スパイ摘発の協力者に最高1000万円 経済政策に行き詰った中国政府は先祖返りするしかない

スパイ摘発の協力者に最高1000万円 経済政策に行き詰った中国政府は先祖返りするしかない
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/09271100/?all=1

『2023年09月27日

アジア大会でも見えた中国の光と影

 9月23日、中国・浙江省杭州市の競技場で第19回アジア競技大会の開会式が行われた。「水」をテーマに杭州の歴史と風景を讃えるこの盛大なセレモニーで、集まった8万人の観客は開会を宣言した習近平国家主席を熱烈に歓迎した。

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 中国政府お得意の国威発揚の場になったかに見えるが、その内実は違うようだ。

 仏国際放送局ラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)中国語版は9月22日、「
中国経済に暗雲が立ち込める中、政府が巨額を投じて競技場を建設したことに市民から批判の声が上がっている」と報じた。

 RFIによれば、杭州アジア大会開催に必要な会場、交通インフラなどの建設のために300億ドル以上の資金が投じられたことに対し、一般市民は「大会の豪華絢爛さはあくまで指導部の成果のためだ」と冷ややかな反応を示した。「大会に使うお金を庶民や若い人に使ってくれたらよかったのに。今は仕事を探すのも困難だ。特に若者は生活していくのが大変だ」との嘆き節も聞こえてきたという。

 経済が不調になれば、庶民の関心が自ずと日々の生活に集まるのは世の常だ。現在の中国経済は満身創痍の状態にあると言っても過言ではない。

小手先の政策では回復できない中国経済

 市況の悪化で不動産開発企業は資金不足に陥り、工事が中断されたままの建設現場が各地で目立っている。中国人の金融資産の7割超を占める不動産価格が下落し、将来への備えも失われつつある。

 中国政府が失業率の数字を公表しなくなったために直近の動向は明らかではないが、若年層(16~24歳)の雇用状況は悪化の一途を辿っていることだろう。

 中国政府は分配を重視する「共同富裕(共に豊かになる)」を政治スローガンに掲げているが、所得格差はむしろ拡大している。特に都市部の昨年の所得格差は、統計が確認できる1985年以降で最大になってしまった(9月4日付日本経済新聞)。

 そのせいだろうか、中国人の節約志向は日に日に強まるばかりだ。若者を中心に数十万人規模の倹約家が集うSNSが話題になる有様だという(9月7日付NNA)。

 国内外の専門家からは「中国政府は家計の消費を刺激するような需要喚起の政策を急げ」との声が一斉に上がっているが、中国政府は経済よりも安全保障を優先する姿勢を崩していない。2025年までに製造強国の仲間入りを目指す中国政府は、限られた予算を半導体の国産化など経済安全保障の分野に振り向けている。

 中国政府は不動産ローンの規制緩和などの措置に踏み切ったが、不動産市場は回復する兆しを見せていない。小手先の政策では長年抱えてきた矛盾が露呈した中国経済を回復させることはできないのだ。』

『スパイは「歩く50万元」…流行する不気味なキーワード

 経済対策に行き詰まった中国政府はこのところ、思想や行動に対する「引き締め」の強化に走っている感が強い。

 国家の安全を重視する中国政府は7月1日、スパイ行為を取り締まる改正「反スパイ法」を施行したが、中国のネット上では「行走的50万(歩く50万元)」という不気味なキーワードが流行している。中国で潜伏しているスパイを指す用語だ。

 スパイ行為の防止又はスパイ事件摘発に重大な役割を果たした人に対して、最高50万元(約1000万円)の賞金が中国政府から与えられることから、スパイは歩く50万元というわけだ。

 中国政府は「歩く50万元」発見運動を全国に広げることに躍起になっている。家族間の相互告発も奨励していることから、人々は「再び文化大革命のような悪夢が再現するのではないか」と恐れている(9月22日付ニューズウィーク日本版)。

 9月に入り、中国政府が「国民の感情を傷つける」服装の禁止を盛り込んだ法案を公表したことにも疑念の声が広がっている。

 どのような服装が対象になるかが明記されていないからだが、中国国内では「歴史的に重要な場所や記念日に和服を着る人への取り締まりが主な目的だ」との受け止めが一般的だ(9月22日付AFP)。「日本アニメのコスプレもターゲットになる可能性がある」と報ずる香港メディアもあり、水産物の次はこの問題が日中間の懸案になってしまうのかもしれない。
政府は生き残りをかけてレーニンの基本原則に立ち戻る

 だが、中国政府の引き締めはとどまることを知らないのではないだろうか。

 長期不況に陥りつつある中国経済の「日本化」はよく指摘される。だが、中国の政治経済制度に詳しい呉軍華氏(日本総合研究所上席理事)は「中国で『ソ連化』が進むかどうかに注目すべき」と主張している(9月22日付日本経済新聞)。

 呉氏によれば、中国の改革開放のルーツは、ウラジーミル・レーニンがロシア・ソビエト社会主義共和国の指導者だった1921年3月に始めた新経済政策「NEP(ネップ)」にあると言える。ロシア内戦後の経済危機に対応するため、戦時共産主義を転換して一部に資本主義的手法を取り入れた政策だ。ただし、政治や文化などでは社会主義の維持が原則であり、ソビエト連邦(旧ソ連)はこの政策が施行中だった1922年12月に建国されている。

「中国版ネップ」は本家とは比べものにならないほどの大成功を収めたが、中国政府はレーニンが掲げた原則を今も堅持しているという。

 長年続いた高度成長による“深刻な副作用”が吹き出している現在、中国政府は生き残りをかけてレーニンの基本原則に立ち戻るしかないだろう。なりふり構わず、中国共産党の政権維持に終始することになったとしてもなんら不思議ではない状況だ。

 中国政府がソ連化(先祖返り)するのは、時間の問題ではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部 』