気がつけば米国の一人勝ち かみ合う官民、繁栄どこまで

気がつけば米国の一人勝ち かみ合う官民、繁栄どこまで
本社コメンテーター 小竹洋之
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD134UK0T10C23A9000000/

『2023年9月18日 10:00

「我々は一つの地球、一つの家族であり、一つの未来を共有している」。20カ国・地域(G20)がインドで発した首脳宣言の理想とは裏腹に、世界経済の勝者と敗者との「ダイバージェンス(分岐)」が鮮明になってきた。

現実を突きつけたのは国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事だ。G20に先立つ東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議では、新型コロナウイルス禍やウクライナ戦争の痛手を負った主要国・地域…

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『G20に先立つ東南アジア諸国連合(ASEAN)の首脳会議では、新型コロナウイルス禍やウクライナ戦争の痛手を負った主要国・地域の中で「米国だけが完全に回復した」と述べた。

世界全体の国内総生産(GDP)は、コロナ禍に見舞われる前の想定より数兆ドル少ない。米国はもとの基調に戻ったのに、ユーロ圏は2%、中国やほかの新興・途上国は5%下回るという。

中国の逆転ないとの予測も

米国はコロナ禍で世界最大の感染者と死亡者を出した。疫病と不況を克服する巨額の財政出動は、ウクライナ戦争で加速した資源・食料価格の高騰や供給網の混乱と相まって、およそ40年ぶりの大幅なインフレを呼び寄せた。

これを封じる急激な金融引き締めは、景気の減速をもたらすだけでなく、中堅銀行の相次ぐ破綻まで誘発した。にもかかわらず米経済の回復力は相対的に強く、気がつけば「一人勝ち」と言ってもおかしくはない状況にある。

欧州ではエネルギー危機の打撃が総じて大きい。中国経済への依存や成長投資の不足といった問題も抱えるドイツは、とりわけ深刻な不振にあえぐ。「欧州の病人」。1990年の東西ドイツ統一後に直面した長期停滞の再来が叫ばれるのも無理はなかろう。

英国は欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)の代償も払う。欧州の調査機関センター・フォー・ヨーロピアン・リフォームのジョン・スプリングフォード氏によれば、ブレグジットは貿易や投資の拡大を妨げ、2022年4〜6月期時点のGDPを5.5%押し下げる要因となった。

日本では賃金や物価が上がらないというノルム(通念)に変化の兆しがのぞくものの、「失われた30年」と呼ばれる低迷状態を抜け出せたわけではない。そして今度は中国が不動産バブルの崩壊や少子高齢化で「日本化」し、デフレの病魔に侵される恐れがある。

米ブルームバーグ・エコノミクスによると、中国のGDPが米国を上回る時期は、従来の30年代初めから40年代半ば以降にずれ込む。米中逆転の可能性はなくなったと断じる予測さえある。

「つまずきながら立ち直る」

ここ数年の危機を乗り越え、米経済はなぜ優位に立てたのか。内閣府は8月にまとめた報告書「世界経済の潮流」で、欧州経済の回復力との格差を分析した。

米国では活発な転職が賃金の上昇を促し、物価の上昇を超えるペースで所得が増えて消費を刺激する。かたやユーロ圏では労使交渉が賃金の上昇をけん引するが、所得の増加が物価の上昇で相殺されて消費が横ばいにとどまる。

コロナ下の過剰貯蓄については、米国で取り崩しが進み、ユーロ圏で積み増しが続く。エネルギー事情の違いを映し、米国では所得の流入(交易利得)、ユーロ圏では所得の流出(交易損失)が生じているのも大きいという。

政府の政策支援と民間のダイナミズムがかみ合い、労働移動や消費活動などの好循環が生まれる。広大な国内市場の存在やシェール革命、移民の流入を背景に、輸出環境の悪化やエネルギー危機、少子高齢化の重荷にも一定の耐性がある。短期と中長期の要因が重なり、今後も米経済に追い風が吹くような気がしてならない。

バイデン米政権は「大きな政府」を貫く経済政策で、中国や日欧をさらに突き放しにかかる。半導体産業の国内回帰や温暖化対策などを促す公的助成を前提に、民間企業がこれまでに発表した米国投資計画は総額5100億ドル(約75兆円)あまりにのぼる。

「競争相手はつまずき、そして倒れる。我々はつまずきながらも、何とか立ち直る」――。米紙ニューヨーク・タイムズのデビッド・ブルックス氏は最近のコラムで、米国の「ルネサンス」が花開くのかもしれないと論じた。

変わり得る世界の勝者と敗者

もちろん楽観はできない。足元の資源高は、インフレ再燃のリスクを高める。米連邦準備理事会(FRB)が19〜20日の次回会合で利上げを見送っても、年内に一層の金融引き締めを迫られる可能性は残る。過剰貯蓄の払底や学生ローンの返済再開なども重なって主力エンジンの消費が失速し、景気後退に陥る懸念は拭えまい。

大規模な財政出動と保護主義的な産業・通商政策のツケも気にかかる。23会計年度(22年10月〜23年9月)の財政赤字は、前年度比6割増のペースで膨らむ。「大きすぎる政府」は国家の懐を圧迫するだけでなく、経済の活力をそぐ結果にもなるのではないか。

「米国だけが世界の厳しい圧力を受けず、繁栄のオアシスを維持できるとは思えない」。アジアの通貨危機や日本の金融危機、ロシアのルーブル危機などが重なった25年前、当時のグリーンスパンFRB議長が残した言葉だ。

たとえ勢いが鈍ろうと、かのナポレオンが「眠れる獅子」と評した中国の覚醒は止められない。ドイツにもかつては「欧州の覇者」とたたえられた底力がある。

世界経済の勝者と敗者は変わり得る。08年9月のリーマン・ショックでは、米国自身が致命傷を負った。繁栄のオアシスを長く独占できると慢心しないほうがいい。

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諸富徹
京都大学大学院経済学研究科 教授
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別の視点 米国経済が「躓きながら立ち直れる」のは、不況の過程を通じて大胆にリストラや産業構造転換を進め、不況後は単に回復するだけでなく、かえって強靭になるからでしょう。米国企業が従業員を次々と解雇するその非情さには驚きましたが、例えばマイクロソフトはリスキリングを提供し、失業者はスキルを高めて生産性の高い企業に移っていきました。痛みを伴うプロセスですが、産業の新陳代謝が進み、米国経済はより生産性を高めたのです。日本は持続化給付金で雇用維持を優先しましたが、産業の固定化につながった側面は否めません。米国経済のダイナミズムは、失業率が突出して高い15%に達した後、急速に回復した過程にも表れています。
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/f/f01.html
2023年9月18日 12:46 (2023年9月18日 12:49更新)
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今村卓
丸紅 執行役員 経済研究所長
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分析・考察 日本より圧倒的に分厚い米国の富裕・高所得層とその購買力の大きさも効いていると思います。テスラのEVのような高額だが技術革新の早さからリセールバリューが予想しにくい商品、費用が極めて高い民間宇宙旅行などを購入できる、余裕があって新しい物好きの消費者も多数います。だから米国では企業も起業家も思い切った挑戦がしやすく、新規事業の成功率も他の先進国よりは高め、成功した企業は他の追随を許さない存在になる。関心は成功した米企業のビジネスモデルに集まりがちですが、米国にしかない需要に支えられていることにも目を向けるべきだと思います。
この裏側には格差拡大や中間層の縮小という社会問題もあるのですが。
2023年9月18日 13:58 (2023年9月20日 13:26更新)
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小山堅
日本エネルギー経済研究所 専務理事 首席研究員
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ひとこと解説 米国経済が「一人勝ち」な状況にあるという現実は実に興味深い。第2位の経済大国、中国が不動産不況に苦しみ、欧州経済はウクライナ危機からの回復にもたつく中、米国経済は成長軌道を保っている。シェール革命の果実を活かしてエネルギー自給を達成、場合によっては輸出で稼ぐ構造になっていることも最近のエネルギー情勢を考えると米国の強みになっている。さらにインフレ抑制法などを通してクリーンエネルギー投資の面でも米国の強さが目立っている。米中対立という分断の中で、強力な産業政策を展開して米国がさらに成長加速に向かうというシナリオもある。日本もGXの具体化と推進で成長戦略を実現していく必要がある。
2023年9月18日 11:43いいね
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鈴木一人
東京大学 公共政策大学院 教授
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別の視点 ポストコロナの中で、米国だけが独り勝ちしている大きなポイントは、多くの国々でコロナ時代に定着したオンライン会議や在宅勤務ということが、コロナ後にそれ以前の環境に戻っていったのに対し、米国ではコロナで変わった生活スタイルが定着したままになったことも関係しているかもしれない。その結果、オフィス需要や都市部の消費は低調になる一方、人々の可処分所得や可処分時間が増え、より一層消費や投資に回るようになったという生産性の変化があるように思われる。
2023年9月18日 16:32 』