羽田事故1週間、管制・航空双方に改善促す 国が対策公表

羽田事故1週間、管制・航空双方に改善促す 国が対策公表
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『羽田空港で起きた日本航空機と海上保安庁の航空機による事故から1週間で、国が再発防止に向けた安全対策を公表した。事故は海保機が管制官の指示を誤認した可能性など人的ミスが重なって発生したとの見方が強まっている。対策は管制と航空機の運航側の双方に運用改善を促しており、徹底してミスを防げるかが焦点となる。

「公共交通機関としての航空の信頼回復を図ることは大きな使命の一つ。国土交通省の総力を挙げ、航空の安全・安心対策に取り組む」。斉藤鉄夫国交相は9日の閣議後の記者会見で、早期に安全対策を進める方針を強調した。

事故では海保機の乗員5人が死亡し、機長が重傷を負った。日航機の乗員乗客379人は全員が脱出した。

緊急対策を発表する斉藤鉄夫国土交通相(9日)

今回の安全対策では管制機能を中心に、航空機を運航する側も含めた双方に業務の改善を求めた。

1つが管制指示に使う用語の見直しだ。管制官が航空機に離陸する優先順位を示す「ナンバーワン(1番目)」などの単語を使っていたが、国内の全空港で当面の間使用を停止する。

今回の事故で、管制官は海保機との交信で「ナンバーワン」と呼びかけた。滑走路手前の停止位置までの走行を指示し、滑走路への進入は許可していなかった。海保機は、自機が最初に滑走路を使用して離陸すると誤認して進入したとの見方が出ている。

管制の指示を巡っては、海保機の機長と副機長らによる相互確認が機能していなかったとみられる。同省は管制と運航側の双方に、指示の確実な復唱を含む基本動作の徹底を求めた。

2つ目は、着陸機が接近する滑走路に別の機体が進入するとモニター上で点灯し、管制官に注意喚起するシステム装置の運用強化だ。同装置は常時チェックする運用ではなかったが、常時監視する専任の管制官を置く。6日から羽田に先行配置しており、成田や関西国際など主要6空港にも広げる。

当時は同装置が正常に作動しており、同省は海保機の滑走路進入を管制官が気づかなかったとみられることを重くみた。

3つ目として航空会社に対し、航空機が滑走路に進入する際と着陸する際に周囲の確認を徹底するよう指示した。航空機の離着陸時は事故のリスクが高いが、今回は夜間で日航機側が海保機を視認できなかった。

中長期的な安全対策を検討するため、外部有識者らでつくる「羽田空港航空機衝突事故対策検討委員会」も新設する。離着陸時の滑走路周辺の状況について管制官・パイロットの双方に注意を促すシステム面の強化などを議論する。来週中にも初会合を開く見通しだ。
羽田空港の滑走路で炎上する日航機(2日午後)

事故原因は国の運輸安全委員会が調査中で、現段階では明らかになっていないことも多い。事故発生から1週間で包括的な対策を公表したことについて、国交省幹部は「現時点で把握している客観的な事実情報を基に、できるところから早く対策を講じていく」と説明する。

元日航機長で航空評論家の小林宏之氏は「大幅な欠航が続くなど社会的影響が大きく、利用者に安心してもらうため早期に対策を公表したのだろう。航空安全の信頼を確保しないといけないという国の危機感が見える」と話す。

過去の航空事故も安全対策見直しの契機となってきた。1977年にスペイン領テネリフェ島の空港で航空機同士が衝突し583人が死亡した事故では、管制情報の錯綜(さくそう)や、機長と機関士の相互確認が不十分だったことが指摘された。

同事故などを機に安全運航のためにあらゆる人的資源を活用する「クルー・リソース・マネジメント」の考えが確立され、管制指示の復唱や機長をはじめ乗組員同士での相互確認は航空業界での常識となった。

惨事を二度と起こさないよう、ハード・ソフト両面での問題点を洗い出した上で、安全対策を徹底的に議論することが求められる。

(村越康二、森紗良)

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