インド、係争地域カシミールに「戦略インフラ」の鉄道橋

インド、係争地域カシミールに「戦略インフラ」の鉄道橋
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB24AYL0U3A720C2000000/

『インド北部カシミール地方で建設が進む鉄道橋の開通が近づいている。パキスタンや中国との国境近くにある係争地域との往来をしやすくする戦略的なインフラとの位置づけで、農産物の輸送や軍の移動に要する時間は現状の5分の1程度になる見通し。現地のイスラム系住民からは政府の統制が強化されるとの懸念の声も出ている。

インド鉄道省によると、15年かけて建設作業を進めてきた「チェナブ鉄道橋」は12月末から来年1月の…

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『最大の特徴は立地だ。同橋は領有権についてパキスタンと長年にわたって対立しているカシミール地方に位置するだけでなく、国境をめぐって中国と緊張関係にある北部ラダック地方へ接続する交通上の要衝となる。

「軍事力においても、地域の商取引・観光においても(チェナブ鉄道橋は)まさにゲームチェンジャーになる」。元インド軍幹部のD・S・フーダ氏は指摘する。カシミール地方の住民がリンゴやその他商品を輸送するのに役立つと同時に、インド軍が部隊や装備を迅速に移動させる手段にもなるという。

カシミール地方のうち、インド側支配地域の主要都市スリナガルへとつながる主要な高速道路は現在1本しかない。ただこの道路は大雨や土砂崩れの影響を受けることが多く、民間車両や軍車両の通行をしばしば阻んできた。フーダ氏は「高速道路が不安定になりやすい冬場にも活躍するだろう」と鉄道橋の開通に期待を寄せる。

同じく元インド軍幹部のアムリット・パル氏は、鉄道橋の完成により、12〜16時間かかっていたジャムとスリナガルの北部2都市間の移動が「3時間で済むようになる」と説明する。

この地域では交通インフラに対する攻撃の前例があり、この橋は構造の頑丈さにも気を配る。厚さ63ミリメートルの特殊鋼やコンクリート製の柱で爆発に耐えるほか、マグニチュード8の地震にも動じない設計にしてあるという。

6月には橋の上で「国際ヨガの日」の関連イベントが開かれるなど、すでにインド国内の関心は高まっている。一方、現地のイスラム教住民からは、この橋の開通を警戒する声も聞かれる。ヒンズー教が多数派を占めるインドにあって、この橋は中央政府の統制強化につながりかねないという。

実際、インド政府は2019年にカシミール地方の自治権を撤廃している。米シンクタンク、ウィルソンセンターのマイケル・クーゲルマン氏は、インド政府から見ればこの橋の完成は明らかに安全保障の強化につながると指摘する。「カシミールの多くの人々の観点からすれば、憂慮すべき動きともいえる」という。

(寄稿 ニューデリー=クラトゥライン・レーバー)』