力強さに欠ける中国経済 習近平は2024年に何をするか
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/32592
『大西康雄 (科学技術振興機構特任フェロー)
中国経済は2023年7月頃を境に正常に復しつつあるかに見えるが、依然として力強さに欠ける。1~9月期の国内総生産(GDP)成長率は5.2%増(前年同期比、以下同)と5%台になったが、第3四半期(7~9月期)は4.9%増、対前期比では1.3%増で、第2四半期の同0.5%よりは好転したものの、まだ低い。
(claffra/gettyimages)
回復を牽引したのは消費で、社会商品小売総額は6.8%増であったが、全社会固定資産投資は3.1%増にとどまり、うち民間企業は-0.6%、不動産部門は-9.1%と底を打っていない。対外経済面を見ても、同期の輸出は0.6%増、輸入は-1.2%と振るわないものであった。以上の諸指標について直近10月、11月のデータを見ても、基本的な状況は変わっていない。
こうした中、外資も中国経済の先行きへの懸念を強めている。同期の外国投資受入額は-8.4%(人民元ベース)とコロナ禍にあった前年同期よりさらに減少している。
国際収支ベースで見ると、外資による直接投資は118億ドル(約1兆7700億円)のマイナスだった。外資による新規投資より撤退や事業縮小の方が多かったわけで、マイナスとなるのは統計を遡れる1998年以降で初めてとされる(日本経済新聞等報道による)。
中央経済工作会議の現状認識
現下の経済情勢を中国当局はどう認識しているのだろうか。23年12月11~12日に中国共産党中央と国務院が共催した中央経済工作会議のコミュニケ等により整理しておこう。なお、習近平国家主席は12日からベトナム公式訪問を開始しており、実質1日間の開催だったとみられ、変則的日程であったようだ。』
『同会議が23年の経済について指摘したのは、①需要不足と生産能力の過剰、②将来予測の弱さ、③潜在的リスクの存在、④国内大循環の目詰まり、⑤外部環境の複雑さと厳しさ、であった。前年の同会議で用いられていた「三重の(景気)下押し圧力」(①需要の収縮、②供給へのダメージ、③将来予測の弱さ)との表現は無くなったが、現状認識が大きく変わったわけではないことがわかる。
注目されるのは、今後の経済運営が基づくべき指針として「5つの堅持」(表1)が要求されたことである。翌年1年間の経済政策方針提示が本来の任務である同会議において、第5項目が示すような政治優先の方針が提示されたことには、違和感がある。
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同会議に先立っての開催が予想されていた中国共産党の第3回中央委員会総会(3中全会)は開かれなかったが、党と国務院のトップ層では、中期的な経済政策の基本方針について議論されており、その一端が示されたと理解すべきなのかもしれない。
マクロ経済政策の方向性
会議が示したマクロ経済政策の方向性(中国語「総体要求」)においては、「5つの堅持」を踏まえて、政策の根幹をなす財政政策と金融政策の調整が示唆されている。このうち前者については積極的財政策が継続されるが「適度に」力を加え、「質と効果を高める」とされており、23年10月の1兆元国債増発にさらに追加国債が発行される可能性があり、また、バラマキでない効率的な財政支援がめざされる。
後者については、穏健な金融政策の継続とその「柔軟・適度」で「精確・有効」な実施が掲げられ、マネーサプライ・社会資金調達規模の伸びを「経済成長と物価水準の予期目標」と釣り合わせるとしている。従来は「名目成長率」と釣り合わせるとされていた基準に物価が加えられた格好である。
また、「ハイレベルでの科学技術自立自強」が初めて盛り込まれたことが注目される。これは次項で見るように、現代化産業システム建設を目指す施策につながるものである。』
『大きな政策転換は期待薄
会議では、具体的な24年の重点政策9分野が挙げられた。表2に整理して示す。
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重点政策分野においては、科学技術イノベーションに依拠した現代化産業システム構築が第1、国内需要拡大は第2とされ、第3に民営企業支援が再確認されている。確かに産業システム構築は重要であるが、中長期的な目標であり、需要不足という当面の課題が二の次とされていることは疑問である。また、景気好転に向けて必須である企業家の将来予測の改善という点でも、民営企業支援が国有企業と並列的に扱われているのは従来と変わらず、これで民営企業の懸念が払拭されるとは思えない。
需要喚起策としては、先に触れたように国債増発があり得るし、金融政策も機動的に運用されるであろうが、施策の効果には限界がある。本格的な政策論議は24年春の全国人民代表大会、さらにはいずれ開催される3中全会に持ち越された格好で、それまでは大きな政策転換はないであろう。
政策転換に時間を要する現状が不変とすれば、23年に5%目標を達成した後は緩やかに成長率は低下するであろう。国際通貨基金(IMF)、世界銀行、アジア開発銀行などは24年の成長率を4.2~4.6%と予想している。筆者は、少子高齢化(労働人口減少)、都市化の減速、国有企業の業績悪化、等の構造的要因が表面化してくることから、2020年代後半~30年の成長率は4%台から3%台へと減速していくとみている。
懸念される経済安全重視の突出
最後に注目しておきたいのは、経済安全重視の議論が突出しつつあることである。国家安全部が経済工作会議閉会後早々に自らのWeChat(中国のSNS)アカウントで行った解説がその代表例である。
同解説は「経済安全は国家安全の基礎」との認識の下、「外部の挑戦に対応しなければならない」とし、中国経済を悪く言う言説に対して警戒を呼びかけた。経済に関する言説の場合、客観的数字を使いながら中国経済の苦境の実態を説明することさえ強い圧力を受ける可能性が示唆されている。
ビジネスに絡んで発信される経済分析や、言説が取り締まり対象になるなら、企業は萎縮し、発展の芽はつまれてしまう。中国の政策当局者がこの点を認識するよう期待したい。』