米国、対中投資を厳しく制限 半導体・AIで大統領令

米国、対中投資を厳しく制限 半導体・AIで大統領令
資金の流れ分断、軍事転用に歯止め
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN093B10Z00C23A3000000/

『【この記事のポイント】

・米国企業や個人の対中投資を広範に制限へ
・半導体・量子・AI分野で軍事転用封じる狙い
・米国の対中規制一段と。資金の流れにも網

【ワシントン=飛田臨太郎】米政府は9日、米国の企業・個人による中国への投資を規制する新制度を導入すると発表した。先端半導体や人工知能(AI)、量子技術を対象にする。政府に届け出を義務付け、中国の軍事開発などに結びつく案件は禁じる。米国の対中規制がモノだけでなく、カネの流れにまで発展した。

【関連記事】米国の投資規制に中国反発、対抗措置検討も示唆

M&A(合併・買収)やプライベートエクイティ、ベンチャーキャピタル、合弁事業などによる中国への新規投資を対象にする。米国内だけでなく、全世界の米国人に適用する。

市場への混乱を抑えるため、上場投資信託(ETF)や公募証券、米国の親会社から子会社への資金移動などは除外する方向で検討している。

半導体はスーパーコンピューターなどの高度技術の開発につながる先端分野は投資を禁じる。比較的、先端ではない分野でも届け出を義務付ける。先端半導体は2022年10月に人材も含めて輸出禁止措置を導入した。モノやヒトに加えて、カネの流れも制限する。

量子技術は原則認めない見通しだ。AIは軍事技術やスパイ活動に使用されうる技術が届け出の対象になる。投資禁止も検討する。

バイデン米大統領が大統領令に署名した。新制度は米財務省が米商務省と協議しながら運営する。財務省は調査する権限を持ち、違反した企業・個人に罰則を科す。45日間、産業界から意見を募った上で決定する。

米政府には外国企業からの国内投資を審査する仕組みがある。省庁横断の対米外国投資委員会(CFIUS)が届け出を精査し、安全保障上の脅威とみなせば阻止する。

対外投資では広範な分野を対象に規制する仕組みは初めて。中国の軍事関連の特定企業を対象に株式投資を禁じる措置はトランプ前政権から導入している。

法律事務所エイキン・ガンプ・ストラウス・ハワー・アンド・フェルドによると、当局が対外投資を審査する権限を持つのは台湾などにとどまる。世界最大の経済大国である米国が資本移動を規制するのは極めて異例だ。

バイデン氏は連邦議会に書簡を出し「(中国は)無形の利益を含む米国からの対外投資を悪用している」と述べた。「軍事的優位性を獲得する目的で、世界の最先端技術を取得・転用し、民間部門と軍事部門の壁をなくしている」と指摘した。

米国は主要7カ国(G7)などの同盟国に同様の措置を創設するよう求める。欧州連合(EU)は対中国を念頭に、先端技術に関する域内企業の対外投資規制を検討中だ。日本政府も判断が迫られる。

駐米中国大使館の報道官は日本経済新聞に「繰り返し深い懸念を表明しているにもかかわらず、米国は新たな投資規制に踏み切った。中国は非常に失望している」と述べた。「中国は情勢を注視し、我々の権利と利益をしっかりと守っていく」と強調した。

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今村卓
丸紅 執行役員 経済研究所長
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分析・考察

3分野限定は、サリバン大統領補佐官らがいうスモールヤード・ハイフェンス、規制対象を絞った厳重管理の方針に沿います。根本の原因は中国の軍民融合、米国の国家安全保障上やむなしとバイデン政権は国内外に説明すると思います。それでも政権には対中投資規制は苦渋の判断だったはず。導入間近という観測の浮上から実施までの長い時間、大統領令での実施が物語っています。中国の猛反発と報復で「管理された競争」が崩れる恐れ、規制対象業種の反対と働きかけが政権を慎重にさせ、一方で超党派で対中強硬姿勢の議会と中国嫌いの米世論は政権に圧力。最後は来年秋の大統領選への影響を計算したバイデン氏が政治判断を下したのでしょう。
2023年8月10日 8:37

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中林美恵子
早稲田大学 教授
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貴重な体験談

かつて中国の胡錦濤政権時代、「日米貿易摩擦から教訓を学ぶ」ことに力を入れた大学がチラホラあった。私も随分前に学生向けに講義を頼まれたことがある。その頃私が強調したのは、日米貿易摩擦は米中間貿易関係と根本的に違うということだった。日米は同盟国であり、民主主義の価値観を共有し、さらに日本は何と「自主規制」を中心に当初から摩擦に対処してきた。当時の中国は経済大国ではなく、米国も民主化の望みを持っていたが、それでも日米貿易摩擦とは根本的に違ったのだ。ましてや今の中国に日米貿易摩擦が参考になる由など、皆無に近い。今後も米中の溝は深まる一方だろう。共産党と習近平体制がもたらした国際的災難といえる。

2023年8月10日 9:54 (2023年8月10日 11:35更新)
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青山瑠妙
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 教授
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ひとこと解説

アメリカの対中規制はモノからカネに拡大している。今回の新制度は、日本を含めた関係国との調整、そしてアメリカ国内でパブリックヒアリングもあり、実行に移すまで一、二カ月の猶予があるとみられている。しかし、EU諸国も中国への投資制限の方針を打ち出しており、イエレン米財務長官が訪中の際に事前に中国にも通告しているので、中国への投資を規制するという大きな流れは確実であり、変わることはないであろう。
2023年8月10日 9:25

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前嶋和弘
上智大学総合グローバル学部 教授
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ひとこと解説

デリスキングは「デカップリングの精緻化」を言い換えただけ。リスクが少ないものの流れは止めず、経済安保関連の対中規制はこれからも長期間にわたって強化されていきます。
2023年8月10日 7:22 (2023年8月10日 7:23更新)

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柯 隆
東京財団政策研究所 主席研究員
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分析・考察

専門家の一部は、米中のディカップリングではなく、ディリスキング(リスクの低減)と指摘している。果たしてそうなのか。個人的にバイデン政権はディカップリングしながら、リスクを低減することを図っているのではないと思われる。民政ビジネスは安全保障に痛くも痒くもないので、制裁されないが、少しでも軍事転用できるデュアルユースの産業あるいは技術はますます厳しく制裁される。この点はかつての日米貿易摩擦と根本的に異なることである
2023年8月10日 7:13 』