老朽マンション・団地、要件緩和で再生 24年法改正へ
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA153260V11C23A1000000/
『法相の諮問機関の法制審議会は21日、分譲マンションや団地の建て替えの決議要件などを緩和する改正区分所有法の要綱案の素案を提示する。耐震性といった問題があるマンションの建て替えは所在不明者を除く4分の3の賛成に引き下げる案を出す。2024年の法改正をめざす。
素案では一律に合意形成しやすくするのではなく、建物に客観的な問題がある場合に緩和する。問題として①耐震性②防火性③外壁④給排水設備⑤バリアフリー――を挙げる。
現行法は所有者全員の5分の4の賛成が必要で、所在不明者は反対票に数えるために合意は難しい。6月に法制審で提示した中間試案は一律で4分の3に引き下げる案があったが、7月に実施したパブリックコメント(意見公募)で慎重な意見が多かったため今回の素案で採用を見送る。
素案をもとに24年初めにも要綱案をとりまとめ、同法改正案を通常国会へ提出する段取りだ。
1つの敷地内に複数の建物がたつ「団地」の建て替えについても決議要件の緩和方針を示す。国土交通省によると団地は全国に3000ほどあり、全人口の1割程度が居住する。団地を建て替える場合は団地全体と各棟の決議の両方が必要になる。
現在、全棟を建て替えるには①他の棟を含めた全所有者の5分の4の賛成②各棟の所有者の3分の2の賛成――が必要だ。素案は耐震性などの問題があれば所在が明らかな所有者のうち4分の3、過半数にそれぞれ引き下げる方針だ。
団地内の1棟の建て替えについても他棟を含めた全所有者4分の3の賛成が必要となる。これを集会出席者の3分の2に緩和する案を検討する。
制度改正に踏み切る背景に建物と住民の「2つの老い」の問題がある。
鉄筋コンクリートのマンションの寿命はおよそ60年とされる。分譲マンションは1970年以降に大量供給された。国交省によると、築40年以上の分譲マンションは2042年末には22年末の3.5倍の445万戸に増加する見込みだ。
居住する住民の高齢化も進む。国交省の調査によると、1979年以前に完成したマンションで世帯主が70歳以上の割合はおよそ半数にのぼる。相続のタイミングで、所有者が不明になったり、空き家化したりする事例が増加している。
建物の老朽化が進むも修繕に必要な決議にいたらず、円滑な管理や再生策に踏み切れなくなっている。
新制度導入後も建て替え費用の負担など実際の課題は残る。資材の高騰などの影響で建設費も上昇している。
国交省によると2017年から21年までの建て替え時の平均負担額は1941万円だった。1997年から2001年までの378万円と比べて5倍以上となっている。
旭化成不動産レジデンスマンション建替え研究所の重水丈人所長は、新制度について「現在、年間10件弱の建て替えがあり、1?2件の押し上げ効果はあるだろう」とみる。
東京建物のプロジェクト開発部事業推進グループ、小林亮太課長代理は「マンションの建て替えを行う場合、賛成について最後の数%の引き上げに非常な労力を費やすため、(要件の)引き下げの意味は大きい」と語る。三井不動産は「再生手法の選択肢の幅を広げる内容が検討されており管理組合にとっては有意義だ」と話す。 』