習近平・中国の侵攻ありうる 実は台湾与野党とも共有

習近平・中国の侵攻ありうる 実は台湾与野党とも共有
編集委員 中沢克二
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFE102XD0Q4A110C2000000/

『台湾総統選は与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳の勝利に終わった。民進党、野党・国民党、第3勢力の台湾民衆党が選挙前日の12日夜、台北でそれぞれ10万人ともいわれる大規模集会を開く裏で、極めて興味深いリアルな市井の討論を耳にした。

「明日、いったい誰に投票すべきなのか?」。街角、レストラン、居酒屋、バーなど場所を問わず、老人、熟年、若者らが入り乱れて議論に夢中。侃々諤々(かんかんがくがく)である。…

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『男性:「それなら国民党の(総統候補である)侯友宜にすればよい。もし『独立の主張者』と見なされる頼清徳が総統なら、習近平は今後10年以内に必ず攻めてくる。いや、(次期中国共産党大会がある)27年までかもしれない。もう自由な総統選の投票なんかできなくなる。それを真剣に考えたことがあるかい? 中国と話せる国民党を選べば、そんなことにはならない」

女性:「あなたが誰かは知らないが、もし国民党の総統になれば、習近平は攻めてこないという。だけど、それは違うと思う。そして、もし国民党の政権だったら、習近平が万一、攻め入ってきた場合、徹底的に抵抗せず、すぐに白旗を掲げて投降してしまうでしょう。違いますか?」

台湾の東部では野党・国民党が優勢な地区が多かった(花蓮で)

男性は「むっ」としていた。この老若対峙では、互いに一歩も退かず、結論は出なかった。それでも、この議論には今、台湾の人々が「習近平の中国」にどんな思いを抱いているのかが凝縮されていた。総統選投票日の前日夜だけに、そのリアルさに圧倒された。』

『中国による香港の大規模デモへの圧力が注目された前回20年の台湾総統選。今回の総統選では「4年前に比べると、中国にどう対するのかという問題が、最大の争点ではない」という見方も一部にあった。

だが、街中での議論に耳を傾けるなら、この視点が間違いなのは明らかだった。「習近平の中国」への見方が最大の争点だったことは、国民党が選挙前日の大規模集会に前総統の馬英九を招待しなかった「ドタバタ劇」からも分かる。』

『馬英九は08〜16年に総統を務め、15年にはシンガポールで習近平と初の中台首脳会談を実現した。この経緯もあり、10日付のドイツメディアのインタビューで中台関係に関し、習近平を「信頼しなければならない」と語った。中台統一についても「本来は受け入れられる」などと述べ、波紋を広げた。

国民党の総統候補者、侯友宜その人は、中国との対話を訴えつつも、習指導部がめざす「一国二制度」による中台統一には明確に反対していた。それでも侯友宜は11日の記者会見で「私と馬前総統の意見は同じではない。(当選しても)任期中は統一問題に触れない」と釈明に追い込まれた。』

『台湾最南端の岬から、ほんの目先を往来するタンカーや貨物船を実際に目にすると、国民党の強い支持者が投票日前日に口にした危機感は「絵空事ではない」と改めて感じる。中国の習近平政権による台湾侵攻の可能性は、総統選に出馬していた全ての候補がある程度、共有していた。

東の太平洋から台湾南端とフィリピンの間にあるバシー海峡を通り、西の台湾海峡方面へ航行する民間船舶(台湾最南端の鵝鑾鼻半島から)

それは米国、日本の問題意識にも通じている。台湾を訪問していた米国の非公式代表団が総統選直後の15日という異例に早い段階で、当選した頼清徳と台北市内で会談したのもその一環だ。中国側の行動をけん制するためにも、中台関係の「現状維持」を米台間で確認する行動は重要だった。

総統選と同時に実施された立法委員(国会議員に相当)選挙では、与党・民進党は単独過半数を確保できなかった。頼清徳の総統任期は24年5月から28年5月まで。まず、この4年間、台湾海峡の平和と安定を保つには、危機意識を共有する台湾与野党の真摯な協力こそが重要になる。(敬称略)』