歴史的な役割を終えたショッピング・モール
http://blog.livedoor.jp/goldentail/archives/32133905.html
『 古い映画ファンならば、ジョージ・A・ロメロ監督の名前を、ご存知でしょう。数年前に亡くなりましたが、現在のゾンビ映画の原型を作った監督です。彼が製作した「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は、今でも名作とされています。「ああ、ホラー映画? ゲテモノじゃん」という方には、ちょっと視点を変えて欲しいところです。彼は娯楽のパッケージとしてのホラーという枠を借りて、実に革新的な事と社会批判的な作品を作り続けた監督です。
まだ、白黒映画の時代に撮られた「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は、当時、とても珍しかった黒人を主人公に据えています。それも、道化としてではなく、登場人物の中で一番理性的に行動する人物として描かれています。そして、実に理性的に立ち回った結果、衝撃的な最後を迎える事になるのですが、この辺りは南部のトレンドではない、ガチの人種偏見を描いています。そして、大きな予算を貰って、本格的にエンタメ作品として作り上げたのが、和題で「ゾンビ」、原題で「ドーン・オブ・ザ・デッド」という作品です。
この作品の解釈は、色々と取れるのですが、舞台は当時、アメリカで大流行していた巨大なショッピング・モールです。多種多様なテナントと娯楽設備で構成された、複合施設ですね。破竹の勢いで、アメリカの郊外に建設され、どこも賑わっていたのですが、今は見る影もありません。ここで、ロメロ監督がゾンビとして描いたのは、消費に取り憑かれて、何も予定がないのに、ショッピング・モールの「陽気」を目的にして、集まる消費者達です。ロメロ監督にとって、ゾンビは何かしらの批判対象の犠牲になって、意思を無くして、盲目的に求める餓鬼みたいなものなのです。なので、同じゾンビ映画でも、撮った時代によって、象徴するものが変わります。
ショッピング・モールという施設は、アメリカ人の消費行動を変えたのです。買い物というのは、明確や目的があってするものではなく、何の予定が無くても、何となく集まって、何時間も過ごす行為になりました。多くの人がいて、楽しい音楽、日替わりのイベント。そこには、「陽気」が常にあります。それを浴び続ける事で、何となく気分がアガるのを楽しむ行為になりました。それを、消費文化に溺れた無目的な集団として捉えて、ゾンビとして描写したのが「ドーン・オブ・ザ・デッド」です。
ちなみに、2007に製作された「ダイアリー・オブ・ザ・デッド」という作品では、Youtuberも槍玉にあげています。ビデオカメラ越しに写るモノを記録し、拡散され、視聴される事に取り憑かれた主人公が、ゾンビ・パンデミックが始まって、目の前で友人が襲われそうになっているのに、カメラを手放す事ができず、「今、起こっている事を記録するのは、僕に課せられた歴史的な使命だ」というなぞの使命感に支配されて、傍目には実に薄情な行為を繰り返すという皮肉に満ちた作品です。
という風に、ロメロ監督の描くゾンビは、皮を借りただけの社会批判映画だったりします。映像作品として売る為に、ゾンビ映画というフォーマットを利用していますが、描きたい本質は単にグロ描写や娯楽としてのホラーだけでは、ありません。
80年代には、社会批判の対象として映画作品に描写される程、隆盛を極めたショッピング・モールですが、その多くが衰退し、平均で資産価値が最高値から70%も下落しています。閉鎖したモールも、負債を抱えた状態で手仕舞いしたところが多く、立地は集客を考えて、良い場所を押さえているので、今では、Amazonが買い取って、物流センターとして使用しています。モール衰退の大きな原因の一つが、オンライン・ショップの普及ですから、これは象徴的ですね。
もともと、アメリカのショッピング・モールの衰退は、今に始まった事ではなく、2018年辺りから、シアーズ、JCペニー、メイシーズ、ボントンと言ったモールの旗艦店・モールが建設される以上、必ず出店していた大型チェーン店が撤退を始めた時から、加速しています。末期の、この手の店の営業状態は、悲惨なもので、ギリギリの人数の従業員で店を回していたので、ダンボールに入ったままで、商品を並べたり、什器には埃が溜まり、とても「楽しい買い物を演出」する余裕など無くなっていました。まさに、スーパーのバーゲン売り場並の乱雑さです。これでは、ウィンドウ・ショッピングどころの話ではなく、ネットで綺麗に装飾された商品画像を見ていたほうがマシです。余裕が無くなると、モールに満ちていた陽気の魔法も無くなったわけです。
ここへ来て、再び話題になっているのは、前に何回か投稿記事にした事がある「急激なアメリカの政策金利の利上げによる借り換え危機」が原因です。こういう大型施設は、短期の借り入れを繰り返して、負債を返却するのが普通なのですが、2年でゼロ金利から5%超えまで政策金利が上がったので、恐らく借り換えする事ができないオーナーが大量に出ると言われています。これは、オフィス・ビルのオーナーも同じです。規模の大小や資金の多少はあっても、借り入れのあるオーナーにとって、この借り換えを乗り切るのは、並大抵の事ではありません。なので、投げ売りが起きています。
インフレ対策として政策金利を引き上げているので、これは6月の頭に起きた複数の中堅銀行の破産も含めて、覚悟の上でやっているのですが、さすがに経済に冷水を浴びせ続けているので、そろそろ、周りのアメリカを見る目も変わっています。つい、先日、格付会社のフィッチが、アメリカ国債の評価を、AAAからAA+に引き下げました。世界の3大格付け会社のうち、アメリカ国債の評価を引き下げたのは、スタンダード&プアーズに続いて2社目です。ムーディーズだけが、未だにAAAです。引き下げた直接の原因は、アメリカの財政悪化懸念ですが、言い換えれば経済の停滞と言う事です。
ISM製造業景況感指数が、何ヶ月も50を下回り、製造業が不調な事は、以前の記事で解説しましたが、実はサービス・販売業も、好調ではありません。今まで、数字が悪く無かったのは、インフレで、モノに対してドルの価値が下がっているので、駆け込みで消費が旺盛だったからです。その原資は、武漢肺炎で、大量にバラ撒いた支援金ですね。そして、先日の記事で書いたように、10月には多くのアメリカ市民は使い切ってしまいます。その後には、反動で消費の低迷が起きるはずです。
アメリカ国債の格下げは、一つの象徴です。何しろスンダード&プアーズが初めて格下げするまで、最上級評価でなかった事が歴史上無かったのですから。それが、2社に増えたという事です。まぁ、行政担当者は、カンカンに怒ってますが、火の無いところに煙は立たぬと言いますから、イエレン財務長官の言うように「評価は恣意的で、不当なものだ」というポジション・トークを、信じるわけにもいかないところに来ています。
』