内実伴わぬバイデン政権の異質な貿易論

内実伴わぬバイデン政権の異質な貿易論
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/30822

『英フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのファルーハーが、6月18日付けの論説‘America is telling a very different story about trade’で、同15日の米通商代表部(USTR)のキャサリン・タイ代表の講演を取り上げ、論評している。ファルーハーは、米国は異質の貿易論を展開しており、その詳細は未だ分からないがパラダイム・シフトが進んでいる、と指摘する。主要点は次の通り。
2023年5月27日 IPEF閣僚会合での キャサリン・タイ氏(写真:ロイター/アフロ)

 パラダイム・シフトが先回起きたのは、レーガン・サッチャー時代だった。レーガンは、私企業の力と「アニマル・スピリット(野心的意欲)」を解き放つと主張した、新たなポスト・ケインズ時代の舞台を作り上げた。

 同じことがバイデン政権で進んでいる。トリクルダウン経済政策を終了したバイデンの議会演説、海外でのビルド・バック・ベター(より良き再建)に関する4月のサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)講演、「米国をUSTRに取り戻す」と宣明したタイの講演などが、新時代到来の兆候を示す。

 これらの演説は、米の政治経済の大変化になる。それには時間がかかる。貿易政策の目標につき、タイの講演から三つの結論を引き出すことができる。

 第一に、タイは、中国やロシア、多国籍企業を問わず、権力の集積を「チョークポイント(隘路)」として攻撃している。

 第二に、バイデン政権は、貿易は米の中間層(労働者)にとり良いものであることが必要だと信じ込み、伝統的な自由貿易合意を批判し、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる新協定「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」にあるような労働者の保護強化が必要だとする。その意味は、伝統的な自由貿易合意からの離脱である。

 第三に、悪魔は詳細に宿る。タイの講演には詳細が不足している。結果が明確になるまでには数年かかる。

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 ファルーハーは鋭い批判はせず一見肯定的な印象を与えるが、論説をよく読んでみると疑念の要素を含み「御手並み拝見」と見ているようだ。』

『タイは6月15日、ワシントンのナショナル・プレス・クラブでサプライチェーンの強化や伝統的貿易合意などにつき講演した。しかし報道はあまりない。USTRのウェブサイトは、この講演は4月のサリバン講演と一体を成すものだとわざわざ強調している。

 講演では今までの貿易経済政策をことごとく攻撃している。これまでの自由貿易政策は、「サプライチェーンの多様化、強靭化を図らねばならない歴史上の今の時点では意味を成さない」とまで言う。中国が問題だと言い、ロシアが問題と言い、大企業が問題だという。ファルーハーが指摘するように、権力を持つ存在が全て攻撃されている。そして労働が大事だという。正に民主党左派や労働組合の論理である。

 サリバンやタイの議論は、混乱している。あれも問題、これも問題と不満を述べるばかりに終始している。もう少し冷静に、動態的に、前向きに問題解決を考えることはできないのか。本当の問題は、中国であり、米国内経済であることを正直に認めるべきではないか。

 自由貿易やグローバリゼーションを大雑把に攻撃するからおかしな議論になる。大目的を定めた上で、交渉や国内構造転換を通じて解決していくべきではないか。タイは国内の現場訪問に時間を使っていることを自慢するが、それだけでは問題は解決しない。環太平洋経済連携協定(TPP)の価値も見えなくなるし、現実的な政策も出て来ない。
選挙モードに入るバイデン政権

 なぜ米国は今こんなことになっているのか。2024年の大統領選挙が近づき、段々政治モードに入っていることが大きいだろう。残念ながら、バイデン政権は貿易政策なくして発足し、貿易なくして終わるのだろう。

 サリバンやタイの議論には、経済学者や貿易専門家の足跡が全く見えない(レーガン・サッチャー時代のパラダイム・シフトにはサプライサイド理論の経済学者らがいた)。そのようなインフルエンサーも参加する競争力会議などを設け、国民的議論を動かしていくべきではなかったかと、残念に思われる。』