安保と差別のきわどい一線 中国排除が招く米社会の亀裂

安保と差別のきわどい一線 中国排除が招く米社会の亀裂
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD0604D0W3A800C2000000/

 ※ 安全保障の問題は、「金で解決」とは、いかないからな…。

 ※ よく、「国民の生命・身体・財産を守り抜く!」とか言うが、「生命・身体」と「財産」は、同列ではない…。

 ※ 生命が失われたような場合、身体の完全性が損なわれた(四肢に欠損が生じた)ような場合(今、ウクライナで日々、現実の問題になっている)、巨額の金をもらったところで、虚しいだけだろ?

 ※ それでも、ある程度の金をもらって、「鉾をおさめる」のが「近代社会」のルールではあるが…。

 ※ それと、「経済活動」というのは、安全保障を筆頭に、「一定の秩序・ルール」があってこその話しだ…。

 ※ 安全保障と経済活動が対立した場合、躊躇なく、安全保障>経済活動…、となる。

『米中西部ノースダコタ州の静かな街に中国企業を呼ぶ計画がもちあがった時、7人いる地元市議の6人はもろ手を挙げて歓迎した。

ただ一人、反対したのがキャサリン・ダチラー氏だ。結論を急ぎすぎているとの理由だ。
だが反対派から過激で差別的な反中発言が相次ぐと、ダチラー氏はこれを戒めた。一部の人々に「変節」と映った行動の理由は何か。「自身の出自の影響かも」と同氏は言う。韓国で生まれ、米白人家庭の養子に入った…

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『グランド・フォークスはノースダコタ州の北東、ミネソタ州との境にある人口6万弱の市だ。

ここに中国の化学会社、阜豊(フホウ)集団が7億ドル(約1000億円)を投じトウモロコシの加工施設を造る計画が浮上したのは2021年。経済効果を期待する市長が旗を振り議会も翌年2月に承認した。「説明が不十分」とのダチラー氏の声はかき消された。』

『街を二分した論争

当初、環境や水資源への影響を心配していた反対派は、次第に安全保障に目を向けた。工場予定地から20キロメートル西にある空軍基地への「スパイ活動」が話題になった。

やがて街中に中国国旗をあしらった建設反対の看板が目立ち始める。議場で「共産党に殺される」など過激な発言も相次いだ。ダチラー氏が「敬意ある発言と行動を」とたしなめると「中国の代理人」と攻撃された。22年6月、同氏は再選を目指さず任期を終えた。』

『その後も街を二分した論争は今年2月、幕を閉じる。空軍が「安全保障上の重大懸念」を表明した直後、米上空を中国の偵察気球が飛行する事件が起き、議会は全会一致で計画撤回を決めた。

安全保障上の懸念は侮れなかった。基地は最新ドローンの試験場になっており、レーダー技術などの流出をメーカーも警告した。阜豊は「中国政府とは無関係」と強調したが、住民の疑念は残った。

「なぜ肥沃な農地を工場用地に選び法外な代金を払ったのか」。かつて農地の一部を保有し、土地計画委員もつとめたフランク・マテジェック氏は問う。150ヘクタール、東京ドーム32個分もの広大な土地を買った理由も解せないという。』

『ダチラー氏もこうした疑問は承知している。一方で中国のものはみな危ない、と考えがちな風潮に不安も感じる。「人々は複雑さを嫌い、分かりやすい白黒の二分法を好む」。そこでは中国共産党と中国系の人々が同一視され、アジア系もひとくくりにされる。

「米国しか知らずに育った私も常にそうした差別を受けた」。阜豊問題を議論中も中国語の新聞を読み上げるよう求められた。』

『「アメリカン・ドリームをくじく法律」

阜豊問題を受け、中国を想定した農地取得の規制は全米に広がる。22年は14州が外国勢の農地取得を制限していたが、今年はアラバマ、アイダホ、ユタなど10州が新たに法律を施行した。連邦議会でも規制強化が議論されている。』

『一線を越えたのがフロリダ州だ。個人の住宅取得まで制限する州法を、7月に施行させたのだ。

対象は7カ国だが、大統領選の共和党候補として存在感を示したいデサンティス知事は「中国共産党に対抗する」と標的を明確にした。米国籍や永住権がない人々による軍事施設や重要インフラ近くの物件取得を規制し、売り手にも懲役など厳罰を科す内容だ。

州中部クラモントで不動産業を営むジェームス・ソン氏は影響を痛感している。中国系が主体の顧客は「買い手が消えて売り一色だ」。法の範囲が広がる懸念から永住者なども物件を手放し、中国系というだけで銀行や施工業者が取引を拒む例も出始めたという。

ソン氏らは5月、州法の差し止め訴訟を起こした。事業への打撃ばかりが理由でない。同氏は北京大学で地震学を修めながら「米国の自由と民主主義に憧れ」移住してきた。親族が共産党独裁に反対し投獄された事情もあった。

それだけに共産党に連なる企業や組織への警戒は当然と考えるが、無関係な人々まで広く巻き込む手法はあまりに乱暴とみる。「米国の価値観に賛同する個人を遠ざけ、アメリカン・ドリームをくじく法律は米国のためにならない」』

『米国は1900年代初頭、アジア系移民の土地取得を禁じ、第2次大戦中は日系移民を強制収容した。同時テロ後は中東系の人々への排斥的な動きが強まった。多くの場合、口実は安全保障だった。

この言葉はやっかいだ。ナショナリズムと結びつき「異を唱えると反米と批判される」(アジア系米国人弁護士会のクリス・クオック氏)。そんな事情が民主・共和両党の反中発言を先鋭化させ、外交関係や米社会に不要な亀裂を広げうるとみるクオック氏らは、党幹部に自制を求める書簡を準備中だ。』

『粛々と脅威に向き合うことは可能だ。実はグランド・フォークス空軍基地そばには中国資本の航空機メーカー、シーラス・エアクラフトの工場がある。倒産寸前だった11年、中国の国有企業、中国航空工業集団(AVIC)が傘下に入れて救った。対米外国投資委員会(CFIUS)の監視のもと成長し地元経済に貢献している。

米政府内では、グランド・フォークスなど8つの軍施設から160キロメートル以内に外国勢が投資する際、CFIUS審査の対象とする検討が進む。国家対立の激化で経済、社会のあらゆる場面で安全保障が意識される今日の世界で、不要に差別を招かない、有効できめ細かな制度づくりと運用は大きな課題だ。重要土地利用規制法の適用を進める日本も例外ではない。』