サウジ、原油減産で支配力誇示 米挑発も関係修復に期待
編集委員 岐部秀光
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD063Y60W3A900C2000000/
『サウジアラビアは5日、ロシアの輸出制限とともに自主減産の延長を表明し、市場の価格に大きな影響をあたえる自国の力を誇示した。長期的な関係修復をのぞみながらも、足元ではインフレ克服に苦しむ米国を露骨に挑発している。政治的な影響力をねらって主張を強めるサウジの動きは、世界経済の波乱要因となる。
産油国の収入は石油の価格と輸出量の掛け算で決まる。ふつう、産油国は能力いっぱいに生産して収入を最大化しようと…
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『ふつう、産油国は能力いっぱいに生産して収入を最大化しようとするため、自主減産はイランなど競合する産油国を利するだけの損な行動にみえる。
しかし、余剰生産能力を戦略的に維持するサウジは産油国で唯一、独断によって価格にインパクトを与えられるユニークな存在だ。
世界の石油需要はざっくり日量1億バレル。サウジの生産能力は世界トップクラスで、その1割以上を占める日量1200万バレルだ。ところが実際の生産量は日量900万バレルで、25%もの増産余力を維持している。
サウジは世界の脱炭素戦略が迷走するなか、エネルギー転換の過程において自国の重要度が高まることを印象づけようとしている。前回の石油輸出国機構(OPEC)による協調減産は2022年と米中間選挙の投票直前だった。今回も、24年の米大統領選挙が視野に入るタイミングだ。
「サウジの減産延長は露骨な米バイデン政権へのあてつけだ」と王室に近い関係者は指摘する。実力者のムハンマド皇太子は、波長があわないバイデン氏ではなく、蜜月関係を築いたトランプ前大統領の復権に期待しているとの説だ。
サウジは8月、南アフリカで開いたBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)首脳会議に外相が参加し、正式にこの枠組みに加わることを決めた。中ロへの接近と米国からの離反をちらつかせる真の狙いは、「頼れる盟主」として米国を再び中東に引き戻すことだ。
いくら中国やロシアと関係を強化しても、こうした国がサウジの安全保障上の危機に際して責任を果たす意思も能力もないことをサウジは理解している。必要な時に米国がきちんと守ってくれる確約をサウジは欲しているのだ。
米とサウジは足元でぎくしゃくした関係が目立つ。18年に起きた皇太子に批判的だったサウジ人記者の殺害事件はその要因の一つといえる。
ただサウジからすれば、関係を損ねたのは米側となる。中東民主化運動「アラブの春」でエジプトなどの政権を支えず、「核合意」で宿敵イランへの制裁を解除し、産油国を置き去りにするような脱炭素政策を進めようとした。
インフレ克服に苦悩する米国の現在は、サウジからすれば「言わんこっちゃない」という状況だ。産油国の警告を無視して強引に再生可能エネルギーの導入にカジを切り、油田開発など上流部門の投資不足を招いたのは米欧の政治家に責任がある、という見方だ。
サウジには自主減産という損な役回りを引き受けてでも、石油価格を高く維持しておきたい事情がある。2016年に皇太子が発表した大がかりな国家改造計画「ビジョン2030」はちょうど折り返し地点を迎えた。
外国企業投資による産業多角化では、今のところ思うような成果をあげられずにいる。そこでサウジは、石油収入を元手にした政府系ファンドによる買収で「時間を買う」戦略を鮮明にしている。米電気自動車(EV)メーカーのルシード・モータースを買収するなどして悲願の自動車産業育成をなし遂げつつある。
減産の結果、サウジの財政を均衡させるためには1バレル90ドル以上の価格が必要になっているとみられる。サウジは改革資金の捻出へ国営石油会社サウジアラムコの株式の追加放出も検討しているとされる。アラムコの企業価値を高めるうえでも、高い価格が欠かせない。
米サウジの同盟関係は、米国がサウド家による支配を認めて安全を保証する代わりに、サウジが石油の安定供給に責任を果たすのが柱であった。サウジはこれまでその役割を静かに果たしてきたが、アブドルアジズ初代国王から数えて3代目の世代にあたる若い皇太子が実権を握ると、政治的な主張を強めた。
だが、ロシアとの連携もいとわぬ「価格優先」の行動は、欧米の政治家や政策当局者の間に漂うサウジ不信を膨らませる。その副作用は、サウジの将来へのリスクとなりかねない。
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