原油、サウジの価格支配再び 米国はシェール革命で誤算

原油、サウジの価格支配再び 米国はシェール革命で誤算
エネルギー選択の時 石油危機50年④
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN184190Y3A910C2000000/

『イスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘が始まる直前の米東部時間6日、ハマスの逆鱗(げきりん)に触れる情報が流れた。サウジアラビアとイスラエルの国交正常化交渉を仲介する米国に対し、サウジが原油の増産を検討するという「見返り」を提示したとされる。

パレスチナ問題の棚上げがハマスの神経を逆なでしたのは想像に難くない。それでも3カ国が目指したのはサウジ・イスラエルの関係正常化と米国・サウジの防衛条約という…

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『それでも3カ国が目指したのはサウジ・イスラエルの関係正常化と米国・サウジの防衛条約という大型取引だ。

サウジは米国による自国の安全保障を確実にするため原油を取引材料として最大限利用しようとした。米国は再三にわたり、サウジに増産を求めた経緯がある。

米国とサウジは人権問題を巡り関係はぎくしゃくしてきた。それでも米国は原油市場におけるサウジの価格支配力を無視できない。優位に立つサウジは米国側の事情を見透かすように、原油を使って揺さぶりをかける。

サウジは9月、ロシアと組み、自主減産を年末まで続けると決めた。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油は一時1バレル90ドルを突破。市場では石油輸出国機構(OPEC)が石油の「価格防衛ライン」を引き上げたとの観測がある。米欧ではインフレ再燃懸念が広がる。

米国がサウジの安全保障に責任を担う代わりに、サウジが石油の安定供給に努める――。もちつもたれつの関係は「特別な関係」と呼ばれる。1973年の石油危機時、世界は混乱に陥った。米国はサウジの原油生産力を無視できなくなり、より関与を深めた。

特別な関係は今、岐路に立たされている。伏線は2000年代後半からのシェール革命にあった。米国は18年に世界最大の原油生産国となった。20年に石油の「純輸出国」に転換し、中東産油国の重要性が低下した。

シェール業界は原油価格に応じた機動的な増減産で需給を調整した。「石油の中央銀行」と称されるOPECと盟主サウジから価格支配力を奪ったようにも見えた。

「米国が『中東はエネルギー供給者として重要ではない』と考えるようになった」(米S&Pグローバルのダニエル・ヤーギン副会長)。自信は中東軽視を生み、やがて誤算につながる。

16年にはOPECとロシアは「OPECプラス」を結成した。世界生産量2位サウジと3位ロシアが手を組むことは米国にとって想定外だった。トランプ米政権下のエネルギー長官、ダン・ブルイエット氏は「米国が対サウジ外交に注力しなかった結果だ」と話す。

シェール業界が機動的に増産をしなくなったのも米政府の誤算だった。

「石油ガス上流部門で大規模な成長投資を実施するつもりはない」。米オキシデンタル・ペトロリアムが8月に開いた決算説明会。経営陣はこう強調した。生産量増よりも株主還元を求める投資家の圧力は強い。

生産高が伸び悩むなか、シェールの有望な鉱区は減ってきた。石油メジャーの米エクソンモービルが11日、シェール専業パイオニア・ナチュラル・リソーシズを9兆円規模で買収すると発表したのも、優良資産の奪い合いが背景にある。

米国の中東軽視はパレスチナ不安定化の一因となった。湾岸戦争でパレスチナ問題に焦点があたった1990年代、米国は中東和平交渉を熱心に仲介したが、近年の外交政策で優先順位は低い。

世界は脱炭素社会への移行中も石油の利用を止められず、サウジとの関係は重要であり続ける。米国に代わり中国の影響力が大きくなるなか、岸田政権は7月、中東との関係強化策を打ち出した。米国の誤算は中東依存の日本にとって対岸の火事ではない。

【「エネルギー選択の時 石油危機50年」記事一覧】

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