BRICSが加盟国拡大で合意、「BRICSプラス」は11ヶ国の大所帯に
https://www.dlri.co.jp/report/macro/273663.html


『要旨
足下の世界を巡っては、主要先進国の存在感が低下するなかで新興国の存在感が高まる一方、新興国を含む世界的な連帯を模索する場と期待されたG20は呉越同舟感が強く、機能不全状態に陥る。
米中対立やロシアのウクライナ侵攻を機に世界では欧米などと中ロとの分断が広がるなか、両陣営はグローバルサウスと呼ばれる新興国を自陣営に引き込むべく綱引きを展開している。
また、「新興国の雄」であるBRICSも枠組拡大による影響力向上を目指す動きをみせてきた。
南アで21~24日の日程で開催されたBRICS首脳会議では、来年1月から6ヶ国が新たに加盟することで合意に至り、BRICSは11ヶ国の大所帯となる。
直接的な経済面でのインパクトは限定的だが、貿易・決済面での連携強化などを通じて欧米を中心とする既存秩序への対抗姿勢を強めるとみられる。
新興国が自らの意見を表明する場が増えることは望ましい一方、秩序なきルールが描く新たな世界が孕むリスクにもきちんと目を向ける必要性があると捉えられる。
世界経済を巡っては、長きに亘って経済成長を主導してきたG7(主要7ヶ国)にEU(欧州連合)を加えた主要先進国の割合が5割を切るなど、存在感の低下が顕著になるとともに、国際政治の場においてもその影響力が低下する傾向が強まっている。こうしたなか、世界金融危機後に構築された主要先進国に加え、中国をはじめとする新興国を加えた枠組のG20(主要20ヶ国・地域)は、幅広い国々が参加することで意見集約のすそ野が広がることが期待されたものの、現実には加盟国の多さゆえに『呉越同舟』感が露わになる状況が続いている。さらに、ここ数年は米中摩擦の激化に加え、昨年来のロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、世界的には欧米などと中ロとの『分断』の動きが進んでおり、足下の世界は気候変動問題対応など全世界的な連帯が必要な問題が山積しているにも拘らず、G20は空中分解こそ免れているが、空転状態が続くなど機能不全状態に陥ってきた。他方、新興国を巡っては、今年のG20議長国であるインドがグローバルサウスの声サミットを開催したことを機に『グローバルサウス』という言葉がにわかに注目を集めており、欧米などと中ロの双方が自陣営に新興国を取り込むべく綱引きをする動きもみられる。この背景には、ロシアによるウクライナ侵攻を巡って、インドをはじめとするグローバルサウスの国々の大宗が欧米などにも中ロにも与しない、いわゆる『中間派』の立場を採っていることも影響している。
図1 世界経済に占めるGDP比率の推移
このようにグローバルサウスが注目を集める背後では、いわゆる『新興国の雄』であるBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)も新興国に触手を伸ばす動きをみせてきた(注1)。BRICSは共同出資により開発金融機関の新開発銀行(BRICS銀行)を設立しており、同行にはすでに5ヶ国以外にも加盟国を拡大させる動きが出ており、この背景には、世界銀行やIMF(国際通貨基金)をはじめとする既存の国際金融機関が融資実行を巡って財政健全化や汚職対策、温暖化対策をはじめとする環境負荷の軽減を求めており、被支援国である新興国が『重荷』と感じていることも影響している。さらに、昨年来の国際金融市場における米ドル高を受けて新興国の債務問題が注目されたなか、新開発銀行をデリスキング(リスク低減)の手段にすべく、ハードカレンシーを代替する通貨での取引拡大を目指して被支援国通貨建てでの融資実施の可能性を探る動きをみせており、通貨安に苦しむ新興国にとって魅力的に映っている可能性がある。こうした環境変化に加え、上述のように欧米などと中ロが新興国を巡って綱引きをするなかで中国とロシアを中心に新興国に対してBRICSへの参加を呼び掛ける動きを活発化させており、多くの新興国が正式、ないし非正式にBRICSへの加盟申請を行っている。南アフリカにおいて21~24日の日程で開催されたBRICS首脳会議では、これらの国々の加盟の可否が協議された。首脳会議の最終日には50を超える国々の首脳が参加する拡大会合が開催されるなど、多くの新興国が主要先進国を中心とする既存秩序の枠組に反発している様子もうかがえた。
ただし、上述のように中ロがBRICSへの参加を呼び掛ける動きを活発化させる一方、BRICS5ヶ国のうち様々な場面で中国と鍔迫り合いする動きをみせるインドとの間では『温度差』が生じており、その行方に注目が集まった。というのも、中ロは欧米などへの対抗軸として多極的な世界秩序の構築を目標にBRICSの拡大を目指しているほか、ブラジルもルラ現政権の下で反米姿勢を隠さない一方で欧米との対立を回避したいとの思惑を有するほか、インドは伝統的に『全方位外交』を国是としていずれの陣営にも与しない姿勢をみせるなどBRICSが反欧米の色合いを強めることを警戒してきた。こうしたなか、BRICS拡大に関する協議はその規模とペースを巡る条件で意見調整がなされた模様であり、最終的にアルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の6ヶ国を来年1月に加盟させることで合意に至った。なお、6ヶ国のうちUAEとエジプトはすでに新開発銀行に加盟しているため、そのハードルは低かったものと捉えられる。また、資金力のあるサウジがBRICSに加わり、新開発銀行に加盟することは同行の融資能力の向上に資するほか、エジプトとエチオピアはともに人口が1億人を上回るなど地域大国として一定の存在感を有する。核開発を巡って欧米と対立するイランの加盟には様々な議論があった可能性はある一方、中国が仲介する形でサウジとイランが国交回復に至ったことが影響したと考えられる。そして、アルゼンチンについては隣国ブラジルによる猛プッシュがあったのは間違いない。議長を務めた南アのラマポーザ大統領は、今回の決定について『第一段階』と説明するなど、さらなる枠組拡大の可能性に含みを持たせる姿勢をみせたが、今回の決定に至る各国間の詰めの協議が難航したことを勘案すれば、そのハードルは決して低くない。さらに、来年以降は新たに加わった6ヶ国を含む計11ヶ国による全会一致が必要となることを勘案すれば、そのハードルは反って上がったと捉えられる。また、今回加わる6ヶ国のGDPを併せても、5ヶ国のなかで2番目に大きいインドにも満たないことを勘案すれば、今回の枠組拡大が与える直接的な影響は限定的と捉えられる。さらに、主要先進国や既存の国際金融機関への拒否感から、対抗を目指すものと捉えられる動きもみられるが、足下における新興国の債務問題の一端は、中国によるいわゆる『債務の罠』といったガバナンスを無視した動きが影響した面は否定出来ない(注2、注3)。新興国が自らの意見を表明する場が増えることそのものは良い動きと捉えられる一方、ルールを無視した新たな秩序が向かう先は明るいものばかりではなく、その背後に新たな問題を生むリスクにもきちんと目を向ける必要があると考えられる。
図2 世界経済に占めるBRICSのGDP比率の推移
以 上
注1 6月15日付レポート「グローバルサウスが注目を集める背後で「膨張」しつつあるBRICS」
注2 5月25日付レポート「新興国を巡る「債務問題」はどうなったのか?」
注3 2022年7月29日付レポート「「債務の罠」を巡る議論をあらためて冷静にみてみると」
西濵 徹
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西濵 徹
にしはま とおる
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹 』