米中対立をイデオロギー対立だけで見てはいけない

米中対立をイデオロギー対立だけで見てはいけない
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/31461

『2023年8月30日付のフォーリン・アフェアーズ誌(ウェブ版)に、アジア・ソサイエティ政策研究所の中国専門家のネーサン・レヴァインが「世界観の衝突:米国と中国はイデオロギー上の行き詰まりに達した」と題する論説を寄稿している。
(Nastco/gettyimages)

 米国と中国との緊張は先鋭化し、戦争に至るリスクが高まっている。根本的な問題は、両国関係をどう定義するかで双方が異なる考えを有しているからである。

 米国は中国と大国間「競争」を行っていると捉えている。一方、中国は、関係を「競争」と捉えることは対立と紛争に至りかねないとして反対し、「相互の尊重」「平和共存」と捉えるべきとしている。

 これは、単に言葉の争いではない。米中間の緊張と不信は、台湾や技術といった個別懸案に帰するというより、両国の世界観、イデオロギー、体制の正当性についての根本的な相違から来ている。だから、双方の軍当局間の危機発生時のコミュニケーション、核軍備管理といった簡単な措置についても話が進まない。

 米国にとって、「競争」とは、両者とも繁栄することもありうるものである。一方、中国にとって、政治における競争とは、生きるか死ぬかの闘争である。中国共産党は「西側の反中勢力」が自由主義イデオロギーに基づいて中国を「西欧化し、分裂させ、カラー革命を起こして」、中国共産党を転覆させ、民主主義に転換させようとしていると捉えている。

 中国も米国も相手の見方を容易に受け入れることはできず、それが外交上のやりとりを困難なものとしている。前記のようなイデオロギー上の相違があるからこそ、両者の関係がエスカレーションしないようにする「ガードレール」を設けることにも中国は躊躇を示した。

 核兵器についての戦略的安定と軍備管理についての対話を中国が拒否したのもその一例である。気候変動、グローバルな食料安全保障等での協力でさえ、中国からは、意思を押しつける手段と捉えられてしまう。

 このように米中両国はイデオロギーに起因する安全保障のジレンマに直面している。米国が、中国が、あるいは双方がそれぞれの世界観を調整し、同じ世界を共有するようになるまで、双方の努力で戦争を避けるという最後の段階を強固にするしか方法はない。

*   *   *

 米中関係については、多くの議論が提示されている。勃興する新興勢力とこれに不安を感ずる既存勢力との対立はしばしば戦争につながるという「トゥキディデスの罠」。衰える中国は強い中国よりも危険であるとの「ピーク・チャイナの危険」。レヴァインはこの論説で「世界観の衝突によって危険が生じる」という考え方を提示しているが、果たしてそうだろうかと思わせるところが多い論説である。』

『レヴァインは、世界観、イデオロギー、正当性といった用語を用いているが、要は理念の面で米中両国が相違していることを両国対立の根本原因として捉えている。米中両国が異なった理念を持っていることに疑いの余地はないが、理念が異なっている二国がいつも戦争の危機に至るわけではない。

 米中関係を冷戦時の米ソ関係と単純に対比することには慎重でなければならないが、米ソは理念の面ではお互いに抜き差しならない対立関係にあったものの、危機を回避し、破局のリスクを低減するための協力も行った。

 米中両国は1972年のニクソン訪中以来さまざまな紆余曲折を経てきたが、現在これだけの緊張関係に至っているのは、理念のレベルでの対立もさることながら、行動のレベルの積み重ねによるものである。理念の対立は、行動の対立を伴うことで実質化し、激化する。

 一方の国は、他方の国の行動を見て、相手が理念をどう現実化しようとしているかを判断する。理念と行動の相互作用が重要である。

 レヴァインの主張の一つは、米国が自由主義を世界的・普遍的に広げようとする点で中国の目指す「共存」にとっての脅威となるという点にある。中国から米国がどう見えるかを考えることは重要であるが、それを強調するがため、どちらが現状変更の行動をしているかの視点を度外視してしまっている。

 実際、近年、中国が南シナ海や東シナ海で行っている行動や香港での統治の仕方などは、一方的であり、近隣諸国を脅かしたり、国際法に違反し国際秩序を乱したりする行為となっている。

問題はどのような理念から行動があるか

 理念の側面を強調しようとするがために、個別懸案の重みを考慮しようとしない論説の姿勢も気になる。台湾問題、核軍備管理、然りである。冷戦時の米ソ関係を含む過去の軍備管理の歴史を考えてみても明らかなとおり、軍備を増強している国に枠をはめようとすることは、レヴァインがいうような「簡単な措置」などではない。

 習近平体制における思想重視、経済困難の中での体制の正当性の問題に鑑みれば、現下の中国を考える際、理念に着目することは重要な視点と思う。一方、理念からすべてを説明しようとするのは無理がある。むしろ、個別案件における行動がどのように理念を巡る状況の影響を受けているか、それがエスカレートしないかを問うべきであろう。台湾問題にしても、同じ台湾統一という目的を掲げても、タイムフレームとやり方によって事態は根本的に変わってくる。

 米中両国にとっての喫緊の課題は、行動のレベルで危機回避ができるかである。冷戦時、米ソが危機回避の仕組みの必要性に目覚めたのは、キューバ・ミサイル危機がきっかけであった。実際の危機に直面せずにそれができるかが問われている。 』