人が生まれた国を捨てる時

人が生まれた国を捨てる時
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/33469015.html

『 現在、アメリカに大量の中国人難民が押し寄せています。2022年に比べて、2023年は17倍です。人数にすると、1万人以上。南米からアメリカに不法入国するのに比べると、中国からアメリカへ不法入国するのは、格段に難易度が上がります。資産持ちの場合、正規の手続きでアメリカに移民する事も可能なのですが、そうでなければ不法入国するしかありません。それには、旅行を装って、メキシコに入国するルートがある国へ観光を名目にして渡航し、そこで行方をくらまして、何とかしてメキシコに侵入、その後に越境商売をしているブローカーにコンタクトを取って、手間賃と引き換えに国境まで連れて行ってもらう事になります。メキシコとアメリカの国境地帯は、途中に峻険な地形とジャングルがあって、普通に行き倒れる危険があります。そして、国境から先は、自分で生き残る術を考えなければなりません。

ちなみに、以前の投稿で、テキサス州の国境で州兵が設置した有刺鉄線を巡って、撤去するしないで揉めているという記事を書きましたが、更に剣呑な事になっています。いわゆる民兵の一部が、不法に越境してくる移民を、ライフルで狙撃する準備をしている事が発覚して、摘発されました。いわゆるマン・ハントです。こう書くと、映画の話に聞こえますが、実際にやろうとして準備を進めていたアメリカ人がいるという事です。有刺鉄線除去を巡る、連邦国境警備隊とテキサス州の葛藤は、これくらいの緊張感にまで高まっているという事です。

つまり、越境するのは大げさではなく命がけという事です。それでも、中国人がアメリカを目指す理由は、3つあります。経済的豊かさが、その人の人格を評価する大部分になってしまっている中国では、お金持ちになる事へのモチベーションが異常に高いです。農村籍と都会籍で、そもそも住み分けが政府から強制されて、自由に移動ができず、多くの場合職業も限定されてしまう中国人民にとって、全てを失っても、チャレンジできるチャンスのあるアメリカの方が良い環境に思えるという事が一つです。これは、経済難民と解釈しても良いでしょう。そして、次には、思想的な問題です。中国の憲法では、信教の自由は認められていますが、実際には法輪功のように、存在自体が取締の対象になる宗教が存在します。キリスト教の教会も、イスラム教のモスクも、少数民族の住む地方には存在しますが、強制的に建て直しを命じられて、外観を中華風の建築に変えさせられます。そして、明らかに存在が歓迎されていません。特に、過激派を招き入れ易い、イスラム教は、事実上、迫害の対象です。特にチベット族に対しては、再教育と称して、宗教を捨てる事を強要しています。また、政治思想的に監視社会である中国にいる事自体が耐えられない人もいます。

そして、最後なのですが、「国家に裏切られた」と感じる仕打ちを受けた時です。共産党政府は、成功者が築いたものを奪う事に何の頓着もありません。時には、親の時代から始めた商売で、長い時間と手間をかけて、それなりに手広く成功すると、突然、店舗や会社を接収されたりします。そうならない為に、日頃から賄賂を渡していないと、それ自体が「生意気だ。」と処罰の対象になるのですね。自分達に上納して、媚を売らない事が、権威を傷つけられたと判断する権力者が普通にいます。みかじめ料を払わないのがケシカランというわけです。逆に言えば、政策を立案・実行する権限がありながら、自分で繁栄を築く才覚が無いので、他人が成功したのを確認してから成果だけ奪うわけです。裁判所も共産党の味方なので、ターゲットになった時点で詰みです。あのテンセントですら、習近平氏に嫌われたというだけの理由で、数千億円もの罰金を課せられたり、行政が指定した土地の賃借権を買わされたりしています。断れないという意味で、みかじめ料みたいなものです。

無力な個人が、こういう扱いを受けると、「この国なんかにはいられない」と決断する契機になります。国家に裏切られた、踏みにじられたという感情は、命を賭けて他国に亡命する決断をさせるには、十分です。自分が積み上げてきたモノを全否定される事くらい、自尊心を傷つけられる事は無く、これは、本気で努力してきた人にしか理解できない感覚です。立場を利用して、処世術で渡ってきた人には、核になるモノが無いので、失っても惜しくも無いのですが、自身で立場を築いてきた人にとって、それを奪われる事は、生まれ変わろうと決心するには十分な動機になります。亡命の困難さから見て、ここ最近で増えているのは、政治・宗教的な理由か、こうした収奪によって人生が狂わされた人々だと思われます。

中国の大手不動産企業にSOHO中国という会社があります。この企業の共同設立者の一人である藩石屹氏は、会社が弱小だった頃から、故郷の甘粛省天水市に対して寄付をしてきた篤志家として知られてきました。共同経営者の片方は、妻なので、夫婦二人三脚で育てた会社という事になります。名前からして判るように、一般向け住宅ではなく、オフィスビル特化で成長した企業です。ソーホーは、アメリカのマンハッタン島にあるブティック街ですし、ロンドンでは有名な歓楽街だった地区です。商業施設の開発を専門に手掛けていました。

故郷の壊れた学校の建物の修復の為に、その当時、工面できる自分の財産から400万などの額を寄付してきました。自分が、その時にできる事をするという正しい努力を積み重ねてきた人物です。ところが、当時の天水市の行政は、その寄付金の大部分を着服して、必要最低限を修復だけを行い、それで済ましていました。その後、中国が水害に見舞われた時にも、天水市に対して2億円の寄付をしていたりと、地元に対する貢献をしてきていて、非難される謂れは無いはずでした。しかし、中国でも有数の不動産会社に成長すると、「地元に上納する額が少ない」として、地元の官僚達が怒り出します。

実は、自分の寄付した金額の大部分が使途不明金になっている事で、藩石屹氏は現地政府との接触を嫌っていました。寄付はしていたのですが、頭を下げにこない。それが、地元官僚にとっては、権威にひれ伏さないとして気に入らなかったのですね。便宜を図ってやる代わりに、今の数倍の金を持って、かつ平伏低頭して頼みにくるのが「礼儀」だと考えていたわけです。権限だけで私服を肥やす官僚に、ありがちな態度です。権限を持つ事で、周りを無条件に見下して良いと考えるタイプですね。共産党政権って、巨大な官僚組織なので、出世と権限が自分の価値とイコールであると考える人が多いのですね。なので、資産家で、ゴマすりにこないと、それだけで不機嫌になるのです。そして、個人に対して贈賄しないのが気に食わないのですね。寄付って、行政に対して行うわけで、直接、自分の懐が膨らまないじゃないですか。だから、「そういう社会の仕組みの判ってないヤツは、嫌われる」わけです。直接、金を包んで持って来いという事です。

そして、ここが叩き上げの起業家の一味違うところというか、藩石屹氏は、中国の不動産バブルが弾ける前に、所有していた不動産を高値で売り払って、6000億円の資産に替えているんです。そして、SOHO中国の事業自体も、ブラックストーンという外資の投資グループに売却しようとしました。他の中国の大手不動産会社が、不良債権化した不動産を抱えて、身動きが取れなくなっているのを見ると、この決断の早さと、思いっきりの良さは、「未来視でもできるのか」と思ってしまいます。しかし、この事業の売却計画は、中国政府の横槍で頓挫しました。

恐らく、今まで我慢して中国に留まっていたのでしょうが、もはや、餓鬼のごとく賄賂を公然と要求してくる故郷にも中国社会にも未練は無いと思いますので、事業の売却に失敗しても、何らかの方法で、表舞台から姿を消して外国へ移住すると思われます。資産は十分に確保しましたからね。彼の二人の息子は、ハーバード大学とイェール大学を卒業していて、既に生活の基盤は海外です。そして、こうした大学に総額で150億円の寄付もしています。中国国内に対する寄付との額の違いに、いわゆるピンクちゃんと呼ばれる、中国人の無条件愛国主義者が、「売国奴」、「漢奸」とネットで罵っています。しかし、元はと言えば、教育資金を提供する事で、貧困地域の学生や家族の運命を変えようと、事業が小さい時期から、できる範囲で最大の寄付を続けてきた彼の努力を無にして、着服してきたのは、それを当たり前とする地方行政の官僚達です。つまり、「与えるだけ無駄」と、彼の郷土愛を挫いたのは、中国社会そのもの。自力で稼いだ金の使い道を、非難される謂れは無いです。

彼は資産家で目端が効くので、手続きを踏んで、故国を捨てて、海外へ移住します。それが、できない人で、国家に搾取された人は、命を賭けてアメリカへ亡命します。どちらも、生まれた国を捨てようと決心するには、その人の人生を踏みにじられた経験があり、それは固い決意になるものなのです。』