米当局、SPACの開示規制強化 上場ブーム終息へ
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『【ニューヨーク=竹内弘文】米証券取引委員会(SEC)は24日、特別買収目的会社(SPAC)の規制強化を決めた。買収企業の業績予想開示に関わる法的責任を明確にする。通常の上場に比べ緩かった「規制の穴」は埋まり、すでに失速していたSPACブームは名実ともに終わりを迎えそうだ。
SPACは自身で事業を営まず、事業会社の買収のみを目的とした会社だ。「空箱」としてひとまず上場する。未上場企業はSPACとの合併を経て、株式公開企業の地位を得られる。伝統的な新規株式公開(IPO)以外の上場手段として一時期、注目を浴びた。
調査会社SPACインサイダーによると2020〜21年だけで米国では861社のSPACが上場し、約2500億ドル(約36兆9000億円)を調達した。新型コロナウイルス禍の経済対策による緩和マネーがSPACブームを後押しした。
合併時に出す業績予想も個人投資家などの関心を集める要因だった。
SPACの業績見通し開示は従来、証券民事訴訟改革法(PSLRA)の免責対象で、故意でない限り予想が外れても民事賠償を回避できると解釈されていた。成長性をアピールするため「バラ色」の計画となりがちだった。
米国では通常のIPO銘柄は訴訟リスクを回避するため、業績予想を開示しないのが一般的だ。
24日にSECが採択した規則ではSPACの業績見通し開示を免責対象外とする。SECのゲンスラー委員長は「従来型のIPOにおける投資家保護と整合性のとれたものになる」と述べた。新規制では、SPAC設立者が得る報酬体系や利益相反などに関わる開示義務も課す。一般投資家の利益を損ねかねないSPAC設立者の行動をけん制する。
SPACブームは22年以降に急速にしぼみ、22〜23年の上場は100社弱、調達金額も約170億ドルにとどまった。SPAC経由で上場するも、成長を果たせずに株価が急落する企業が続発。投資家が敬遠するようになったためだ。
20年6月にSPACと合併した電気自動車(EV)トラックの新興メーカー、米ニコラは株価が当時の高値に比べて99%安の水準だ。技術や実績を誇大に宣伝したとしてニコラの創業者は23年12月に詐欺罪で実刑判決を受けた。21年10月にSPAC経由で上場した米シェアオフィス大手のウィーワークも23年11月に経営破綻した。
SPACと合併した企業が資金を調達できずに、投資計画が頓挫する事例も少なくない。存続企業の株式保有を望まないSPAC投資家は資金を引き揚げられるという仕組みがあるためだ。
空飛ぶ「ホバーバイク」を手掛けた日本の新興企業、A.L.I.テクノロジーズは23年2月にSPAC経由でナスダック上場を果たしたが、調達資金は想定を下回り、資金繰りが悪化した。24年1月に東京地裁から破産手続きの開始決定を受けた。
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窪田真之
楽天証券 チーフ・ストラテジスト
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分析・考察
SPACの問題がようやく正しく認識されるようになった。SPACという「空箱上場」を認め、SPAC経由での「裏口上場」を認めることがいかに異常で、投資家保護のための上場規則をないがしろにするものであったのか、理解されるようになった。
SPACが、投資家の意思で資金を引き揚げられる仕組みになっていることも、株式会社の本質をくつがえす内容であった。一時の熱狂が生んだSPACが、消滅に向かうことは、株式市場の正常化にとって、望ましいことと考えている。
2024年1月25日 7:55 』