中国、愛国教育を強化へ 元日に新法施行

中国、愛国教育を強化へ 元日に新法施行
https://www.cnn.co.jp/world/35214468.html

『2024.01.28 Sun posted at 11:30 JST

香港(CNN) 12月のある日、中国南東部の都市、福州の中学生たちが、習近平(シーチンピン)国家主席の思想を学ぶために地元の公園に集まった。

生徒たちは、「政治とイデオロギーの歩く教室」と書かれた赤い横断幕を広げ、「悟り」を求めて、2021年に習氏が地元を訪問した際に歩いた道をたどった、と国営メディアは報じた。

また中国北部の沿岸都市、天津では、若者のグループが要塞(ようさい)を見学し、「外国からの攻撃に立ち向かった中国人たちの悲劇的な歴史」に思いをはせた。

これらの活動は、近年、中国が進める国家主義教育の強化の一環であり、今月1日には愛国主義教育の強化策を盛り込んだ新法「愛国主義教育法」が施行された。

この新法は、「国家の結束強化」を目的とし、幼い子どもから、あらゆる分野の労働者や専門家に至るまで、全国民の仕事や学習に国家と中国共産党への愛を盛り込むことを義務付けている。

中国政府の報道官は先月、同新法は「思想の統一」および「強い国づくりと国家の活性化という偉大な目標を達成するために国民の力を結集すること」を目的としている、と述べた。

中国の国民が国や共産党を愛するよう強要されるのは今に始まったことではない。中国では、約75年前の建国以来、愛国主義やプロパガンダが教育、企業文化、生活の重要な一部となっている。

中国の愛国主義は、ここ数十年で最も独裁的な指導者である習氏の下で一層強化されてきた。

習氏は、国を「活性化」し、世界で強力かつ重要な地位を確立すると公約するとともに、西側諸国との緊張が高まる中、攻撃的な「戦狼外交」を奨励してきた。

この極端な国家主義はソーシャルメディアにも浸透しており、ライブ配信者、コメディアンから海外のブランドに至るまで、中国を侮辱したとみなされると激しい反発や不買運動に見舞われる。

習氏は以前から、国民生活のあらゆる面で共産党の存在感を高める取り組みを進めており、今回の新法制定もその延長線上にある。』

『しかし、中国では数年に及ぶ厳格なゼロコロナ政策の結果、2022年に若者たちによる前例のない規模の抗議行動が勃発。また現在も経済は低迷し、若者の失業率は過去最高を記録した。このような状況下で新法が施行され、国民の不満は今後さらに高まる恐れもある。

この点、専門家らは、中国政府はこの新しい法的枠組みについて、今後さまざまな課題が予想される中、社会の安定を確保するために、国民の愛国主義を駆り立て、力を結集するための手段と見ている可能性もあると指摘する。

中国は長年、国民が国のビジョンを一種の「社会契約」のように受け入れてくれることを当てにしてきたが、今後数年間は大きな困難に直面するだろう、と語るのは、英ノッティンガム大学の准教授で中国政治が専門のジョナサン・サリバン氏だ。

サリバン氏は「景気の低迷が長引けば、国民を説得するのは困難になるだろう(中略)中国政府は、政治的に正しい考え方を完全に確立し、共産党の手段こそ中国にとっての唯一の手段であり、国を愛しているなら共産党も愛すべき、という考え方を確固たるものにしようと努めている」と述べた。

香港では19年に民主化を求める大規模なデモが起きて以来、中国政府のこのメッセージが強調されてきた。

中国政府は、香港で新世代の愛国者たちを育成する意向を明確に示し、愛国主義教育の規則と、非愛国者とみなされた者が公職に立候補することを禁じる政治的制約を導入した。
また今年は10月1日に中華人民共和国建国75周年を迎える。当局者らは、愛国主義が間違いなく祝福され、国民からの反発の可能性を完全に排除しなくてはならないというプレッシャーにさらされることだろう。

あらゆる階層に向けた愛国主義カリキュラム

新法の下では、科学者からアスリートまで、全ての専門家は、「国に栄光をもたらす愛国的感情や行動」を国民に啓蒙(けいもう)するよう促されている。

また地方当局は、博物館や中国の伝統的な祭りといった文化財を活用して「国と家族への思いを高める」こと、そしてニュース報道、放送、映画を通じて愛国主義教育を強化することが義務付けられている。

さらに宗教団体も、「教団職員や信者たちの愛国的感情や法の支配への意識を高める」ことが求められている。中国政府は、宗教の「中国化」を推進するとともに、宗教に対する規制を強化しており、この規定はそうした動きとも一致する。』

『中国政府は、今回の新法制定以前にもさまざまな取り組みを行っており、16年には教育部が、学校教育の全ての段階、側面において全般的な愛国主義教育の導入を義務付ける命令を出した。この命令が、今回の新しい統一法の主要な部分を担っている。

また、子どもから大人まで、全ての人々が「新しい社会主義思想を学べる」スマートフォン用アプリも開発され、9000万人の共産党員全員と、多くの国有企業の従業員がアプリの使用を義務付けられた。

また新法では、「あらゆる教育機関の全ての学年において」教科や教材に愛国主義教育を盛り込み、さらに家庭でも親が子どもたちに愛国的な活動に参加するよう促すことが義務付けられている。

「これは習氏の権力強化と関係している。習氏は、早い段階から愛国主義教育を始めたいと考えている」と語るのはシンガポール国立大学リークアンユー公共政策大学院のアルフレッド・ウー准教授だ。

ウー氏は、今回の新法制定の目的は二つあり、一つは幼少期から習氏への忠誠心を育むこと、そしてもう一つは、過去10年の好景気を経て、今、中国政府は習氏の権力の強化に重点を置いているというメッセージをより多くの人々に発信することにある、と指摘する。

また同新法は、博物館や図書館といった文化施設を愛国主義教育の活動の場に変えること、また観光地を「愛国心をかき立てる」場所に変えること、の2点も義務付けている。

各学校に対しても、生徒たちがこれらの場所を訪れる遠足や修学旅行を計画するよう求めており、当局者はこれらの旅行を「政治とイデオロギーの歩く教室」と呼んでいる。

中国では過去にもこのような遠足や修学旅行は一般的に行われていたが、今回の新法の制定により、各学校にそのような旅行を計画する法的義務が課されることになった。

中国の非愛国的行動の禁止を目的とした法律は他にもあり、例えば、国旗の冒とくや兵士への侮辱も法律で禁止されている。また最近の習政権の下では、政府に異議を唱えただけで(例えば、ネット上で党の路線に反するコメントをしただけでも)当局に目を付けられる。

しかし、今回施行された新法は、現行法では処罰の対象ではない行為に対する罰則の導入を示唆しているようだ、とニュージーランドのビクトリア大学ウェリントン校の上級法律講師、葉瑞萍氏は指摘する。

例えば、同法は「侵略、戦争、虐殺を擁護、賛美、否定する行動」や「愛国主義教育施設を損なう行為」は処罰の対象となりうると定めているという。』