異常な中国ロケット軍トップ交代劇、習近平はまんまと「米国の策?」に嵌ったのか

異常な中国ロケット軍トップ交代劇、習近平はまんまと「米国の策?」に嵌ったのか
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『異例の人事

7月31日、中央テレビ局が伝えたところ、解放軍のロケット軍司令官と政治委員の2トップの人事交代が行われた。軍司令官の李玉超にとって代わって、前海軍副司令官の王厚斌が新しい司令官に、南部戦区の副司令官だった徐西盛が新しい政治委員にそれぞれ就任。新任の2名は同時に、習近平主席により上将(大将)の階級を授与された。
by Gettyimages

ロケット軍は中国軍の中で、陸軍・海軍・空軍と並ぶ第四の軍種であって、核兵器や短距離ミサイル・弾道ミサイルの管轄・運用を担当する。以前は「第二砲兵部隊」だと名付けられて特殊部隊としての位置付けであったが、2015年、習近平政権の下でロケット軍に昇格した。習政権がやる気満々の「台湾併合戦争」においては、ロケット軍は言うまでもなく大変重要な役割を果たすことを期待されている。

しかし、この虎の子のロケット軍における前述のトップ交代は、実に唐突で異例なものである。更迭された前司令官の李玉超が司令官に就任したのは2022年1月。就任してわすが1年7ヵ月で首を切られたからだ。

李玉超前任の周亜寧が司令官を務めた期間は4年4ヵ月(2017年9月〜2021年12月)、周亜寧氏前任の魏鳳和氏は「第二砲兵部隊」時代の2012年から司令官となり、ロケット軍に昇格後も引き続き司令官を務め、5年以上にわたって司令官在任であった。こうして比べて見れば、就任してからわずか1年7ヵ月の李玉超前司令官の更迭は極めて異例な人事であることが分かる。

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『汚職か情報漏洩か

更迭の原因に関してはいわば「汚職説」がある。香港英字紙サウスチャイナ・モーニングポストは7月下旬に消息筋の話として、李玉超氏と副司令官ら3人が汚職摘発機関の調査を受けていると報じた。香港紙・星島日報も軍関係者の話として、ロケット軍の元副司令官の呉国華氏が7月上旬に自殺したと伝えていた。

また、海外の中国語のSNS上では、李玉超を含めたロケット軍前トップらには汚職だけでなく米国にロケット軍の機密情報を漏洩した疑いもあるという。実際、米国空軍大学(Air University)の「中国航空宇宙研究所」(China Aerospace Studies Institute)は2022年10月、255ページに上る報告書を出しそれを公式サイトで掲載したが、報告書は実は、中国ロケット軍の武器や人員の配置などに関する詳しい情報を大量に記載しているのである。それらはどう考えてもロケット軍内部の人間しか知り得ない情報であって、内部からの情報漏えいが確かにあったことの証拠である。

7月26日、習近平主席は解放軍西武戦区を視察したさい、軍に対する党の絶対的指導権の強化と軍における腐敗防止の重要性をことさらに強調し、軍に対する締め切りの強化を示唆。その直後に、習主席が自らの手でロケット軍のトップ交代人事を断行した。交代劇の背後にはやはり、腐敗や情報漏洩などの不祥事があったのであろう。』

『門外漢がトップでは

しかし今回の交代劇で最も注目すべなのはむしろ、交代に際して習主席が当てた新しい司令官・政治委員人事である。前述の通り、主席がロケット軍の新しい司令官に任命したのは前海軍副司令官の王厚斌、新しい政治委員に任命したのは南部戦区の前副司令官徐西盛である。問題は、両氏ともはロケット軍で勤務した経歴は全くなく、専門性・技術性の高いロケット軍の運用には全くの無知識・無経験である点だ。

特に司令官の王厚斌の場合、ロケット軍司令官となった以上は今後、いざとなるときに作戦全体の指揮をとる立場であるが、海軍一筋で畑違いの彼はロケット軍の作戦指揮を取れるはずもない。

今までのロケット司令官人事を調べてみれば、魏鳳和・周亜寧・李玉超の三代の司令官は全員、解放軍入隊の時点から第二砲兵部隊に入り、数十年間の経験と実績を積んで叩き上げの司令官になった。しかし今、海軍出身の畑違いの司令官がロケット軍に君臨したのはまさに前代未聞の異常事態である。

それでも習主席があえてこのような唐突な人事を断行した理由はどこにあるのか。』

『習近平の信用を失った

一つ考えられるのは、習主席は今のロケット軍上層部全体に対して強い不信感を持つことだ。ロケット軍の将校集団を全く信用していないからこそ、現役の副司令官などの生え抜きのロケット軍上層部から司令官・政治委員を起用しないのであろう。

もう一つの可能性として考えられるのは、習主席が新しい司令官・政治委員に託した任務はロケット軍の運用でなく、むしろロケット軍に対する大粛清運動の展開ではないのかだ。「粛清」が仕事しだからこそ、新しい司令官と政治委員はロケット軍の運用に対して知識や経験を持つ必要は全くないし、ロケット軍軍との癒着の全くない別軍種の人間こそはこの任務の担当に最適であろう。

もしこのようなことであれば、今後の一定の期間においては粛清運動の展開に伴ってロケット軍内部で様々な混乱が生じてきて機能不全に陥っていく可能性は大である。軍の通常の運営に大きな支障が来たすのはもとより、戦時体制へ向かっての諸般の準備は円滑にいかないし、戦争の遂行能力は大幅に落ちいるのであろう。

たとえ「大粛清」は無しにしても、最高統帥の習主席がロケット軍に対する不信感が強く、「畑違い門外漢」の司令官が軍を率いる状況下では、ロケット軍は軍としてまともに戦えるとは思わない。ロケット軍の生え抜きの幹部たちが「門外漢司令官」に対して面従腹背の姿勢をとるのは必至のこと、いわば一心同体の連携関係は最初から成り立たない。このような軍は、一体どうやって戦うのだろうか。』

『わざとなら米軍の高度な離間策

そして、ここに出でくる非常に重要なポイントはすなわち、対台湾軍事侵攻に絶対不可欠なロケット軍がこういう状態となっている間には、習政権の企む台湾侵攻は事実上不可能となっていることだ。このような異常状態がどれほど続くかは分からないが、少なとも今から1年か2年内には、習政権による台湾侵攻戦争の発動はかなり難しいと思われる。

問題は、台湾併合を成し遂げること3期目政権の至上命題として掲げている習主席は一体どうして、虎の子のロケット軍を「戦えない軍」にしてしまう愚挙に出たのかであるが、ここで想起すべきなのは、前述において取り上げた、米国空軍大学の研究所が中国ロケット軍の武器や人員の配置などに関する詳しい情報を大量に記載している報告書を公開したことである。

そこで浮上してきた一つの可能性はすなわち、米国政府と米軍はわざと、自分たちが中国ロケット軍の機密情報を大量に把握していることを明らかにして、習主席をロケット軍に対する強い不信感を持つよう誘導したのではないか、とのことである。つまり、習主席を疑心暗鬼に陥れた上で、習主席の手を借りて中国のロケット軍潰しを謀ったのは、まさに米軍の展開した高度な離間術なのである。

それはもちろん、何の確証も持たない筆者自身の推測であるが、こういった可能性は全くないわけではない。現に、習主席が行った前述のような不可解なトップ交代人事によって、中国のロケット軍は当分の間には、「戦えない軍隊」となっている訳である。

いずれにしても、このような事態は言うまでもなく、台湾と台湾海峡の平和と、日本の平和にとっての大朗報である。 日米同盟と西側陣営、そして台湾はこの時期を利用して抑止力の増大に努めるのが良いと思う。』