台湾総統選挙「対米重視」か「対中融和」か 13日投開票
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『4年に1度の台湾総統選が13日、投開票日を迎える。中国と対立し、対米関係を重視する与党・民主進歩党(民進党)と、対中融和路線の最大野党・国民党を軸に、主要3政党が競う戦いだ。中国が2027年までに台湾侵攻の準備を整えるという米国の分析もあるなか、台湾の将来を占う大型選挙に世界の関心が集まる。
(1)与党・民進党VS最大野党・国民党、最大の争点は?
台湾のトップを決める総統選には、主要3政党から3…
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『台湾のトップを決める総統選には、主要3政党から3氏が出馬する。与党・民主進歩党(民進党)で副総統を務める頼清徳氏(64)、最大野党・国民党で現職の新北市長の侯友宜氏(66)、第3政党「台湾民衆党」主席の柯文哲氏(64)の3氏の戦い。いずれも総統選は初挑戦だ。
見どころは、昨春以降、選挙戦の序盤からリードを保ってきた民進党の頼氏に対し、終盤で国民党の侯氏が大きな追い上げをみせ、競り合う状況で本番を迎えた点だ。
争点は、中国が台湾に統一を迫るなか、3候補者が今後、中国とどう向き合い、中国問題を解決するのか。解決の糸口はあるのか。約1950万人の有権者の最大の関心テーマだ。
民進党の頼氏は、中国と対立する。同党は国民党の一党独裁時代だった1986年、民主化運動の担い手が中心となって結党した。中国の主張する「一つの中国」原則を受け入れず、台湾の独立性を重視する立場をとり支持を得た。内政では「脱原発」などリベラルな政策を掲げる。
国民党の侯氏は、中国と最も距離が近い。同党は中国大陸の「国共内戦」で中国共産党に敗れ、台湾に逃れた。野党に転落した2000年代に対中融和路線に転じた。中国大陸にルーツを持つ「外省人」や、対中関係を重視する産業界が支持基盤。内政では保守的な政策をとる。
第3政党・台湾民衆党の柯氏は中立姿勢だが、やや中国寄りだ。長年の民進党と国民党の対立をよく思わない無党派層や若者を中心に人気で、リードする頼氏と侯氏に最終盤で逆転する可能性も秘める。
(2)注目したい3つのポイント
総統選では、3候補者の戦略、13日に同時実施する立法委員(国会議員、定数113)を決める議会選、若者など無党派層の動向の3つに注目したい。
民進党候補の頼氏は、中国と対立する蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の路線を引き継ぎ、後ろ盾となる米国との連携重視を、有権者に強くアピールする戦略をとる。台湾の有権者は、候補者選びの際、米国とうまく付き合える人物かを重要視する。
それらも意識し、頼氏はペアを組むナンバー2の副総統候補には、米国とパイプを持ち、直前まで駐米代表(駐米大使)を務めた蕭美琴氏を指名した。一方、中国からの圧力には、米国など友好国との連携のほか、防衛力の強化が重要だとの立場を示す。
一方、国民党の侯氏の主張は全く異なる。今回の総統選は「戦争か平和か」を選ぶ2択の選挙だと主張。このままでは中国との戦争になりかねないと訴え、蔡政権で途絶えた中国との対話の再開を公約とし、融和路線による緊張緩和を戦略とする。
台湾民衆党の柯氏は「米中の間でバランスをとる」と訴え、どちらにも付かず離れずの立場が台湾にはふさわしいと主張。支持基盤である若者を中心に、無党派層の票を掘り起こし、既存の二大政党では台湾は変わらないと訴えるのが戦略だ。
総統選と同日実施の立法委員選(議会選)では、民進党が16年から守ってきた単独過半数の議席を維持できるかが大きなポイント。民進党と国民党とが競り合う展開で、8年ぶりに民進党が過半数を失うことも想定される。
今後の鍵はやはり、無党派層の動向だ。不動産価格の高騰や所得格差の拡大を受け、無党派層に多い若い世代が民進党への不満をため込んでいる。どの陣営がこうした無党派層の支持を最後につかむのか。勝敗の分かれ目となりそうだ。
(3)立候補者はどんな人?
今回の総統候補3氏はいずれも台湾生まれだ。中国大陸生まれの候補者はいない。1996年に始まった直接選挙による総統選となって以降では、初めてのことになる。
頼氏は、台湾北部・新北市の炭鉱労働者の家庭に生まれた。苦学して台湾・成功大学などで学び、医師として勤務後に政界進出した。南部の中核都市の台南市で約7年間にわたり市長を務め、頭角を現した。蔡英文政権の1期目の2017〜19年には行政院長(首相)に就き、民進党のホープと期待されてきた。
党内の主流派閥の中核人物でもあり、過去には「台湾独立」という言葉をたびたび使い、潜在的に独立志向の強い政治家として知られている。
侯氏は、台湾南部・嘉義の精肉店を営む家庭に生まれ、警察の道に進んだ。1997年に発生した誘拐殺害事件で犯人の投降説得に成功し、名をあげた。2006年には最年少で警政署署長(警察庁長官)に就き、現在は台湾で最多の人口を抱える新北市の現役市長でもある。
柯氏は、台湾北西部・新竹に生まれ、台湾大医学部を卒業後、外科医として働いた。14年から台北市長を8年間務め、在任中の19年に新党「台湾民衆党」を結党した。「政治素人」を標榜し、歯に衣(きぬ)着せぬ物言いで若者を中心に人気を集める。
(4)米中はどこに注目している?
バイデン米政権は、米国との関係を重視する民進党の頼氏の当選が望ましいとみている。米国は台湾との連携を強め、東アジアで中国への抑止力を高める戦略だ。
一方、中国の習近平(シー・ジンピン)指導部は、中国との融和を目指す国民党の侯氏の当選を望んでいる。国民党は「一つの中国」原則を中台双方が口頭で認め合ったとする「92年コンセンサス」を基本的に認めており、中台統一の交渉テーブルにつきやすいとみる。
中国は頼氏の当選を警戒する。頼氏は1990年代半ば、中国軍が台湾周辺の海域にミサイルを打ち込んだ「台湾海峡危機」をみて、医師から政治家への転身を決めた。頼氏はかつて自らを「独立工作者」と呼んだ。中国は頼氏を「トラブルメーカー」と名指しで批判し警戒する。
(5)台湾の総統とは?
台湾は「中華民国」を正式名称と主張する。だが、世界の大半は台湾を国として認めておらず、台湾の呼称が広がっている。その台湾が、自らの中華民国の憲法で、総統は元首で、「陸海空軍を統率する」と定める。条約の締結や宣戦、講和を結ぶ権限を持ち、外交と防衛政策の最高責任者と位置づける。任期は4年、3選は禁止だ。
総統は内閣のトップの行政院長(首相)を任命する権限をもち、内政にも一定の影響力を持つ。立法院(国会)が首相の不信任案を可決した場合には総統の判断で解散することができる。ただ、立法院が可決した法律や予算を拒む権限はない。
もともと総統は、中国大陸で蔣介石が48年に初代総統に就いたのがルーツ。蔣介石は共産党との内戦で追い込まれ、台湾に逃げ込んだ。50年に台湾で再び総統に就き、独裁政権を敷いた。
転機は96年。「台湾民主化の父」と呼ばれた李登輝・元総統の力で、有権者が直接投票し総統を選ぶ新選挙制度が初めて台湾に導入された。これにより、国民党候補の李登輝氏が当選し、台湾の民主化が進み始めたのが歴史だ。
中国は、台湾の総統の立場は認めず、単に「台湾地区の指導者」と呼ぶことが多い。
(6)過去の総統選、それで台湾はどうなった?
96年に民主的な総統選がスタートし、2000年の総統選では初めて民進党候補の陳水扁氏が勝利して台湾で初の政権交代が実現した。ただ、少数与党の状態で大事な法案が度々、野党の反対に遭い、政治は停滞した。
08年の総統選では、中国に近い国民党の馬英九氏が当選し、政権は再び、国民党のもとに戻った。中台関係の改善が進み、経済成長の恩恵を中台で享受した。
一方、このまま「中国にのみ込まれたくない」と警戒する声が強まったのもこの時期。14年には中台の経済の一体化を急ごうとした国民党の政権運営に反発し、学生らが国会にあたる立法院を占拠した「ひまわり学生運動」が起こった。
16年の総統選では中国と対立する民進党の蔡氏が勝利し、3度目の政権交代となった。蔡氏は2期目を目指した20年の総統選でも圧勝し、米国と急接近する一方、中国との関係は日に日に悪化し、現在に至る。
00年以降、台湾では2期・8年ごとに政権が入れ替わった。台湾の有権者は特定の政党が長期にわたって政権の座につく過ちを、独裁の歴史から学びバランスを取ってきた。過去の順番にならうなら、今回は8年ぶりに政権交代の可能性もある。
(台北=龍元秀明、羽田野主)
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