インド、パソコンなどの輸入管理導入 リスク浮き彫りに

インド、パソコンなどの輸入管理導入 リスク浮き彫りに
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM262MZ0W3A021C2000000/

『インド政府は11月1日、パソコンやタブレットを対象にした輸入管理制度を始める。企業に輸入する製品の数量や価格について事前登録を求める。当初は輸入を免許制にして制限する予定だったが、海外メーカーなどの懸念を受けて方針転換を迫られた。

インド政府は8月3日に突如、ノートパソコンやタブレット端末などの輸入を免許制とする方針を打ち出した。当初は即時導入とされたが、翌日には3カ月の移行期間を設けて11月1…

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『当初は即時導入とされたが、翌日には3カ月の移行期間を設けて11月1日からの実施にすると発表した。

約14億人の人口を抱え経済成長が続くインドでは中間層が拡大し、パソコンなどの需要も増加が見込まれる。米アップルは4月に初の直営店をムンバイとニューデリーに開いたばかりだった。

格付け大手フィッチ傘下のインディア・レーティングス・アンド・リサーチのスニル・クマール・シンハ氏は「輸入免許制の導入はインドに進出している多国籍企業に対して、輸入よりもインドでの製造を促す試みだった」と指摘する。

モディ政権のもと製造業振興策「メーク・イン・インディア」を掲げて外資メーカーの生産拠点誘致を図っているインドだが、国内総生産(GDP)に占める製造業の割合は依然として2割を下回っている。インド政府の統計によると、2022年度(22年4月〜23年3月)の電子機器の輸入は21年度比5%増の772億ドル(約11兆6千億円)だった。輸出は235億ドルと21年度から5割以上増加しているものの、輸入超過が続く。

インドの電子機器市場では国内メーカーの存在感が薄く、輸入品を中心とした海外メーカーが多数を握っている。米調査会社IDCによると、インドのパソコン市場における4〜6月の出荷台数シェアは、米HP(31.1%)、中国レノボ・グループ(16.2%)、米デル・テクノロジーズ(15.3%)と続く。

インドは11月にヒンズー教の新年を祝う「ディワリ」を迎える。足元でインドは中国に代わる生産拠点として関心を集めているが、祭事商戦を前にした突然の保護主義的な方針は、海外メーカーに困惑をもたらした。

米ブルームバーグ通信などによると、アップルやインテルといった米国企業がインド側に抗議した。米通商代表部(USTR)のタイ代表も8月下旬にインドのゴヤル商工相と会談した際、輸入規制について「米国のインド輸出に悪影響を与えないよう、関係者が検討・意見する機会が必要だ」と指摘したという。

インド政府は再検討を進め、免許制に代えて輸入管理システムの運用を始めると10月19日に発表した。パソコンなどの輸入に関するデータ収集にとどめる見込みだ。免許制による輸入制限は見送られたが、データの分析を踏まえてインド政府が今後どのような措置をとるかは不透明だ。

インドは高額紙幣の廃止など重要な政策を突然実施してきた経緯がある。日本貿易振興機構(ジェトロ)ニューデリー事務所の広木拓氏は「いまだ不明な点も多い。中長期的には免許制となる可能性を含めて、輸入規制がどう強化されていくのか各企業が注視することになる」と指摘する。

国際協力銀行(JBIC)が日本の製造業を対象に22年に実施した調査でも、インドが中期的に最も有望な市場と期待された一方で、課題として「法制の運用が不透明」が挙げられていた。

一連の規制を巡るインド政府の朝令暮改ぶりは、同国の政策リスクをあらためて浮き彫りにした。巨大市場の開拓は一筋縄ではいかない。

(ムンバイ=花田亮輔)』