見えてきた日銀正常化の順序 住宅ローン金利はこう動く

見えてきた日銀正常化の順序 住宅ローン金利はこう動く
金融PLUS 編集委員 清水功哉
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD044SJ0U3A800C2000000/

『10年にわたった日銀の異次元金融緩和が仮に終わるならどんなプロセスを経るのか――。その姿が徐々に見えてきた。日銀で異次元緩和の立案・運営・決定に深く関与してきた内田真一副総裁が、2日の講演・記者会見で3段階に分けて説明したのだ。

もっとも、内田氏は物価情勢の不確実性の高さにも触れており、緩和政策の出口が近いという情報発信をしたのではない。「3つに分けて説明したが、マイナス金利の扱いというのはまだ先の話」(同氏)という。

出口は遠くても頭の整理は必要

ただし、異次元緩和解体の順序について従来より明快な説明がなされた事実は意味を持つ。頭の整理を始められるようになるからだ。多くの人にとって気になるのは、その過程での住宅ローン金利の動きだろう。影響が大きいだけに、内田氏も「住宅ローンを含めた家計や企業の状況については注意深くみていきたい」と述べた。以下、住宅ローン金利がどうなるかを考える。

まず内田副総裁が言及した3段階のプロセスは以下の通りだ。

第1段階が、2%物価目標の持続的・安定的な実現がまだ見通せない局面、つまり今の状況である。長短金利操作政策の副作用を軽くして、政策の持続性を上げる対応を必要に応じて手掛けている。7月28日に決まったのもそうした措置だ。

第2段階は、2%目標の実現を見通せるようになったときだ。日銀は長期金利(10年物国債利回り)の特定水準への誘導(長期金利操作)をやめる可能性が出てくる。あるいはその枠組みを当面維持しつつ、金利誘導水準(今はゼロ%程度)を上げるかもしれない。

第3段階は「引き締めが遅れて2%を超えるインフレ率が持続してしまうリスクの方をより心配する状況」である。焦点は長期金利から短期の政策金利(今はマイナス0.1%)の扱いに移り、後者をゼロ%に上げるマイナス金利政策解除が議論になり得る。同政策をやめても「心配」が消えなければ、ゼロ金利政策の終了も課題になる。

各段階で住宅ローン金利はどう動くのか。

第3段階で変動型金利上昇の可能性

まず基本的な事項の確認だ。住宅ローンは固定金利型と変動金利型に大別できる。前者の金利は長期金利に左右され、後者のそれは日銀の短期の政策金利の影響を受けやすい。長期金利が変化する要因のひとつは短期金利が将来どうなるかの予想だから、固定型の金利は変動型の金利に先行して動く傾向がある。

上述した通り、今は内田氏が触れた3つの段階の第1段階だ。日銀は長期金利の上向きの動きを徐々に自由にする政策修正を重ねており、固定型のローン金利は上がりうる。ただ変動型の上昇は普通考えにくく、新規で借りる人の大半は金利の低さに魅力を感じ変動型を選んでいる。

第2段階になり、日銀が長期金利の操作をやめるなどすれば、長期金利はさらに上がりやすくなり固定型金利も連動しそうだ。だが、変動型の金利は依然影響を受けにくいだろう。

人気を集める変動型の金利が上がる可能性があるのは、短期の政策金利が上がる第3段階だ。そこで何が起きるかを考える際に頭に入れておくべき事項がある。変動型ローンには基準金利があるが、今はそれで貸すのは一般的でない点だ。基準金利から優遇幅を差し引いた金利(適用金利)で貸すのが普通なのだ。優遇幅は原則当初借りたときの水準が維持されるため、既に借りている人の適用金利は基準金利が動かない限り影響を受けにくい点も知っておいてほしい。

では第3段階でマイナス金利政策が解除されたときに変動型のローン金利はどうなるのか。既に借りている人の適用金利は上がらないケースが多いとの予想がよく聞かれる。16年のマイナス金利政策導入時に基準金利を下げない銀行が目立ったため、同政策が解除されても基準金利引き上げは広がりそうにないというのがその理由だ。

ただし新規に借りる人の適用金利には一応注意が必要だ。競争環境が厳しいため簡単には上がらないという声をしばしば聞くが、優遇幅を縮小し適用金利を上げる銀行も出てくるかもしれない。

影響大きいのはマイナス金利よりゼロ金利の解除

大きな影響が出そうなのはゼロ金利政策解除時だ。変動型の基準金利も上がりそうであり、既に借りている人の適用金利も上がるだろう。

となると、重要なのはゼロ金利解除の可能性がどの程度あるかだが、すぐにはないとの見方が多い。エコノミスト予想を集計したESPフォーキャスト調査(7月、回答数36)で、2023年末までにゼロ金利が解除されているとの予想は2人、24年末まででも7人にとどまった。

また日本経済の実力(潜在成長率)がゼロ%台前半(日銀推計値)にとどまることを考慮すれば、仮にゼロ金利解除があっても、その後の政策金利の引き上げが大幅なものになる展開は現時点の中心的なシナリオとしては想定しにくい。

こう考えると、人気が高い変動型ローンの利用者は、すぐに金利が大きく上がってしまうことをあまり心配しなくていいようにも見える。

とはいえ、経済には何が起きるか分からないのも事実。適切な時期に変動型を固定型に切り替えて金利上昇リスクを消すのもひとつの考えではある。切り替え時に変動型より金利は高くなるだろう。最終的に総返済額も膨らみ「損」をすることもあり得る。ただ一方で、金利の想定外の変化を心配しなくてよくなり、生活設計を立てやすくなるメリットもある。

なお、第3段階で短期の政策金利が上がる直前に固定型金利に切り替えようと考える人もいるだろうが、その時に固定金利はそれなりの高さになっているかもしれない点に要注意だ。グラフは日銀のゼロ金利解除があった06年7月の前後などに、変動型と固定型(当初10年の金利が固定されるタイプ)の金利がどう動いたかを示す。両者の関係は単純でないものの、固定型が変動型に先行して上がる傾向が一応見てとれる。

いずれにせよ、住宅ローン利用者は物価情勢や日銀金融政策の動向に十分に注意を払った方がいい。

植田日銀 こう動く・こう変わる (日経プレミアシリーズ)
著者 : 清水功哉
出版 : 日経BP 日本経済新聞出版
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白井さゆり
慶應義塾大学総合政策学部 教授
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ひとこと解説 先進国のインフレをみるとコアインフレ率がさがりにくい状況が続く。地政学リスク対応で生産拠点が分散化するとさらにコスト高となり物価はあがりやすくなる。最近の原油高も気になる。日本ではまだ原材料価格高騰の転嫁が続いているが、団塊の世代が近く75歳以上となり人手不足の深刻化で賃金が上昇しコストプッシュ的なインフレが継続する可能性がある。円の過小評価も金利差から継続するかもしれない。となるとデマンドプルでなくてもインフレが続き、2%程度のインフレが見通せるため正常化が進む可能性もあるかもしれない。金利が上昇する可能性は意識しておいたほうがよいでしょう。下記のコラムを参考にしてください http://www.world-economic-review.jp/impact/article3053.html 

2023年8月7日 6:11 (2023年8月7日 6:12更新)
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永浜利広のアバター
永浜利広
第一生命経済研究所 首席エコノミスト
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分析・考察 植田体制になって日銀はフォワードガイダンスに賃金を盛り込みました。
そして、日銀は2%の物価目標を念頭に置き、名目賃金上昇率は3%、つまり実質賃金が1%上昇する姿が理想であると説明してきています。
このため、現時点で+2%台である名目賃金が+3%かつ現時点で14カ月連続マイナスの実質賃金が安定して+1%を上回る状況を見通せないと「デフレ脱却」とは言えないでしょう。
このため、少なくとも来年の春闘の結果が賃金に反映されるまでは金融緩和の出口には向かえないのではと考えます。
2023年8月7日 7:32いいね
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