バイデン氏、G20では対中国専念 首脳会談へ習氏に圧力

バイデン氏、G20では対中国専念 首脳会談へ習氏に圧力
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『【ニューデリー=坂口幸裕、田島如生】バイデン米大統領は10日に閉幕した20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で中国の影響力をそぐことに専念した。歴史的にロシアと関係が深いインドが議長国では対ロ強硬策を打ち出せない事情もあり、米国が実現をめざす11月の首脳会談に応じるよう中国に圧力をかける場に利用した。

「これは本当に大きな取引だ。ゲームチェンジとなる地域への投資だ」。バイデン氏は9日夕、インド…

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『バイデン氏は9日夕、インドのモディ首相と共催したインフラ投資会合で中東などでの輸送網計画に胸を張った。

米政府は9日に発表した、インドから中東を経由して欧州までを鉄道・海上輸送網で結ぶ「インド・中東・欧州経済回廊」構想を主導した。広域経済圏構想「一帯一路」を通じた経済協力などで影響力を高める中国への対抗にほかならない。

バイデン氏の発言からは劣勢への焦りもうかがえる。対立してきたイランとサウジアラビアは3月に中国の仲介で外交正常化にこぎつけ、米国は蚊帳の外に置かれた。バイデン氏の側近が人権問題などで関係がぎくしゃくするサウジを5月に訪れて以降、回廊構想が一気に具体化したのは偶然ではない。

米国主導の国際秩序を作り替えようとする中国と対峙するには、国際社会で存在感を高めるグローバルサウスと呼ばれる新興・途上国を引き込むのが不可欠との判断もある。

米国には新興国だけでなく主要7カ国(G7)からも「民主主義や法の支配といった価値観だけでなく、実利で結びつきを強める戦略が必要だ」との声が届いていた。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)がインフラ支援を「世界の他の地域でも実施する」と話すのはそのためだ。

9日には米国と欧州連合(EU)がアフリカのアンゴラ、ザンビア、コンゴ民主共和国で鉄道敷設などのインフラ開発で協力することも発表した。バイデン氏がG20サミットで国際開発金融機関から新興国への融資を10年で計2000億ドル(約30兆円)増やすと表明したのも同じ文脈にある。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席、ロシアのプーチン大統領が欠席したG20サミットの合間に、バイデン氏はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカで構成するBRICSのうち、中ロを除く3カ国の首脳と会談した。

今回主催したインドと24年以降に議長国を務める3カ国(24年ブラジル、25年南ア、26年米国)が、G20を「国際経済協力のための最も重要な枠組み」として関与していくと確認。中ロのG20軽視に焦点を当て、BRICSの関係にくさびを打ち込んだ。対中抑止で共闘するインドもテコにした。

中国がG20サミットに習氏の代理として派遣したナンバー2の李強(リー・チャン)首相が現地で存在感を示したとは言いがたい。バイデン氏は10日の記者会見で李氏に接触したと明かしたものの、名前には言及せず「(中国指導部の)ナンバー2の人と会った」と述べただけだった。

一連の振る舞いからは、バイデン氏がかねて直接対話に意欲を示してきた習氏を引きずり出そうとする思惑が透ける。候補となるのが11月の米国で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、東南アジアなどの新興国もメンバーだ。習氏が再び欠席すれば、国際社会で中国の影が薄れかねないと揺さぶる。

24年11月の米大統領選で再選をめざすバイデン氏にとって与野党とも対中強硬に振れやすくなる内政事情を考慮し、偶発的な軍事衝突の回避に向けて米中関係を安定させるには首脳間の意思疎通が必要だとの計算が働く。

習氏がG20への出席を見送った背景には、十分な外交成果が見込みづらいとの読みがあった。国境紛争を抱えるインドとは関係が悪い。国内経済の低迷をはじめとする内政の課題が中国に多いのも要因になった。

米ハドソン研究所アジア太平洋安全保障部長のパトリック・クローニン氏は「米国が求めるほど習氏との会談がセットされにくくなる可能性がある」と指摘する。停滞する中国経済の改善につながる譲歩案を条件にされるおそれがあるとみる。

9日に記者団から習氏のG20サミット欠席について問われ「彼がここにいてくれればよかった」と話したバイデン氏。10日午前、G20サミット閉幕を待たずに40時間ほど滞在したインドをあとにし、次の訪問国であるベトナムに向かった。

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