ロシア通貨ルーブル、侵攻直後以来の安値 インフレ響く

ロシア通貨ルーブル、侵攻直後以来の安値 インフレ響く
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR084EW0Y3A800C2000000/

『ロシアの通貨ルーブルの下落基調が止まらない。対ドルでウクライナ侵攻直後の2022年3月下旬以来の安値水準で推移する。侵攻の長期化による戦費拡大で財政悪化への懸念が高まっているほか、国内のインフレ基調に歯止めがかかっていないことが要因だ。

ルーブルの8日の対ドル相場は1ドル=96ルーブル前後で推移する。原油価格の下落などを背景に年初から徐々に水準を切り下げていた。6月下旬にはロシアの民間軍事会社ワグネルによる反乱が発生。国内の混乱懸念から7月には90ルーブル台にまで下がっていた。

戦費が一段と拡大し、ロシア財政への重荷が増すとの見方が強まっている。ロイター通信は4日、ロシアが侵攻の長期化による戦費膨張で23年の国防予算を見直し、9兆7000億ルーブル(約14兆4000億円)に倍増させたと伝えた。

足元の財政赤字は高止まりしている。ロシア財務省が7月に発表した1〜6月の財政収支は、戦費拡大などの影響で歳出が前年同期比20%増えた。

一方、主要7カ国(G7)など欧米諸国の経済制裁が響き、歳入の柱である石油・ガス収入は47%減少した。財政赤字は約2.6兆ルーブルの赤字と1〜5月に比べやや縮小したものの、政府の年間想定(約2.9兆ルーブル)に迫る水準となっていた。

侵攻から1年半近くが経過しても、ロシアのインフレ基調に歯止めがかかっていないことも通貨安につながっているもようだ。

ロシア中央銀行は7月、23年の年間インフレ率を5.0〜6.5%に見直し、インフレ見通しの下限を0.5ポイント上方修正した。22年2月24日の侵攻開始後に欧米諸国の経済・金融制裁を受けて物価上昇が進み、同年のインフレ率は11.9%だった。

政府は景気下支えに向け、道路や地下鉄などのインフラ投資を進める。この結果、国内需要の増加や人手不足が起きた。

ロシア中銀のナビウリナ総裁は7月21日の声明で「物価上昇圧力が強まっている」と述べた。国内需要の増加に伴う輸入増が通貨安につながっているとも指摘した。ロシアは中国などからの輸入を増やしており、経常黒字の縮小が通貨安につながった面もある。

ロシア中銀のナビウリナ総裁=ロイター

中銀はインフレ抑制のため、7月に政策金利を1%引き上げ、年8.5%とした。利上げは侵攻開始直後以来で、次回以降の会合で政策金利をさらに引き上げる可能性も示唆している。
インフレ圧力はなお続く。ロシアの失業率は過去最低水準の3%台前半で推移している。22年9月に発令された部分動員令では約30万人の予備役を動員した。侵攻が長期化すれば人手不足が一段と強まり、賃金を通じ物価が上昇しやすい。

ロシア政府は税収増に向けた対策を打ち出している。エネルギーなどを除いた大企業の超過利益に追加課税する超過利潤税を課すことを決めた。ただ、財政悪化の懸念は根強い。』