへの補助金の支給も停止した。上述のPHEVの減速にはこの影響もあると見られる。
このまま欧州各国で補助金の支給停止や減額が続けば、欧州委員会が描いたEVシフトは実現に向かうどころか頓挫する可能性もある。
しかも、EVは「環境車」としての位置付けも微妙になりつつある。製造時のCO₂排出量がガソリン車に比べてかなり多い、廃車時の電池のリサイクル基盤が十分に構築されていないなど、実はカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出量実質ゼロ)をはじめ環境負荷軽減につながるとは必ずしも言い切れないという事実が一般にまで広まりつつあるからだ。
EVがカーボンニュートラルに貢献するには再生可能エネルギーを使うという条件が必須だ。その整備が十分に進んだ国・地域でなければEVの環境車としての価値は下がる。
独フォルクスワーゲン(VW)は、世界におけるEVの販売比率を30年までに50%(欧州で70%、米国と中国は50%)に引き上げるという意欲的な目標を掲げている。ところが、23年のEV販売比率は8.3%。目標を達成するには、残り7年で40ポイント以上、年平均で約6ポイントも伸ばさなければならない。
フォルクスワーゲンのEV。上が「ID.3」で下が「ID.4」(出所: フォルクスワーゲン)
台数を大きく稼ぐには価格を抑えたEVを市場投入するしかないが、コスト構造を踏まえると、価格が300万円台以下の量販タイプのEVで十分な利益を出すのは至難の業だ。低コストに関してよほど革新的な造り方を考案しない限り、下手をすると赤字となる恐れもある。
価格を下げるには、電池容量を極力減らす方法も考えられる。だが、それでは航続距離が短すぎて車両としての商品力が落ちるため、販売台数の大幅な増加は期待できないだろう。
欧州委員会と歩調を合わせてEVシフトを推し進め、カーボンニュートラルの実現と自動車業界における復権を狙ったVW。だが、いまだに販売台数の約9割をエンジン搭載車が占めており、それで大きな利益を生み出しているというのは皮肉な話である。VWのEVシフト計画も早晩、見直しを余儀なくされるのではないか。
(日経クロステック 近岡裕)
[日経クロステック 2024年1月25日付の記事を再構成]
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山本真義
名古屋大学未来材料・システム研究所、名古屋大学大学院工学研究科電気工学専攻 教授
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別の視点先日、2023年モデルのテスラ・モデルYの分解ボディを見ましたが、ギガキャストと呼ばれる一括プレス方式アルミボディは既存の自動車に対する考え方を変えています。
このボディでは衝突すると全損扱いになりますので修理は難しいです。しかし世界的にディーラー数を多く持たないテスラは修理を前提としたビジネスをしていません。その上で、非常に安く車を作れます。この記事にあるようにBEVではバッテリーの価格が高いので、バッテリー搭載量を減らすか他の工程でのコストダウンかを求められますが、テスラは後者を選択しています。
日本は様々な視点から上記のテスラの戦略を執り難いのでHEVを主軸にしたビジネスが吉でしょう。
2024年2月8日 16:00 (2024年2月8日 20:45更新)
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