米軍、パラオに防空弾配備検討 中国の太平洋進出を警戒
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN170SC0X10C23A9000000/

『【ワシントン=中村亮、マニラ=志賀優一】米国が中国軍による太平洋進出に警戒を強めている。島しょ国パラオに防空ミサイルの配備を検討し、フィリピンとは同国東部に拠点を設ける協議に入った。米国にとって戦略的要衝にある両国と協力を拡大し、台湾有事の抑止を進める。
パラオのウィップス大統領は21日、ニューヨークで日本経済新聞の取材に応じ、米国に防空システム「パトリオット」の恒久配備を要請していると明かした…
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『米軍は2026年、パラオにレーダーシステムを配備する。ウィップス氏は「レーダーを置くなら我々が攻撃を受けたときに備えてパトリオットを置くよう明確に伝えた」と語った。「米国は要請を明確に理解している」と話した。
レーダーシステムは太平洋や中国近辺で中国軍の空や海での動きを監視する。ウィップス氏はレーダー配備を認めると中国から有事で攻撃を受けやすくなると懸念する。
米国防総省の報道担当者は日経の取材でパトリオット配備に関し「我々はパラオ防衛に深く関与していく。パラオにおける米軍の体制を議論する」と説明。配備を検討していると示唆した。
パラオは米国と「自由連合協定(コンパクト)」を結んでおり、国防を米国に依存している。
パトリオットは弾道ミサイルや巡航ミサイル、航空機を幅広く撃墜できる。ロシアの侵攻に対処するウクライナ軍が運用し、首都キーウ(キエフ)などの防空で成果をあげている。
米国とフィリピンも同国東部を対象に米軍の拠点を増やす検討を始めた。太平洋に近い東部は拠点が手薄だ。関係者3人は日経の取材で北部ルソン島と西部パラワン島以外が検討対象だと説明した。
2月に米軍拠点は4カ所増え、9カ所になった。7カ所がルソン島とパラワン島など北部と西部に集中する。
関係者は東部サマール島とレイテ島が協議の対象になっていると話す。南部ミンダナオ島の東側も候補であると言及した。ミンダナオ島の北スリガオ州は拠点の誘致に名乗りをあげる意向だ。
米インド太平洋軍のジョン・アキリーノ司令官は9月中旬、フィリピンで開いた記者会見で作戦拠点に関し「我々の指導層に追加を進言するかもしれない。だがそうする前にやるべき作業が残っている」と語っていた。
米国にはフィリピンで頻発する自然災害への対応力を強めるだけでなく、中国を抑止する狙いがある。米国はフィリピンの同意を前提にインフラ施設を整備したり、軍事物資を備蓄したりできる。
パラオとフィリピンはともに米国にとって西太平洋の戦略的要衝だ。フィリピンは日本の沖縄と台湾を結ぶ第1列島線に位置し、パラオも日本の小笠原諸島やグアム、パプアニューギニアを結ぶ第2列島線の近くにある。
米国は、中国軍が台湾や南シナ海での有事を想定して米軍接近を阻止する戦略をとるとみる。活動地域は太平洋に広がり、ミサイルの射程も延びる。中国本土から約4000キロメートルに位置する米領グアムにも脅威が及ぶ。
日本の統合幕僚監部によると、中国海軍の空母「山東」が9月中旬に太平洋で艦載の戦闘機やヘリコプターによる発着訓練を約60回実施した。定期的にこうした訓練をしている。
米軍は第1列島線に加え、第2列島線に部隊を分散する戦略を進めている。米軍が作戦拠点を増やすほど中国が攻撃対象を絞りにくくなり、中国への抑止力が高まるとみる。
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益尾知佐子
九州大学大学院比較社会文化研究院 教授
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分析・考察 中国の太平洋進出は、昨年春のソロモン諸島との安保協定締結以降、とても注目を集めています。
ソロモンはその後、中国傾斜が顕著で、港湾建設のみならず、中国から警察の装備やトレーニング、海洋科学の研修などの提供を受けています。
中国は南シナ海の水中に立体監視網を構築しており、将来的にはソロモンでも似たものを作る可能性が高いです。その他の太平洋島嶼国も一部、中国から類似の「協力」を受けています。
この記事にある米軍の動きは、それらを押し返そうとする試みと言えます。
ただ、中国も経済や気候変動対策などで現地政権・民衆にアメを与える努力をしているので、その包括的手法との競合の仕方はもっと工夫すべきかと思います。
2023年9月25日 15:26 』