ナイジェリアの賭け「BRICSよりG20」 西側に投資で秋波

ナイジェリアの賭け「BRICSよりG20」 西側に投資で秋波
編集委員 下田敏
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD041NR0U3A900C2000000/

『アフリカ最大の経済大国ナイジェリアのティヌブ大統領が20カ国・地域(G20)加盟を求め、9日からインドで開催される首脳会議に出席する。唐突にみえるG20加盟申請は中国・ロシアが主導するBRICSではなく、西側主導で経済再生をはかるナイジェリアの「賭け」。債務問題などをきっかけにグローバルサウス(南半球を中心とする途上国)での中ロの攻勢が転機を迎えたとも映る。

G20は2008年のリーマン・ショッ…

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『G20は2008年のリーマン・ショックをふまえ、フランスのサルコジ元大統領らの提唱で1999年からあった20カ国・地域の財務相・中央銀行総裁会議を首脳級に格上げしたのが始まりだ。どこかの国が「加盟」を申請するという話は聞いたことがない。

ナイジェリアもそこはわかっているようで、大統領報道官は3日に「正式参加が望ましいが(加盟によって)もたらされる利益とリスクを分析する広範な協議に着手した」との声明を発表している。

BRICSリストから消えたナイジェリア

このタイミングでの唐突なG20への加盟申請の背景には何があるのか。8月22〜24日に開かれたBRICS首脳会議でのナイジェリアの動きにそれを読み解く糸口がある。

BRICS首脳会議に出席する中国の習近平国家主席とロシアのラブロフ外相㊨(ヨハネスブルク)=ロイター

ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカで構成するBRICSはサウジアラビアやエチオピア、エジプトなど6カ国の24年からの加盟を決めた。この10年ほどBRICS加盟を探り、首脳会議にも代表団を送り込んでいたナイジェリアの名前は新規加盟国のリストにはなかった。

ナイジェリアの加盟がBRICSに拒否されたとの臆測が広がるなか、代表団のシェティマ副大統領は「なぜなら私たちがBRICSへの加盟を申請していないからだ」と説明。首脳会議の声明でも「受け入れ可能なルールや規範で統治される世界が保障されるようなパートナーシップを望んでいる」と表明した。23年5月に就任したティヌブ大統領による政策転換がうかがえる。

ルゾフォナ大学(ポルトガル)のテレザ・ヌゲイラ・ピント助教授は「ティヌブ大統領はナイジェリアの地域的・国際的な存在感を取り戻そうとしており、そのためには西側との連携が非常に重要だと認識している」と指摘する。

ナイジェリアも含まれるサハラ砂漠南縁のサヘル地域ではテロ組織が活動し、それを掃討できない政府や旧宗主国フランスへの不満からクーデターが頻発。

マリやブルキナファソの軍事政権はロシアや民間軍事会社ワグネルと接近し、駐留仏軍を追い出している。

だがサヘルの多くの国とは異なり、ナイジェリアの旧宗主国は英国。BRICSからG20加盟へとカジを切るにあたって旧宗主国の英国、ナイジェリアと親密な米国、BRICSメンバーだが中ロとは距離を置くG20議長国のインドが動いている可能性もある。

米欧の投資呼び込みに成功体験

ティヌブ大統領は米シカゴ州立大学を卒業し、米国の大手会計事務所で働いた後、ナイジェリアに戻ってモービル石油ナイジェリアで監査役を務めた。米欧の人脈に加え、1999〜2007年のラゴス州知事時代に海外投資を呼び込んだ経済発展の成功体験を持つ。

ナイジェリア最大都市のラゴスは州政府の財政難からインフラ開発が進まず、ティヌブ大統領が知事だった05年に民間主導の新都心開発計画「エコアトランティック」を決めた。約1000ヘクタールの海浜部分を埋め立てて水上交通を中心に都市機能を整える計画で、米欧からの投資を集めているほか、米国領事館が移転のための土地を取得している。

ICTによる成長でも米欧との連携は欠かせない(米グーグルがラゴスで開催したイベント)=ロイター

ナイジェリアはまたブハリ前大統領の時代からICT(情報通信技術)を新たな経済のけん引役と位置付けている。輸出額の8割、政府歳入の7割を原油に依存する経済構造からの脱却をはかるためだ。デジタル・イノベーション機関(ONDI)のヤクブ・ムサ長官は「ナイジェリア経済はなお原油生産に依存しており、多くの課題を抱えているが、デジタルに集中することで高い経済成長を実現する」と語る。

米欧が全体の7〜8割を占めるとされるスタートアップ投資でみても、22年のナイジェリア向け投資額は約12億ドル(約1750億円)とアフリカ全体の4分の1に達する。国際協力機構(JICA)ナイジェリア事務所の不破直伸スタートアップ専門家は「投資の大半は米欧からで、米マイクロソフトや米グーグルとの連携も進んでいる」と話す。米欧からの投資呼び込みは将来の経済成長に欠かせない。

今のナイジェリア経済はまさに「内憂」に直面している。ティヌブ大統領は過剰なガソリン補助金の廃止や外国為替取引規制の撤廃など経済改革に取り組んでいるが、8月初めにはそれに反対する大規模なデモやストライキが全国規模で起きた。

ナイジェリアで8月に起きた物価上昇に抗議する大規模デモ(アブジャ)=ロイター

最大の課題は「人口増加に伴う疲労(Demographic Fatigue)」だ。ナイジェリアの人口はアフリカ最大の約2億2400万人。右肩上がりで増え続け、50年には約3億7700万人となる。これは1972年のアフリカ全土の人口に匹敵する規模だ。すでに子供の教育には手がまわらず、若年層の失業率は40%を超え、農地開発のための森林伐採などで環境破壊が進んでいる。

過剰債務問題も重荷だ。ナイジェリアの対外債務は21年で約344億ドルで、中国からの借り入れが10%以上を占める。政府歳入の80%以上を債務返済や利払いに充てていると報じられており、自力での経済再生の道筋は見えてきそうにない。

「親中ロ」のサウスに変化

直近7月の物価上昇率は年24%を超え、18年ぶりの水準となった。通貨下落で輸入物価が上がっているのが主因だ。ナイジェリアはアフリカ最大の原油生産国ではあるが、国内の精製設備が整っていないためにガソリンのほとんどを輸入に頼っているという事情もある。
ナイジェリアが抱える問題はアフリカの国々に多く共通している。その隙を突いているのがロシアや中国であり、金や原油などの資源と引き換えにテロと戦うための軍事力を供与したり、経済支援を実施したりする動きが広がっている。「アフリカの国々にはほとんど選択肢がない」(ピント氏)のが実情だ。

BRICS加盟を見送り、G20申請を探り始めたナイジェリアは日本を含めた西側の投資呼び込みで経済再生をはかるという「賭け」に出たといえる。ナイジェリア向けの22年の海外直接投資は約4億6800万ドルと14年の約22億ドルから激減した。G20新規加盟を認めるかどうかはさておき、日米欧が戦略的な投資拡大に動かなければ、アフリカの一部の国々と同様にナイジェリアも「安易な道」を選んでしまうだろう。

Nikkei Views
編集委員が日々のニュースを取り上げ、独自の切り口で分析します。 』