言うはやすしの運用立国 二重計算解消に3つの壁
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB065OS0W3A101C2000000/
『金融庁は資産運用立国の実現を目指して投資信託を巡る非効率な商慣行を見直す。投信の基準価額を運用会社と信託銀行がそれぞれ算出して照合する「二重計算」が焦点だ。運用会社と信託銀行は二重計算の見直しに表向き賛成だが、複雑な利害関係も見え隠れする。解消には3つの壁が立ちはだかる。
10月下旬、運用会社と信託銀行の関係者が投信価格の算出方法などを話し合う実務者検討会が開かれた。販売会社やシステムベンダー、…
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『10月下旬、運用会社と信託銀行の関係者が投信価格の算出方法などを話し合う実務者検討会が開かれた。販売会社やシステムベンダー、監査法人も巻き込み、金融庁もオブザーバーとして参加した。これまでも議論はされてきたが、具体的な動きにつながらず雲散霧消してきた。今回は本腰を入れる金融庁を横目に投資信託協会がお膳立てした。
検討会は大筋として信託銀行が投信価格を算出する1者計算で合意し、実務面の課題を運用会社と信託銀行が共有して改善策を練っていく方向でまとまった。波風はあまり立たなかったように見えるが腹の底は違う。ある参加者は「これまでも利害調整に苦慮してきた。金融庁も二重計算解消の難しさを理解したのではないか」と苦笑する。
課題の1つが投信システムだ。運用会社と販売会社は「公販ネットワーク」と呼ぶ投信独自の情報インフラでつながり、設定・解約や分配金などのデータをやり取りしている。基準価額もそのひとつで運用会社が算出してデータを販売会社に送っている。
信託銀行は公販ネットワークの枠外にあり、基準価額のデータを信託銀行から販売会社に直接送るすべはない。公販ネットワークは野村総合研究所(NRI)など3つのシステム会社が市場を独占する。ネットワーク同士の互換性がないなど課題も多く金融庁は注視する。
ある信託銀行の関係者は「運用会社が公販ネットワークの抱える問題点を整理し、改善していかなければ二重計算の解消は進まない」と話す。
2つ目は利益配分だ。運用会社と販売会社、信託銀行は投信の手数料にあたる信託報酬を分け合う。ある米国株のアクティブ投信の信託報酬は年1.57%。運用会社と販売会社は0.75%ずつ、残りの0.07%を信託銀行が得ている。投資家の資金管理などを担う信託銀行の分け前は低いのが一般的だ。
信託銀行の1者計算になった場合、運用会社の業務負荷は減る一方、計算を一手に担うことになる信託銀行の責任は増す。「信託報酬の取り分を増やすことが前提」というのが信託銀行の主張だ。
運用会社にも事情はある。個人の人気を集めるインデックス型投信では手数料競争が激化し利幅は薄い。投資家が海外株志向を強める中、海外の運用会社に運用を委託する費用も膨らむ。ある運用会社の関係者は「二重計算の解消は賛成だが、収入減はできる限り避けたい」とこぼす。
3つ目として時価評価があがる。投信はデリバティブ(金融派生商品)のように市場価格のないものまで幅広に投資する。市場価格のない資産は運用会社が国内外の専門会社から情報を仕入れて時価を算出してきた。
1者計算となる場合、時価評価をこれまで通り運用会社が担うか、信託銀行が引き継ぐのかといった議論はこれからだ。ほかにも二重計算から1者計算への移行期にそれぞれのシステムが並走し、その間のコスト負担が増えることへの懸念もある。
二重計算の解消は余計な業務負荷を減らし、コストを下げることで資産運用業への新規参入を促す狙いがある。現状を見る限り既存の運用会社はコストが減るどころか一時的に増えかねず、信託銀行も相応の手数料が入るかは不透明だ。
戦後の紙と鉛筆の時代から続く二重計算は利害関係が複雑に絡み合う。解消にはこうした課題をひとつひとつ解きほぐしていく必要がある。
(湯浅兼輔、日高大)
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