新興国「ドル依存はリスク」 地域通貨や人民元シフトも
揺らぐドル1強(1)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN150AP0V10C23A7000000/
『7月4日、南米3カ国が国境を接する大瀑布(だいばくふ)、イグアスの滝からの轟音(ごうおん)が聞こえるホテルに南米の首脳が集まっていた。ブラジル大統領のルラが高らかに宣言する。「我々の国と国の間は共通通貨で決済しよう」
南米一の経済大国、ブラジルと2位のアルゼンチンは1月、両国間の共通通貨構想を発表していた。ルラは「なぜ(貿易決済で)自国通貨でなく、米ドルを使用すべきなのか?」と貿易決済のドル1強…
この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。』
『アルゼンチンをはじめ左派政権が多い南米では、ルラの呼びかけに同調する向きも目立つ。
この日集まったのは、関税を優遇し合う「メルコスル(南米南部共同市場)」を構成するウルグアイとパラグアイを交えた4カ国首脳らだ。ルラは南米各国を巻き込んだ共通通貨の創設にも意欲を示している。
国際決済銀行(BIS)によると、外国為替市場で米ドルを絡めた取引が全体に占める割合は2022年4月時点で44.2%と他を引き離す。
第2次大戦後にドルを基軸通貨とする「ブレトン・ウッズ体制」が確立し、ニクソン・ショックを経てもドルは貿易の中心にとどまってきた。空気を変えたのはロシアのウクライナ侵攻だった。新興国では過度なドル依存を修正する動きが相次いでいる。
米財務長官のイエレンは「(ロシアに対する)米国の厳しい制裁がドルの国際的覇権を弱体化させつつある」と漏らす。ロシアが保有していたドルの外貨準備が問答無用で凍結されたのを目の当たりにし、有力な新興国ほど、超大国の通貨や決済システムに身を預けるリスクを敏感に察知している。
サウジアラビア財務相のジャドアーンは1月、石油取引でドル以外を決済通貨に用いることに「オープンだ」と述べた。東南アジア諸国連合(ASEAN)は3月末、米ドル依存からの脱却に向け、域内決済で地域通貨の使用を促進するタスクフォースの設置に合意している。
インド準備銀行(中央銀行)は22年7月、自国通貨ルピーによる国際貿易決済を認可した。23年3月までに、英国やロシアなど18カ国の金融機関のルピー決済用の口座開設が承認された。同行副総裁のラビ・シャンカルは「他国も注目している」と、ルピー決済の拡大に自信を見せる。
虎の子のドルを減らさないために人民元決済を導入する国も現れた。年率100%を超えるインフレに悩まされるアルゼンチンは4月、中国からの輸入品決済に人民元を導入した。4〜5月の輸入に占める人民元決済の比率はすでに19%に達している。
家電製造・販売のニューサンは4月以降、中国からの電気製品や部品の輸入決済を人民元に切り替えた。最高経営責任者(CEO)のルイス・ガリは「人民元は国際貿易通貨として重要性を増している」と持ち上げるものの、アルゼンチン政府の思惑は別にある。
基軸通貨としてのドルの地位が音を立てて崩れたわけではない。世界各国が保有する外貨準備に占める米ドル建ての比率は23年1〜3月期時点で59%。ユーロ(19.8%)や円(5.5%)、人民元(2.6%)など他通貨を大きく引き離す。
とはいえ、7割を超えていた2000年前後と比べればシェアは10ポイント以上低下した。「1強」は揺さぶられている。ドルの価値を米国が自ら傷付けかねなかった騒動も記憶に新しい。
米国債は6月、政府債務の上限をめぐって債務不履行(デフォルト)の危機に立たされた。最悪の事態を招いていれば各国が保有する米国債は暴落し、ドルの信用も失墜する瀬戸際だった。
債務上限の効力を一時的に停止した時限立法の効果は25年1月に切れる。24年秋の大統領選後に発足する米国の新政権は再び、この問題の解決を迫られることになる。
ドルの威光に陰りが見え始めたことに、南半球中心の新興・途上国「グローバルサウス」は気づいている。ドルと並び得る選択肢を模索する動きが過熱する。
(敬称略)』