米、半導体「脱中国」へ5年の計 韓台企業への規制緩和
真相深層
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN130940T11C23A0000000/
『米政府が半導体技術の対中輸出規制を巡り、当初1年間としていた韓国や台湾の企業への適用猶予を無期限とした。韓台の中国工場への米国技術の導入を認める。短期的な混乱を避けるためいったん規制を緩め、腰を据えて5年計画で脱中国に取り組む。
中国陝西省の省都、西安市中心部から南西に約30キロ。韓国サムスン電子の西安工場ではこの1年間、半導体製造装置の搬入が急ピッチで進んだ。米政府の猶予措置が今年10月に打ち…
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『米政府の猶予措置が今年10月に打ち切られ、生産設備を拡張できなくなる恐れがあったためだ。
同工場はデータ保存用半導体「NAND型フラッシュメモリー」を生産する。中国のスマートフォンやパソコン工場に供給し、アップルやHP、デルといった米IT機器メーカーの最終製品にも多数搭載される。
中国に半導体工場を持つサムスンやSKハイニックス、台湾積体電路製造(TSMC)はロビー活動を通じ、米政府に猶予延長を強く求めていた。米企業からも延長要請の声があがっていた。
アップルは稼ぎ頭のiPhoneの8割超を中国で生産する。HPやデルも中国生産比率は高く、韓台企業の工場から先端半導体を調達できなければ、生産計画が滞りかねない。
米政府内で輸出管理を所管し対中強硬派とされるレモンド商務長官は8月の訪中前、中国ビジネスに関わる100人超の米企業トップから要望を聞き取った。対中規制の企業活動への影響を見極めるためだ。
中国の先端半導体の開発を遅らせ、米中競争を優位に進めようとする米政府の大方針に変わりはない。今回、規制猶予を無期限としたのは短期間で脱中国を進めようとすれば自国への弊害が大きいと判断したためだ。
レモンド氏は9月、米連邦議会で半導体戦略について「壮大なビジョンであり、5年後には多くのことが達成できるだろう」と強調した。
米国内の半導体製造を支援する520億ドル(約7兆8000億円)の巨額補助金の支給期限は5年だ。レモンド氏が言う「多くのこと」は韓台企業などの米国への半導体投資を呼び込み、半導体強国復活への道筋をつけることを意味する。
今回、無期限延長が認められた韓台企業も中長期の脱中国を見据える。サムスン内部には2028年までに西安工場の投資回収を終える計画がある。米規制に従う形で追加の先端投資を停止し、工場稼働を続けつつ中国生産比率を段階的に引き下げるプランを描く。
官民の時間軸はいずれも5年で一致する。米政府が描く「脱中国5カ年計画」に沿って、企業側も事業計画を組み替えようとしている。
インドは米メーカー製品の受託生産で中国の後釜を狙う。インドPTI通信によると、同国の産業政策担当者は「アップルはiPhoneのインドでの生産を5年後までに5倍に拡大する」と述べた。米証券会社の推計では28年にはiPhoneの3割超がインドで生産される見通しだ。
ただ米政府のシナリオどおりに事が運ぶかは不透明だ。中国側は巨額の資金を投じて半導体技術の蓄積を急いでいる。
通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)は8月に回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体を搭載したスマホを発売した。7ナノ技術は米政府の規制対象。何らかの形で米技術が使われた可能性が高く、輸出規制の網をかいくぐったとみられている。
TSMCやサムスンが量産段階に入った3ナノ技術と比べて5年ほどの遅れはあるものの、中国の半導体技術は着実に高まっている。
中国半導体メーカーの技術顧問は「第三国を経由した装置輸入など、米国の規制には抜け道はある」と明かす。韓国や台湾から中国に向かう半導体技術者も後を絶たず、転職者を介した技術流出も止まらない。
こうした多層的な技術流出を防ぐため、米政府は17日に第三国経由での半導体技術の流出を阻止する追加の規制強化策を打ち出した。抜け穴が見つかっては塞ぐ、泥縄式な対応に追われる米政府の脱中国計画は時間との闘いとなる。
(ワシントン=飛田臨太郎、ソウル=細川幸太郎)』